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登場時は「夢のトランスミッション」とまでいわれたDCT。なぜそれほど広まらないのか

くるまのニュース 2020年6月14日 11時50分

2ペダルのオートマ車にも「トルクコンバーター式AT(トルコンAT)」「CVT」など種類があるが、そのなかの「デュアルクラッチトランスミッション(DCT)」は一時期、「夢のトランスミッション」ともてはやされたものだ。2020年のいま、現状はどうなのだろうか。

■オートマのイージードライブとマニュアルの高効率を両立させたDCT

 1950年代から60年代にかけ、アメリカではトルクコンバーター式オートマチックトランスミッション(AT)のシェアが一気に拡大した。

 一方、燃費にシビアなドライバーが多かった日本では、長らくマニュアルトランスミッション(MT)とATが併存する状況が続いたが、ロックアップなど新機構の追加や多段化など改良を重ねたATはシェアを徐々に拡大していき、1980年代以降は人気の中心に躍り出た。

 1990年代に入り、おもに小型車向けに連続可変トランスミッション(CVT)の採用が進められたこともあり、21世紀初頭には、MTは「一部のマニアが好むもの」とされ、市場の多くはATとCVTが占める状況になっていった。

 そんななか、ATのイージードライブとMTの高効率を両立させる「夢のトランスミッション」として登場したのが、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)だ。

 DCTは、その名前が表すとおり、ふたつのクラッチを内蔵するトランスミッションで、それぞれのクラッチは奇数段(6速DCTなら1速、3速、5速)と偶数段(6速DCTなら2速、4速、6速)を担当している。

 1速での発進直後、すでに2速のギアはスタンバイしている。車速が上がり変速のタイミングになると、奇数段を担当するクラッチは解放され、同時に偶数段を担当するクラッチがつながり、タイムラグなく1速から2速に切り替わる。2速から3速、そしてそれ以上も同様にクラッチが交互に動作し、変速がおこなわれる仕組みとなっている。

 つまりDCTは、ATにおけるトルクコンバーターやCVTが、構造上避けて通れない「内部伝達でのロス」とは無縁で、かつMTでの「クラッチやシフトの操作」という面倒をなくしたトランスミッションというわけだ。

 市販車ではじめてのDCTは、フォルクスワーゲン(VW)が「ゴルフIV・R32」に搭載したDSGで、クラッチシステムをオイルに浸した「湿式多板クラッチ」を採用し、変速段数は6速だった。

 VWは、この湿式多板クラッチ式DSGをおもにハイパワー車に搭載。一方、同社がその後主力とするダウンサイジングターボには、より簡易な構造の「乾式単板クラッチ式DSG」の搭載を進めていった。

■DCTとAT、それぞれの長所を活かして棲み分けがされている

 しかし、この「いいトコ取り」だったはずのDCTのシェアは、思ったほどには拡大していかなかった。逆にトルクコンバーター式ATはさらに進化を続け、トランスミッションの主役としての地位を確たるものにしている。なぜこのような状況が生まれたのだろうか。

VWの乾式7速DSG(DCT)

 まずひとつ目の要因として考えられるのは、DCTの複雑な機構がもたらすとも思われる、信頼性についての課題だろう。

 DSGを主力に展開したVWは、当初DSGに起因するトラブルに悩まされることになる。

 日本においても、2009年10月、2014年1月、2019年8月に、走行不能になるおそれがある」としてDSGに関連したリコールをおこなっているほか、リコールに至らない改善対策、サービスキャンペーンも複数回おこなわれている。

 ふたつ目は、構造上の問題だ。一般論として、よりすぐれた燃費とスムーズな走行性能の実現には、トランスミッションの多段化が有効になる。

 しかし駆動軸方向に奇数段、偶数段のギアが並ぶDCTは、多段化を進めるためにはトランスミッションそのもののサイズを駆動軸方向へ拡大しなければならないのだ。

 そしてもうひとつ挙げられるのが、DCT特有の乗り心地だろう。DCTはごく低速での走行や、停止状態からの発進でクラッチの動作が入る際、ゴツゴツしたショックが感じられてしまうことがある。

 一方、この間もATは進化を緩めることはなかった。1990年代に5速が実用化されていたATは、2000年代に入るとさらに多段化が進んでいく。遊星ギアによりサイズを保ちつつ多段化できるというメリットを生かし、6速から7速へと段数を増やし、現在では9速や10速ATも実用化されている。

 また電子制御技術の進歩は、細かな変速制御やロックアップ機構の改良につながり、ギアの変速を感じさせないスムーズな加速とすぐれた燃費の双方を手に入れることになった。

 このような進化がATの採用拡大を後押しし、それがコストの削減と技術のさらなる進歩をうながしていくという好循環が続き、現在のようなAT全盛という状況が生まれたのだ。

 ただ多段化されたATは相応にコストがかかり、かつ部品点数も多くなるため、採用はその滑らかな変速性能にふさわしく、コスト面もカバーできる高級車に限られてくる。

 一方、DCTはダイレクトな加速フィール、そしてマニュアルシフトによる積極的なスポーツドライビングが楽しめる長所を生かし、スーパースポーツカーなどでの採用が増えている。

 今後のトランスミッションは、ATを主流としながら、高級車には多段AT、スーパースポーツカーやダウンサイジングターボではDCTが採用されるという棲み分けが続いていくことになるのだろう。

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