2019年の東京オートサロンにスズキが出展した「ジムニーシエラピックアップスタイル」は、多くの来場者から好評でした。量産化を望む声がたくさんあったといいますが、果たして、発売される予定はあるのでしょうか。
■ジムニートラックの量産化は実現するのか?
「ジムニーシエラ」のピックアップトラックスタイルは、スズキが東京オートサロン2019に参考出品し、来場者やメディアから量産化への期待が高まった1台です。
あれから1年以上経ちますが、果たして本当に量産されるでしょうか。
ピックアップトラック仕様について、ジムニーの開発責任者は次のように話していました。。
「過去にピックアップトラック仕様があり、(そうした派生モデルに)ユーザーの要望があったことは事実です。(今回のモデルの量産化に向けては)今後、需要が明確になった場合、(生産)コストを検討することになります」
確かに、ジムニーの歴史を辿ると、1980年代から1990年代の第2世代のとき、排気量970cc直列4気筒エンジン搭載のジムニー「1000(型式SJ40)」で、ピックアップトラックを量産しています。ただ、「キャリイ」用の350kg荷台を流用したため、軽トラっぽさが目立ちます。
一方、東京オートサロン2019で公開されたジムニーシエラのピックアップトラックは、いわゆるSUT(スポーツ・ユティリティ・トラック)に属するモデルです。
SUVなら最近よく耳にする機会も多いはずですが、SUTという言葉自体は日本ではほとんど浸透していないと思います。
SUTはSUVと同じく発祥はアメリカで、1970年代から1980年代に、ピックアップトラックの荷台にアフターマーケット用のルーフをつけるという使い方がありました。また、商用バンを乗用でも使うという流れもあり、これらが融合して1990年代にSUVというカテゴリが生まれます。
ジープ「チェロキー」やフォード「エクスプローラー」、GMシボレー「タホ/サバーバン」などがSUVブームの立役者となり、その後は日系や欧州系ブランドでもSUVモデルが一気に拡大していきました。
こうした時代変化を、筆者(桃田健史)は米東部ノースキャロライナ州や米南部テキサス州に居住しながら肌で感じ、取材対象としてさまざまなSUVを試乗していました。
そんななか、定番SUVモデルから派生車としてSUTが生まれます。
SUVは、仕事や買い物、家族との遠出など、オールマイティにこなせることが商品価値です。対して、SUTは従来のSUVに比べて、遊び感覚やファッション感覚に振った商品イメージがあります。ピックアップトラックと比べれば当然、荷台は小さく、利便性は落ちます。
代表的なSUTは、フォード「エクスプローラー・スポーツトラック」で、若い世代から人気を集めました。
GMでは、シボレー「タホ/サバーバン」派生の「アバランチ」と、その高級モデルでキャデラック「エスカレードEXT」がありました。人気はいまいちで、テキサスの生産現場も取材しましたが、工場関係者もあまり乗り気でなかった印象があります。
■ピックアップスタイルはジムニーの自然な姿だった
日本メーカーのSUTでは、スバル「バハ」と、ホンダ「リッジライン」の2モデルが挙げられます。
バハは、カリフォルニア南部からメキシコにかけてのバハでおこなわれるダートレースの雰囲気と、サーファーのイメージを融合させました。
北米スバル本部からの強い推しで商品化されましたが、スバルは当時マイナーブランドで、ベース車「レガシィランカスター(アウトバック)」の認知度が低く、その派生車の販売台数は限定的でした。
リッジラインも、スバルと同様に北米営業本部が主導で導入したモデルです。トヨタや日産がV型8気筒エンジン搭載のフルサイズピックアップトラックに参入するなか、ホンダ社内でV型8気筒導入案が消え、既存のV型6気筒エンジンを使い、他社と商品の差別化が図れるアイディアとして、SUVの「パイロット」派生のSUTとなったものです。
このほかでは、ハマー「H2 SUT」とハマー「H3T」が登場したことで、SUTの市民権が得られるかと思いましたが、リーマンショックでGMが事実上の倒産となり、ハマーだけではなく、SUT市場全体が北米市場から一気に姿を消しました。
現在、日本車ではダイハツ「ハイゼットカーゴ デッキバン」が、SUTのテイストが少しありますが、世界市場で見るとSUTは10年以上前に“終わったブーム”です。そんな昔のブームを、ジムニーがなぜいま頃になって引き出してきたのでしょうか。
そもそも、初代ジムニー(LJ10)はルーフのない、オープンスタイルのクルマです。ルーフの代わりに幌が用意されていました。
ハードなルーフがついたモデルは、ジムニーバン(LJ20)と呼ばれます。見方はいろいろあると思いますが、ジムニーはこの時点でSUVである、と考えることもできます。
2代目(SJ30)になると、ハードルーフのモデルが主力なっていきます。そのなかで、前出の「1000ピックアップ」が生まれました。
3代目(JB23)は乗用ライクな商品イメージに転向。現行型の4代目は、初代や2代目など、ジムニー初期への原点回帰を掲げたモデルです。
このように、初代と2代目には、そもそもSUTのエッセンスがあるのですから、「ジムニーシエラ・ピックアップトラックスタイル」はジムニーにとっての自然な姿なのだと思います。
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唯一無二の、小型本格派四駆であるジムニー。SUT派生車の登場に期待が高まりますが、量産はいつ頃の可能性があるでしょうか。
量産の条件として、ジムニー開発担当者が指摘したのは「お待ちいただいているお客さまにお届けすることが先決」という点です。
現状で、ジムニーの納期は約1年といわれています。最近の受注状況を見ると、私見ですが、あと2年から3年たてば、納期がある程度の長さで落ち着くのではないでしょうか。
そうなれば、ジムニー生産をおこなう静岡県湖西工場で、ジムニーSUTを流す余裕が生まれるかもしれません。