映画『007』シリーズの劇中車として、はじめて採用された日本車であるトヨタ「2000GT」は、いまや世界のコレクターが注目するクラシックカーである。そこで、トヨタ2000GTがどのようなクルマであったのかを振り返りつつ、2020年10月のオークションにかけられる要注目のトヨタ2000GTを紹介しよう。
■クラシック・フェラーリに負けない注目度の高さ
2013年に開催された、あるオークションのことは、今でも鮮明に覚えている。主役であり、多くのカスタマーやファンが落札価格にもっとも注目していたのは、もちろんクラッシック・フェラーリであった。
2013年という年は、クラシック・フェラーリの落札価格がもっとも高騰し、さまざまな記録が誕生し書き換えられた年でもあった。
だがこのとき、観衆がクラッシック・フェラーリと同じように驚かされたのは、ある1台の日本車──1967年式のトヨタ「2000GT」だった。
細かく刻みながら、着実に落札価格を上げていった2000GTのオークションは、最終的には115万5000ドル(当時のレートで約1億1800万円)で終了した。
オークションが終了した際、一瞬の静寂の後に巻き起こった興奮に満ち溢れた歓声は、今も忘れることはできない。
トヨタ2000GTはその前年である、2012年のグッディング&カンパニーのペブルビーチ・オークションにも姿を現している。しかし、同じホワイトのボディーカラーではあったものの、やはりコンディションは100万ドルオーバーのモデルとは大きな差があったのだろう、40~50万ドルという予想落札価格に対して62万7000ドル(約6710万円)の落札価格に届くのが限界だった。
その後も2015年に80万3000ドル(約8592万円)で取り引きされるなど、その人気は日本人の目から見れば、今後まだまだ伸びても良いような気もする。
さて、そもそもトヨタ2000GTとは、いかにして生まれたモデルであるのだろうか。さほど自動車の世界に詳しくない人でも、2000GTという名前と、その流麗な2ドアファストバックのスタイルは、記憶に残っているに違いない。
あるいはこの2000GTを超える美しさを持つトヨタ車は、その後、半世紀以上にわたって誕生してはいないと断言する者さえいるかもしれない。それほどに2000GTはスタイリッシュで、かつ見る者を一瞬でスピードの世界へと魅了するデザインを持つGTだった。
■トヨタ2000GTは、日本人の誇りだ!
トヨタ2000GTがオフィシャル・デビューを飾ったのは、1965年秋に開催された東京モーターショーでのことだった。2000GTは紛れもなく、その年の東京モーターショーの華だったが、実際のセールスが開始されたのは2年後の1967年になってからの話である。
この間トヨタは、ヤマハの全面的な協力を得て(また逆の立場からはヤマハは、トヨタの全面的な協力を得て)、2000GTの改良と熟成を図るとともに、レースや速度記録などさまざまなイベントに挑戦した。
2000GTとコンパクトな「スポーツ800」による1960年代半ばのトヨタの常勝パターンは、ファンを歓喜させるとともに、オンロードへと2000GTが導かれる日を大いに待ち望ませたのである。
1967年、その日はようやく訪れる。長いフロントノーズのなかにインストールされたエンジンは、当時のクラウンが搭載していた1998ccのM型直列6気筒SOHCを、DOHCに改良したもの。
ヘッドもアルミニウム合金製となるなどその改良範囲には非常に幅広いものだった。最高出力は150ps。アルミニウム製のオイルクーラーを備えるなど、走りへの準備は万全だった。
組み合わせられるギアボックスは5速MT。駆動輪はもちろん後輪で、このシステムによって0−100km/h加速は10.5秒、また最高速は220km/hを記録したという。当時ではいずれも驚愕のスペックといえる数字である。
ちなみにその価格も同様に驚くべきもので、新車価格は238万円。これは当時のクラウンが2台購入できる価格に相当していた。
セールスの開始から約2年後にはマイナーチェンジも実施され、フロントの灯火類やリアサイドリフレクター、インストゥルメントパネルのデザイン、クーラーの装備、そして3速AT仕様の追加設定もおこなわれた。
生産終了までの生産台数は、このマイナーチェンジを期に前期、後期と分けるのならば、国内向けが前期型で110台、後期型で108台。輸出用がトータルで102台。実験車などの特殊用途車が14台など。ほかにもテスト用プロトタイプや2253ccエンジン搭載車などもある。
トヨタ2000GT。それは我々日本人が、最も世界に誇るべき魅力を秘めた一台ではないか。この日本の誇りに、これからも世界の視線が集まることを望んで止まない。
今回オークションに登場した2000GTは、北米向けに輸出された62台の左ハンドル仕様のうちの1台で、1967年式の前期モデルだ。
30年以上、最初のオーナーが大切に所有しており、アメリカで有名なレーサーであったオット・リントン氏が所有していた時期もある。
ホワイトやシルバーのボディカラーのトヨタ2000GTは多いが、オリジナルカラーであるソーラーレッドの個体はなかなかお目にかかることも少ない。2020年10月23日、24日に開催予定の「THE ELKHART COLLECTION」でのハンマープライスが今から楽しみである。