あおり運転の行為をYouTubeやSNS動画にアップして再生数を稼ぐ人も見受けられますが、映像にはあおり運転をするドライバー、車両、ナンバープレートなどが映っていることもあります。このような場合、名誉毀損で訴えられることはないのでしょうか。
■あてはまるのは名誉毀損だけではない?
2020年6月30日末に施行された「妨害運転罪」により、あおり運転が再び注目を浴びています。なかには、こうしたあおり運転の行為をYouTubeやSNS動画にアップして再生数を稼ぐ人も見受けられます。
映像には、あおり運転をするドライバー、車両、ナンバープレートなどが映っていることも多いですが、名誉毀損で訴えられることはないのでしょうか。
交通関連に詳しい法律関係者は、次のように話します。
「状況によって異なるため一概にはいえませんが、ドライブレコーダーの映像を事故の証拠提出などの目的以外に使用した場合、肖像権・プライバシーの侵害や、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪などに問われる可能性は十分にあります」
肖像権の侵害以外にも罪に問われる可能性があるとのことですが、それらは一体どのような内容なのでしょうか。
まず、肖像権・プライバシー権の侵害についてです。肖像権とは、みだりに自己の容姿などを撮影されない権利です。
実際に、民法 七百九条では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と記載され、違反した場合には写真や動画の削除が求められるほか、賠償金が請求されます。
ただし、仕返しや憂さ晴らしといった側面がある場合に限り、肖像権やプライバシーの侵害は適用されます。そのため、撮影方法や動画のアップ目的によっては、上記のケースに当てはまらない可能性もあります。
名誉毀損罪では、刑法 第二百三十条に「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」となっています。
これは、ドライバーの社会的な評価を下げるような「レッテルを貼る」行為です。そのため、あおり運転をしたとされる車両に対して、悪質な運転行為をする人物であるといった印象を与えた場合は、該当する恐れがあります。また、許可なく車両やナンバーをネット上に晒すといった行為も同様です。
しかし、以下の特別事例にあてはまる場合は、名誉毀損にあてはまらないとしています。
・1.公共性 摘示した事実が公共の利害に関する事実である
・2.公益目的 摘示の目的が専ら公益を図ることにあった
・3.真実性 真実であることの証明があった
要するに、あおり運転による妨害行為が事実だと証明されたうえで、迷惑行為の抑止として判断できれば、罪に問われることはありません。
ですが、ネット上にアップするという行為は、社会的な制裁をくだす「私刑」と判断される可能性が高くなります。前述の通り、仕返しや憂さ晴らしとみられる可能性が高いため、罪に問われる可能性は非常に高いとされています。
偽計業務妨害罪では、刑法 二百三十三条に「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(威力業務妨害)」と記載されています。
動画内の車両が社用車などであった場合、企業にクレームが殺到する可能性があり、従業員のあおり運転が事実であることが証明されれば、企業側は社会的に責任を負う可能性も出てくるのです。
しかし、事実無根の誤情報だった場合は、会社の業務を妨害する行為にあたるとされ、動画をアップした本人に罰則が適用されます。
以上のように、あおり運転の一部始終を残してネット上にアップする行為は、さまざまな罪に問われるケースがあります。
なお、あおり運転を目撃した際の行動について、前述の法律関係者は以下のように話します。
「万が一、あおり運転を見かけたり撮影した場合は、ネットに晒すのではなく、110番通報や警察本部の相談窓口『#9110」』に通報するか、近くの警察署に情報提供するなどといった方法を取るのが良いでしょう。人の罪を裁くのは、人ではなく『法』です」
■あおり運転していないのに! もし誤解されて通報をされたら?
通報する側ではなく、通報される側になってしまった場合、誤ってあおり運転だと認識されてしまったときはどのように対処するべきなのでしょうか。
まずは、あおり運転の定義として、以下10項目があげられます。
・通行区分(左側通行)違反
・車間距離を詰める
・急ブレーキをかける
・不必要なクラクション
・急な進路変更(割込み)
・ハイビーム威嚇の継続
・乱暴な追越し
・左からの危険な追越し
・幅寄せや蛇行運転
・高速道路での最低速度違反や駐停車
上記の行為をおこなうことで、あおり運転とみなされる可能性があるので注意が必要です。誤解を招かないためにも、このような運転は控えましょう。
なお、誤解を解くためにもっとも効果的なのは、ドライブレコーダーの映像です。事故の記録のためだけでなく、自分自身の走行状況を確認することができるため、今後の交通社会ではマストな装備といえます。