近年、日本市場でジープブランドの輸入車が好調です。本格四駆として長い歴史を持つジープですが、かつては戦略が迷走しているように見えるときもあったといいます。いったい、どのような歴史を積み重ねてきたのでしょうか。
■かつてジープにあった迷走期? 筆者が現場で感じたこと
最近、街中でジープブランドのクルマを見かける機会がずいぶん増えた、と思う人は多いと思います。実際、ジープはよく売れています。日本自動車輸入組合によると、2019年度のジープブランド販売総数は1万4186台で、前年比127.8%と大きく伸びています。
輸入車市場は、登録車や軽自動車と同じく、2019年10月の消費税アップの影響を受け、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、BMWなど定番ブランドが伸び悩んできています。そのなかでジープは大健闘だといえます。
ジープ人気の中心にいるのが、「ラングラー」です。ジープブランド販売総数のうち、約4割を占めます。
ラングラーは、いかにもジープという雰囲気の本格派四駆です。ガッシリかつ、丸目ライトでレトロさを感じるデザインのインパクトは強烈で、ボディサイズは全長4870mm×全幅1895mm×全高1840mm(Unlimited Sahara 3.6L)。しかし、実寸以上に大きなクルマに感じます。
とはいえ、日本でのラングラーユーザーの多くは、本格的なオフロード走行をするわけではありません。キャンプや釣りなど、気軽なアウトドアに出かけるためのアイテムに使っています。
いわゆる、ライフスタイル系のファッションアイテムです。だからこそ、ユーザー層が広がって売れているのです。
そんなラングラーを筆頭に躍進中のジープですが、これまで順風満帆だったわけではありません。将来に向けて、大いに迷った時期がありました。
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いま(2020年)から15年前の2005年3月。筆者(桃田健史)はニューヨーク・マンハッタンで、ジープブランドのメディア向けイベント「コンセプトモデル・ライド&ドライブ」に参加しました。
通常、コンセプトモデルはモーターショーへの展示が目的で、エンジンやモーターを搭載していない、いわゆるモックアップに近いものが多いです。なかには、簡易的なパワートレインを埋め込んで、プロモーション映像撮影のために低速で動かす場合もあります。
そんな各種コンセプトモデルを一同に集めて、実際に動かせるモノには積極的に運転してもらうという、自動車メーカーとしては画期的な企画でした。
用意されたのは、フルサイズピックアップトラック「Hurricane」、ルーフを低くしたチョッパースタイルの「Willys 2」、前席ふたりと後席ひとり乗車の小型ピックアップトラック「Treo」などです。
プレゼンでは、ジープ担当のデザイナーやマーケティング幹部が、ジープのヘリテージ(歴史)を振り返りながら、未来のジープについて語るのですが、こちらから、ジープのヘリテージについて少し踏み込んだ質問をすると「いや、その頃は私たちとジープは関係ないので」という答えが目立ちました。
■人々が求めつづけたジープブランドの本質とは
当時、ジープはダイムラー・クライスラーが扱うブランドのひとつでした。
ジープは第二次世界大戦でアメリカ政府から軍用車両の生産を要請された、Willy-Overlandが始まりです。その後、ジープは買収が繰り返され、1998年からダイムラー・クライスラーが扱うようになりました。
2005年頃のダイムラー・クライスラーによるアメ車戦略は、クライスラーブランドが「300C」などでレトロデザイン推し、またダッジブランドはハイパフォーマンス系「SRT」のラインナップの拡充が目立ちました。
一方、ジープは1990年代のチェロキーブーム以降のヒット作がなく、クライスラー・ダッジとの車体・部品共有化によるオンロード車の可能性を意識し過ぎていた印象があります。ジープのヘリテージを無理に気にして、ライフスタイル系アイテムにこじつけよう、という感じにすら見えました。
その後、2007年にダイムラー・クライスラーが米投資会社に売却され、リーマンショックを受けて2009年に事実上の倒産。その後、ジープを含めて現在のフィアット傘下となります。
こうした厳しい時期でも、ラングラーは着実に売れ続けました。
人々がジープに求めたのは、本物のオフローダーだったのです。
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現在、ライフスタイル系の人気オフローダーといえば、ラングラー、メルセデス・ベンツ「Gクラス」、スズキ「ジムニー」が代表格です。さらには、フォードが新型「ブロンコ」で相乗りしようとしています。
各モデルの共通項は、スクエア(角ばった)ボディデザインと、レトロっぽい丸目ライト。その原点は、やはりジープです。
例えばジムニーの場合、日本でライセンス生産していた三菱版のジープをイメージした、ホープ自動車「ホープスター」をスズキが引き継いだことを、当時その話を直接受けた鈴木修会長が、2018年におこなわれたジムニーのフルモデルチェンジのタイミングで話しています。
人々が、ジムニーに、Gクラスに、そしてラングラーに魅了されるのは、そこに、本格的なオフローダーとしての「機能美」があるからではないでしょうか。