現在、ヒットしているクルマは数多く存在しますが、ヒットに至るには先駆者といえるクルマがありました。そのクルマが登場したことで、他のメーカーが追従し、ブームとなったことも。そこで、新時代を切り開き、大きな影響力があったクルマを5車種ピックアップして紹介します。
■このクルマが登場しなければ、どうなっていた!?
現在、日本の自動車市場でヒットしているクルマといえば、軽自動車やミニバン、SUVですが、それらにも、もちろんヒットのきっかけになったクルマが存在します。
まさに先駆者であり開拓者であるクルマですが、その数は当然ながら多くはありません。そこで、新時代を切り開き、大きな影響力があったクルマを5車種ピックアップして紹介します。
●トヨタ「プリウス」
いまでは軽自動車から大型セダンまで普及しているハイブリッド車ですが、1997年に発売されたトヨタ「プリウス」がなければ、ここまで急速に普及はしていないでしょう。
一般的にハイブリッド車というと、エンジンとモーターという異なる動力源を搭載しているクルマを指しますが、船舶や鉄道車両では19世紀の終わりから20世紀の始まりごろには、実用化されていました。
一方で、クルマの場合はストップ&ゴーを頻繁におこなうことや、バッテリーを搭載するスペースが小さいことなどから、実用化は困難で、トヨタも1965年にはハイブリッド車の研究を開始しており、じつに30年以上もかけて、プリウスをつくったことになります。
初代プリウスは当時として驚異的な28km/L(10・15モード)という低燃費を実現。これは、従来のガソリンエンジンを搭載した同クラスのAT車に比べ、約2倍の燃費性能であり、CO2をはじめCO、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)といった大気汚染物質の大幅な削減にも成功しています。
プリウスの発売を期に世界中のメーカーからハイブリッド車が次々に発売され、現在は各メーカーの主力商品に採用されているほどになりました。
●ホンダ「ステップワゴン」
ホンダは1994年に初代「オデッセイ」を発売し、それまでにない乗用車と変わらぬ乗り味のミニバンとして、大ヒットします。
その次の一手として登場したのが、1996に発売された初代「ステップワゴン」です。
オデッセイはグローバルでの販売を計画していたことから、3ナンバー専用サイズで後部ドアはヒンジドアとなっていました。
一方、ステップワゴンは5ナンバーサイズに収まり、FFを採用したことで広い室内空間を実現。後部ドアも片面のみのスライドドアとなっており、子育て世代のファミリー層をターゲットに開発されています。
さらに3列シート車が179万8000円(東京価格:消費税含まず)からと、かなり安価な設定となっていたことから大ヒット。
当時、三菱に買収されるのではという噂があったほど、財務状況が悪化していたホンダですが、オデッセイとステップワゴンのヒットによって救われたといいます。
その後、各メーカーもホンダに追従してFF5ナンバーサイズのミニバンを発売し、一気に普及しました。
現行モデルのステップワゴンは5代目になりますが、原則5ナンバーサイズを維持し、ボクシーなフォルムなど、初代のコンセプトを継承しています。
●マツダ「ロードスター」
1960年代にはホンダ「Sシリーズ」や、ダットサン「フェアレディ」、ダイハツ「コンパーノスパイダー」などのオープンカーが多数存在していました。
しかし、1970年代には急激に姿を消し、1980年代にホンダ「シティカブリオレ」などでわずかに復活しましたが、国産車ではスポーティなオープンカーは消滅。
また、イギリスのMGやロータス、オースチンが販売していたコンパクトで軽量なオープンカーも、1980年代初頭には激減しています。
そうしたオープンスポーツカーにとって冬の時代だった1989年に、マツダが展開していたブランドのひとつ、ユーノスから2シーターオープンスポーツカーの「ロードスター」が発売されました。
ロードスターは、2シーターオープンカーという用途が限定されてしまうクルマでありながら、安価な価格と軽快な走りによって、手軽に乗れるスポーツカーとしてヒットします。
また、スポーツカーが自動車文化として根ざしたアメリカでも大ヒットを記録するなど、世界的にロードスターは受け入れられました。
ロードスターの成功によって、トヨタ、ホンダなど国内メーカーだけでなく、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMW、ローバー、フィアットといった欧州メーカーも、オープン2シーターを矢継ぎ早に発売したことで、再びスポーツカー市場が盛り上がることになります。
■SUVの先駆者となったのはライトクロカン!?
●スバル「レガシィ ツーリングワゴン」
スバルは1971年に、僅かな台数のみでしたが「スバルff-1・1300Gバン4WD」というモデルを生産しました。これが、いまも続く水平対向エンジン+4WDの「シンメトリカルAWD」を採用した最初のモデルです。
その後、4WDを悪路走行ではなく、乗用車に搭載して舗装路でも安定して走行できるという使い方を確立したクルマといえば、国産メーカーではスバル「レオーネ」ですが、その技術をさらに高めたのが初代「レガシィ」で、4WD車の魅力を広く認知させることに成功しました。
そしてセダンとステーションワゴンの「レガシィ ツーリングワゴン」をラインナップし、トップグレードでは200馬力を発揮するパワフルな2リッター水平対向4気筒ターボエンジンを搭載。
とくにツーリングワゴンは時代背景としてスキーブームもあり、高速道路から雪道まで難なくこなすオールラウンダーとして人気に拍車をかけました。
以降、各メーカーがハイパワーなエンジンを搭載したステーションワゴンを発売し、スバルに追従したことで、ちょっとしたワゴンブームとなります。
現在はブームも去ってステーションワゴンは激減し、火付け役だったレガシィ ツーリングワゴンも2014年に国内販売を終了してしまいました。
●ホンダ「CR-V」
1990年代の初頭に、三菱「パジェロ」や日産「テラノ」といった本格的な4WD車が爆発的に人気となった「RV(レクリエーショナルビークル)ブーム」が起こります。
各メーカーともクロスカントリー4WD車のラインナップを拡充し、ブームに乗りましたが、ホンダは自社で生産しておらず、いすゞやランドローバー、ジープと提携してOEM車や輸入販売をおこなうしかない状況でした。
そこでホンダは1995年に、乗用車のシャシをベースに舗装路を走ることに特化した「ライトクロカン」として「CR-V」を発売。
それまでのクロスカントリー4WD車というと、トラックと同様な「はしご型フレーム」にボディを載せる手法で作られていたため、快適性や燃費などが乗用車よりも劣っていました。
一方、CR-Vは、悪路走破性は高くないもののスタイルはRVそのもので、それでいて乗り心地や燃費が良く、一躍ヒット車となります。
1994年にはトヨタ「RAV4」がデビューしていましたが、CR-Vの方が室内のユーティリティやデザインが優れていたことで、後追いながらも人気ではRAV4を上まわりました。
このCR-Vのヒットによって、現在のクロスオーバーSUVへとつながっていきます。
CR-Vは代を重ね、4代目まで同様なコンセプトのSUVとして販売されていましたが、2016年に日本市場から撤退。
北米や欧州などでは継続して販売され、2016年に5代目が登場すると、2018年にSUVブームを受け、日本市場で復活を遂げました。
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今回、紹介した5車種のなかで、現在も大ヒットを続けているのがプリウスです。すでに誕生してから23年が経過しましたが、いまも進化し続けており、燃費性能は世界トップクラスを維持しています。
その一方で、意外なことに基本的なメカニズムは、初代から大きく変わっていません。
初代プリウスの開発は1993年に始まったとされていますが、その前から蓄積されていた技術もあり、初代が発売された時には、メカニズムについては完全に完成されていたということでしょう。