最近登場するヨーロッパ車によく搭載されているシステムが「48Vマイルドハイブリッド」だ。まだ日本では登場していない、VW新型ゴルフにも48Vマイルドハイブリッドが搭載されるなど、いま注目となっている。このシステムはどんなものなのか。あらためて考えてみた。
■「LV148」という標準規格が存在している
近年、登場する欧州メーカーの新型車に、お約束のように採用されている技術がある。それが48Vマイルドハイブリッド・システムだ。
日本にもマイルドハイブリッドと呼ばれるクルマは存在するが、欧州メーカー製はひと味違う。
まず大きな違いは、48Vマイルドハイブリッドは、どこかのメーカー1社だけの技術ではないということだろう。
日本の場合は、どこの自動車メーカーも自社で開発したハイブリッドを使うのが基本だ。トヨタのハイブリッドシステムである「THS II」がマツダやスバルのクルマに搭載されることはあるけれど、あくまでも「トヨタが提供した」という形だ。
一方で48Vマイルドハイブリッドは、「LV148」という標準規格があり、複数のサプライヤーがシステムを開発・販売している。欧州では、「ハイブリッドの規格があって、それを複数のサプライヤーが生産していて、自動車メーカーは好きなサプライヤーの製品を選べる」のだ。
日本の場合、自動車メーカーと部品を作るサプライヤーは主従関係的な色合いが強く、しかもメーカーごとに「トヨタ系列」「日産系列」などと呼ばれるようなグループ化が過去に形成されてきた。
最近は、脱系列の動きも見えてきたが、まだまだ完全自由化とはいえない。
一方、欧州の事情は大きく異なる。欧州のサプライヤーは、近年、他企業の合併吸収に熱心で、規模や技術範囲が拡大しているため、「メガサプライヤー」と呼ばれることもある。巨大で技術力もあるため、どこかの自動車メーカーにべったりすることはなく、日本よりも強い発言権を持っているのだ。
そうした自動車メーカーとサプライヤーの関係を背景に、48Vマイルドハイブリッドは生まれてきた。
経緯でいえば、最初にアウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェ、ダイムラー、BMWの5社が48Vマイルドハイブリッドを共通化することを2011年に合意し、2013年に標準規格「LV148」を策定。それをもってサプライヤーに協力を呼び掛け、2016年から量産車が登場するようになった。
自動車メーカーとしては、独自でハイブリッドを開発する手間がかからないというメリットがあり、サプライヤーも上手に作れば複数の自動車メーカーに販売することができるというわけだ。
技術的な内容は、割合にシンプルである。システムは、エンジン、スターターと発電機を兼ねるスターター・ジェネレーターと、48Vの二次電池(リチウムイオン電池)、そして電圧を変化させるDC/DCコンバーターで構成されている。
スターター・ジェネレーターはエンジンとベルトでつながっており、減速時のエンジンの回転力を利用して発電する。その電流を二次電池に貯める。そのときの電圧が48Vであるため「48Vマイルドハイブリッド」という名称になった。
もちろん、従来からある12Vの車載バッテリーへの充電もおこなうために、DC/DCコンバーターが48Vから12Vへ電圧を変換している。普通のクルマの電力は12Vだが、それよりも高電圧の48Vにすることでパワーアップと効率アップが見込める。
貯めた電力は、エンジンの始動とアシストだけでなく、幅広い用途が用意されている。たとえば、アクティブ・スタビライザーなどを動かす電力に使ったりもするのだ。どのような便利な使い道ができるのかが、サプライヤーの競争領域ともいえるだろう。
■メリットは低コスト。だがデメリットもある
国産メーカーのハイブリッド・システムと欧州メーカー中心の48Vマイルドハイブリッドを比較すると、それぞれにメリットとデメリットがある。
トヨタの「THS II」や日産の「eパワー」、ホンダの「e-HEV」は、どれもストロングハイブリッドと呼ばれるもの。モーターの出力が大きくてEV走行できる領域が広く、しかも燃費性能も優れるのがメリットだ。
一方で、高出力モーターや高性能な二次電池が必要なため、コスト的にはどうしても割高になる。また自動車メーカーごとに別々にシステムを開発・採用しているので、量産効果が利きにくいのもデメリットとなる。
48Vマイルドハイブリッドとほぼ同様のシステムを採用するのがスズキだ。「Sエネチャージ」と呼ぶスズキの方式は、運用電圧が12Vなのが特徴。そのためパワーと効率では48Vマイルドハイブリッドにかなわないし、1社だけの技術ということでコスト面でも、それほど有利なわけではない。
一方で、48Vマイルドハイブリッドのメリットはとにかく低コストという点だ。
複数のサプライヤーが製造し、複数の自動車メーカーが採用する。生産数も多く、競争原理も働く。また、減速エネルギー回収とエンジン・アシストという燃費性能だけでなく、シャシ系の制御にも利用できるという応用範囲の広さも魅力となる。
システムが比較的シンプルなので、どんなクルマにも採用しやすいということもあって、これから登場する欧州車は、ほぼ標準仕様のようになるのではないだろうか。
メリットの多い48Vマイルドハイブリッドだが、デメリットがないわけではない。というか、非常に大きな問題を抱えている。
それは燃費向上率が、それほど大きくないことだ。じつはこれが大問題で、日本式のストロングハイブリッドには燃費性能ではかなわない。
また、これから年々厳しくなる燃費規制をクリアするには、48Vマイルドハイブリッドだけではとうてい不可能といえる。
そのためには、新たなストロングハイブリッドやEV化など、さらなる電動化技術を採用するしかない。手軽で便利なシステムだけれども、あくまでも本命が登場するまでのつなぎという役割なのだ。
そういう意味では、すでにストロングハイブリッドが本流となっている日本車の方が電動化に関しては先を行っているといえるのではないだろうか。