最近の新型モデルは、海外市場をメインターゲットに開発されたグローバルモデルとなっていることが多いようですが、販売状況には大きな差があるようです。なかでも、トヨタが展開するグローバルモデルは比較的に販売が成功しているといえますが、その要因はなんなのでしょうか。
■ラインナップの穴を埋めたトヨタ、しかしホンダと日産は…
近年、一部の国産自動車メーカーでは、海外市場をおもなターゲットとして開発した車種を、日本に展開する例が見られますが、販売状況には大きな差があるようです。
なかでも、トヨタが展開するグローバルモデルは比較的に販売が成功しているといえますが、その要因はなんなのでしょうか。
具体的な例でいえば、トヨタ「RAV4」や「ハイラックス」、ホンダ「CR-V」や「シビック」、日産「マーチ」などが挙げられます。
RAV4やCR-Vは北米、ハイラックスやマーチは東南アジア、シビックはセダンが北米や中国、ハッチバックは欧州をおもなターゲットとして開発されています。
それぞれメインターゲットとしている市場では成功を収めているようですが、日本国内で成功していると言えるのはRAV4とハイラックスくらいです。
例えば、日本市場でのシビックは、セダン/ハッチバック/タイプRを合わせて月間2000台の販売台数を計画していましたが、2017年9月の発売以降一度も2000台を越えたことはなく、最近では月間500台程度となっています。そのため、2020年8月でセダンの販売が終了となります。
また、かつては人気車種の筆頭であったマーチも、フルモデルチェンジから相当時間が経過したとはいえ、月間500台程度とライバルであるヤリスやフィットのおよそ20分の1という状態です。
一方のRAV4は、2020年上半期(1月から6月)に2万7215台を販売し、新車販売台数ランキングで15位にランクイン。ハイラックスも、2019年には6440台を販売するなど、特殊な立ち位置のクルマでありながら、メーカーの想定を上回る販売を記録しています。
RAV4やハイラックスが好調な要因は明らかです。RAV4についていえば、トヨタのラインナップのなかでは唯一といえる「タフ系クロスオーバーSUV」であることです。
「ランドクルーザー」や「ランドクルーザープラド」は本格的すぎる、「ハリアー」や「C-HR」はスタイリッシュすぎるというニーズを埋める存在として、市場の需要をとらえています。
また、ハイラックスはよりその傾向が顕著であり、国内唯一のピックアップトラックであるという特徴を持っていることから、そうしたスタイルを好むユーザーからすればオンリーワンの選択肢となります。つまり、市場の需要があり、なおかつラインナップの穴を埋める存在だったのです。
しかし、シビックやCR-Vでは事情が異なります。シビックの場合、ハイブリッドをもたない中型セダンとして見ると、ただでさえセダンが苦戦している国内市場にあっては「ウリ」がありません。
また、ハッチバックは海外生産ということもあり294万8000円と、価格面で競争力がありません。よほど「シビック」の名前に愛着があるユーザーでなければ、「ヴェゼル」などのほうが魅力的に映るでしょう。
CR-Vもまた、微妙なポジションとなってしまっています。たしかにSUVは日本でも売れ筋のカテゴリーですが、北米向けに開発されたCR-Vはサイズも大きく、また値段も最低でも336万1600円、最高で455万8400円と競合車に比べて割高です。
CR-Vのガソリン車は5人乗りと7人乗りが選べるというメリットがありますが、ホンダには「オデッセイ」や「ステップワゴン」、「フリード」という7人乗車が可能なミニバンがあり、なおかつCR-Vよりも価格設定が低いため、絶対的な武器とはいえません。
このようにホンダの場合、たしかにラインナップの穴を埋めてはいるものの、ホンダ内により魅力的な選択肢が存在するため、シビックやCR-Vを積極的に選びづらい状態となってしまっています。
マーチについては、より深刻です。かつては日産を代表するモデルでしたが、現行モデルはそもそも商品力がとぼしく、購入する理由が見当たらないといわざるを得ません。
それは日産も自覚しているようで、元々欧州市場ではマーチを「マイクラ」の名前で販売していたものの、2017年に5代目へとフルモデルチェンジを果たした結果、マーチとは別の単独モデルとして販売されたのです。
さらに、日本では2013年以降マイナーチェンジすらおこなわれていません。日産のコンパクトカーではe-POWERを搭載した「ノート」が主力となっているほか、軽自動車のラインナップも拡充されているため、マーチは出番がないのかもしれません。
■なぜ、売れていないのにラインナップから落とさないの?
では、ホンダや日産はなぜ売れないにもかかわらず、シビックやCR-V、マーチを導入したのでしょうか。業界関係者は次のように分析します。
「シビックやCR-V、マーチといったクルマをラインナップに残し続ける背景には、大きくふたつの視点があります。
ひとつは『フルラインナップメーカー』であり続けるためです。トヨタはもちろん、ホンダや日産はあらゆるラインナップを揃えるいわば『スーパーマーケット』的なメーカーとして歴史を築いてきました。
結婚や出産などユーザーの事情が変わっても、ニーズに合わせたクルマを用意していることが強みです。とくにCR-Vに関しては、近年のSUV人気のなかでは、爆発的に売れることはないとわかっていても、『中型SUVがない』ということ自体をホンダとしては避けたかったのでしょう。
もうひとつは、ブランドの維持です。とくにシビックやマーチは、日本では歴史のある名前となっています。日本では新車購入層の高齢化が進んでいるといわれていますが、高齢層の多くは、すでに何台もクルマを乗り継いでいます。
『ずっとシビックに乗っていたから』という理由で、比較することなく新型シビックを購入するユーザーが少なくありません。
また、販売の現場では、同様の理由でシビックを見に足を運んだユーザーに対して、別の人気車種を提案するということもおこなわれています。つまり、歴史のある名前のクルマは、ユーザーを販売店に呼ぶきっかけになります。
その点、トヨタはRAV4もハイラックスも歴史ある名前ですが、どちらも日本市場では一度カタログ落ちしています。
しかし、生産上の都合、あるいは国内で需要があるとわかると『復活』と銘打って大々的に宣伝し、圧倒的な販売網を活かして販売台数を伸ばしてしまうのです」
海外向けモデルを日本に展開する理由には、フルラインナップメーカーでありたいというメーカー側の思惑に加えて、歴史のある名前をきっかけに販売店に呼ぶという、販売上の理由があるようです。
つまりシビックやCR-V、マーチは、必ずしも売れるからラインナップに置いているわけではなく、メーカー側として「ラインナップに置かなければならない」という事情があると予想できます。
とはいえ、日本専用車として開発・生産する余裕はないため、結果として海外向けのものを日本にも導入するという、ある意味で「苦肉の策」をとっているのかもしれません。
一方のトヨタは、すでにフルラインナップメーカーとして盤石の体制であることから、あくまで日本の需要を見たうえで、「売れるからラインナップに置いている」という点が、RAV4やハイラックスの好調の要因のようです。