かつては価格が安く、安全面も乏しいというイメージから、ネガティブな意見が多かった軽自動車ですが、近年の新車市場では、全体の4割までシェアを拡大させています。本音では「軽自動車は嫌」という声がある一方で、軽自動車の人気が止まらない理由とはなんなのでしょうか。
■やっぱり普通車が良い? ナンバーの色で分かる本音とは
現在の新車市場では、軽自動車が全体の4割弱までシェアを伸ばしています。一方で、軽自動車に対しての「ダサい」や「軽自動車より普通車が良い」というようなネガティブな意見も少なくありません。なぜ、実際の販売とイメージでは真逆になっているのでしょうか。
全国軽自動車協会連合会の軽自動車保有台数推移によると、2008年3月末時点で2546万1667台だったのに対して、10年後の2018年3月末には3101万3373台と、約550万台も保有台数が増えています。
また、日本自動車工業会の調査によれば、軽乗用車ユーザーの約30%は30代以下とされ、多くの若者が軽自動車を使用していることは明らかです。
そのなかには、軽自動車の燃費の良さや限られたサイズを最大限に活用した実用性にメリットを見出す人も少なくありません。
一方の本音では、「軽自動車ではなく普通車が良い」、「乗れるなら普通車に乗りたい」と考えるユーザーもいるようです。
関東郊外に住む20代男性は「憧れのクルマと、実際に買うクルマは別物として考えている」と話しており、理想と現実は大きく異なっているようです。
また、その本音は、軽自動車のナンバープレートにも現れています。
2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップや、2020年に開催予定だった東京オリンピックを記念したナンバープレートは、軽自動車でも白ナンバーを取得できたことから多数の申し込みがありました。
ラグビーワールドカップの記念ナンバーの申し込み総数は29万2501件となり、そのうち軽自動車の割合は約87%にまでのぼります。とくに、デザインがシンプルな『寄付なし図柄』の申し込みが全体の7割以上を占めたようです。
記念ナンバーの申し込み件数について国土交通省は、次のように話します。
「ラグビーワールドカップのナンバープレートは、登録車(小型・乗用車)が3万7540件の申し込みに対して、軽自動車は25万4961件の申し込みがありました。
オリンピックのナンバープレートーは、あくまで申し込み件数ですので、実際に交付される枚数とは乖離が出ますが、全体で162万1865件です。そのうち軽自動車が146万233件とこちらも軽自動車の比率が非常に高く、9割を占めています」
軽自動車の象徴である黄色ナンバーを普通車と同じ白ナンバーに変更したいというニーズは、「乗るなら軽自動車ではなく普通車がいい」というユーザーの声を体現したものといえそうです。
■それでも軽自動車が人気なワケ
かつての軽自動車は、車両価格や維持費が普通車と比べると安く抑えられることもあり、地方部ではセカンドカーとして買い物や近所の移動といった用途で重要視されていました。
しかし、現在では軽自動車の車両価格はセールスポイントにならなくなっているといいます。
国産自動車メーカーの担当者は、次のように話します。
「近年、軽自動車の購入を検討するユーザーは、居住空間や荷室の使い勝手、安全装備、環境&燃費性能などを求められます。
単純に車両価格の安さだけを重視するユーザーは以前よりは減っている一方で、ユーザーのさまざまなライフスタイルに合わせるために多機能になっています。そのため、最近では200万円前後の安全・快適装備が充実したグレードが人気です」
日本自動車工業会の調査では「軽自動車は『趣味・レジャー』における用途で増加傾向が続いている」と説明しています。
それらのニーズに応えるように、近年ではスズキは「ジムニー」や「ハスラー」などをフルモデルチェンジし、先代よりも趣味性の高さを強調させました。
さらに、同じくスズキの人気車「スペーシア」にアウトドアユーザーを取り込む派生車「スペーシアギア」を追加しています。
同様に、三菱では「eKワゴン」の派生車としてアクティブなデザインの「eKクロス」を新たに発売。ダイハツでも、軽SUVともいえる「タフト」が2020年6月の発売を予定するなど、趣味・レジャー用途にマッチするモデルを続々と登場させているのです。
前出とは別の国産自動車メーカー担当者は、次のように話します。
「最近の新型車は、軽自動車に限らずSUV、ミニバンなども趣味やレジャーに寄せた仕様やモデルが登場しています。これは、近年のアウトドアや車中泊の人気を反映させているものです。
そのなかでも軽自動車は、普通車と比べれば車両価格や維持費が抑えられるうえに、趣味に使える多機能性やデザインの個性などの要素などもあり、売れているのだと思います。
さらに、昨今では人気のホンダ「N-BOX」やダイハツ「タント」、スペーシアなどにカスタム仕様があるように最初から個性豊かなモデルが多く、それらは若年層に人気だと聞いています。
恐らく、『軽自動車は嫌』というのは少し古いイメージになりつつあるのかもしれません。かつての軽自動車は確かに今から見ると地味めなものが多かったですが、今のように多種多様な個性揃いであれば、例えば彼氏が軽自動車で迎えに来ても『ダサい』とは思わないのではないでしょうか」
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軽自動車は、日本の道路事情や時代背景に合わせた独自の規格です。そのため、日本で売れることを前提としています。
かつての軽自動車に対するイメージが徐々に払拭されるにつれ、新車市場ではさらにシェアが増えることになるかもしれません。