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警察車両はトヨタ・日産ばかり? セダンとワゴンで異なるワケとは

くるまのニュース 2020年5月21日 9時10分

警察車両にはさまざまな種類がありますが、ワゴンタイプは日産車、セダンタイプはトヨタ車が多いです。日産やトヨタが多くを占めている理由はどのようなことなのでしょうか。

■警察車両 ワゴン車は日産、セダン型パトカーはトヨタが多いのはなぜ?

 警察車両にはさまざまな種類があります。なかでも事件の被疑者(容疑者)を護送する車両のうち、ミニバンタイプのものを「小型護送車」といいますが、状況によっては私服用(覆面)ワゴン型無線車を使用する場合もあります。

 これらを含むミニバン、ワゴンタイプの警察車両は、近年とくに日産車がとても多くなっています。どんな理由があるのでしょうか。

 事件に関わる被疑者を警察署や検察庁・裁判所へ移送する際に使う護送車は、「大型護送車」「中型護送車」「小型護送車」の3種類に大別されます。

 使用される車種として、大型はいすゞ「エルガミオ(日野 レインボー)」、三菱ふそう「エアロミディ」など、中型はトヨタ「コースター」、日産「シビリアン」など、小型はトヨタ「ハイエース」、日産「NV350キャラバン」などが多いです。

 いずれも、逃走防止のための鉄格子が内側に設置されており、カーテンやスモークガラスなどで中からも外からも見えないようになっています。

 小型護送車の車種は、かつてはハイエースや三菱「デリカスペースギア」なども調達されていましたが、近年は日産車が圧倒的に多くなっています。

 多くなっているというよりも、日産以外からの国費による調達は近年おこなわれていないといってよいです

 それを裏付ける興味深いデータとして、「令和元年度上半期 一者応札案件一覧」というものがあります

「一者応札案件」とは、一者(一社の意味)だけの応札(入札に応じている)案件のことです。

 警察庁が調達する物品のなかで、複数の会社が競争入札して決められるのではなく、さまざまな事情で一者だけの入札となっている案件のことをいいます。

 一者応札案件には、以下の2種類があります。

・要求仕様への対応可能事業者が限定されていたことによると考えられるもの

 警察庁が要求する仕様に応えられるメーカーがほかにないため、一者に限定されるものです。道路走行用車両カテゴリは存在せず、沖電気工業の広域交通管制システム業務プログラムなどが該当します。

・事業者の経営判断等によると考えられるもの

 事業者の経営判断とは、ほかのメーカーでも製造できるが、一者が特別に値段を安くしてでも警察庁に納めたいという経営判断のもと、価格などを理由に一社のみが対応する慣習ができている案件です。

 トヨタは交通取締用四輪車や私服用セダン型無線車1800cc級、小型採証車、いすゞは爆発物処理用具運搬車、そして日産は小型護送車や遊撃車(I型)、私服用ワゴン型無線車など多数の事例があります。

 日産の令和元年度上半期における落札金額の合計は、小型護送車が5億3530万4000円、私服用ワゴン型無線車が1億6470万3000円、遊撃車(I型)日産シビリアンが1億670万円です。

 上半期の、それも一者応札案件のみでこの金額ですが、これはいわゆる国費での購入額となります。

 全国47都道県に配備される警察車両となるので、かなり大きな数字になるのです。(都道府県費で購入される車両もあります)

■警察車両の価格はいくら? 普通に買うより安い訳

 気になるのは1台当たりの価格です。一者応札案件では落札金額の合計のみで台数の記載がないため、2017年政府資料に掲載された合計金額と台数で調べてみました。

セダンタイプはトヨタ「クラウン」が多い(撮影:加藤博人)

・交通取締用四輪車 266台 (トヨタ クラウン)
8億8439万8608円(1台あたり332万5000円)

・機動捜査用車 96台(日産 ティアナ)
1億9188万3600円(1台あたり199万9000円)

・小型輸送車 278台(日産 セレナ)
5億4307万8000円(1台あたり195万4000円)

・私服用ワゴン型無線車 429台(日産 セレナ)
8億2512万7560円(1台あたり192万3000円)

※以下、2015年の調達結果
・小型護送車 29台 (日産 NV350キャラバン)
8831万1600円(1台あたり304万5000円)

 なお、これらの価格は捜査や取り締まりに必要な装備を付けたうえでの価格となります(一部例外あり)

 警察車両の場合、装備によっては100万円以上になるものもあり、トヨタも日産も非常に安価な価格で提供していることがわかります。

 最近は覆面パトカーや、指揮車、薬物乱用防止広報車などにも日産のミニバン車両が増えています。セレナの場合、C24型から国費での調達が始まっています。

 一般競争入札も一者応札も、その会社にしか作れない特殊な車両を除いては、仕様書(ボディサイズや排気量、乗車定員、ブレーキやドアミラーなど各種装備の仕様)の条件に合致して、事業者として「競争参加資格」を満たしていれば(物品の製造や販売に関する格付けを満たしている者、反社組織に関わっていないなど)入札が可能です。

 警察車両の入札に詳しい事業者は次のようにいいます。

「警察車両以外と同様、公用車に関しては、特殊な装備や目的を持った車両以外、車種を指定して調達(購入)することはできません。特定の企業が利益を享受することにつながってしまうからです。

『ワゴン型無線車4WD 197台』などの調達内容が発表されると、入札に参加したい事業者は申し出て、警察庁から『仕様書』を受け取ります。入札条件に適合するならば、どんな車種でももっとも安い価格を提示した事業者が落札することになります」

 また、調達が完了した後も、入札以降の経過が正当なものだったかどうかのチェックも厳しくおこなわれています。

 警察庁会計業務検討会議もそのチェックのひとつで、「入札に応じなかった事業者にも入札参加を促すような連絡をしたのか?」「仕様としては日産しか作れないような特殊なものではないのに、なぜ他社は入札していないのか?」「そもそも入札価格は適正なのか?」など、警察組織とは関係がない外部の公認会計士や弁護士などで構成される組織によって非常に厳しい追及がされるのです。

 ちなみに、第9回警察庁会計業務検討会議ではNV350ルートバンベースの「薬物乱用防止広報車」に関して、「ベース車両の価格は他社と同価格帯だが、割引率に対しては自動車メーカーの考え方が大きく違うようである。(NV350の)最終的な価格は常識的に考えても相当低い価格で頑張った」と、委員会から評価を受けていました。

 NV350キャラバンの薬物乱用防止広報車の価格は、専用装備を備えて250万円前後(2013年から2016年平均)と、確かに相当低い価格となっています。

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