トヨタが20年ぶりにスポーツ4WDとして開発した「GRヤリス」。ラリーでも勝てる性能を求められたといいますが、その実力を自動車ジャーナリスト・国沢光宏氏が解説します!
■トヨタが約20年ぶりに開発したスポーツ4WD「GRヤリス」の本気度合い
燃費規制の強化により、今や「エンジンだけで走るスポーティモデル」は世界規模で希少車種となりつつあります。
そんななか、トヨタがハイパワー4WDターボの「GRヤリス」を発表しています。ハイブリッド車に代表される低燃費車が多いトヨタにのみ許された贅沢かもしれません。
世界中のクルマ好きから熱い視線を浴びるGRヤリスの最終プロトタイプに試乗したのでレポートします。
嬉しいことに今回はショートサーキットだけでなく、グラベル(砂利道)もたっぷり走れました。まずショートサーキットから走ります。
ピットレーンに用意されていたGRヤリスは、1.6リッターターボに前後デフのLSD+大容量ブレーキを装備する「ハイパフォーマンス」と標準の「RZ」(ともに4WD)、そしてFFで1.5リッター+CVT仕様の「RS」。ハイパフォーマンスから試します。
横滑り防止装置は「切」。1速に送り込んでクラッチミート。コースインします。チェックを兼ね7割くらいのアクセル開度で1ラップ、ワインディングロードをハイペースで流すイメージです。
この程度のペースだと、ひたすら滑らか&余裕。エンジンは軽やかに回り、ハンドル切ったら切った分だけ曲がっていく。
7割ペースで走っていても十分速く、「とっても楽しい!」。3気筒エンジンは低い回転域からトルクを出しているし、クルマ全体の挙動が軽快です。
基本性能の高さをしっかり感じる。ブレーキだって手応え上々。もっといえば質感だって高い。よく出来たスポーツモーデルに共通する「安心感」を明確に味わえることだろう。
では攻めてみましょう。2速で最終コーナー立ち上がってレッドゾーンまで全開で引っ張り、3速へ。
1コーナー進入はちょうど3速吹けきり。高回転域でのエンジン音は4気筒の三菱「ランサーエボリューション」とまったく違う。良い意味で3気筒特有の野太いブラストを響かせます。振動は感じない。もちろんパワーだってタップリあります。
フルブレーキングすると前後のバランス良好。思い切り突っ込めるし、ブレーキング終わって横方向のGを残しながらコーナーに飛び込んでも、テールが暴れるような挙動なし。リアサスがキッチリと伸びて路面を掴んでいるのだろう。
左コーナーから右コーナーへの切り返しは、回転方向の重さを感じさせず「くるり」とノーズの向きを変える。
2速全開の左コーナーは前後のLSDがキッチリ仕事している。4輪に駆動力掛けつつ&ホンの少しリアがパワースライドするため気持ちよく曲がっていく。
その次の3速全開で曲がる右コーナーでGRヤリスの数少ない弱点となるアンダーステアが出ます。アンダーを消すべく前輪荷重しても、やはりアンダーになってしまう。
年次改良やマイナーチェンジで対応したいところ。おそらく前輪荷重を掛けにくいんだと思う。フロントの車高を少し下げるだけでずいぶん違うと思います。
そうすると今でも前斜姿勢のため、ほかの課題が出てくるかもしれません。サスペンション交換するなら、この特性をカバーしたいところですが、市販モデルでそんなことまで考えるほど楽しいです。
■CVT仕様やグラベル路はどんなキャラクター?
続いて標準モデルのRZを試します。走りの質は同じ。唯一の違いを上げるなら、2速全開の立ち上がりでトラクションが抜けることですが、LSD付いてないから当たり前です。
これからGRヤリスを買うなら、少し高くなってもハイパフォーマンスを選ぶか、オプションの前後LSDを付けるかで、直線しか頑張らないのならLSD不要です。
そして1.5リッターのFF。CVT仕様だからAT限定免許で運転可能。1.6リッターターボと比べたら大人しいものの、必要にして十分な動力性能だと思います。
コーナリングは軽快で、よく曲がってくれる。安くない価格も輸入車と好勝負の走りを考えたら納得出来るかも。WRCファンで通勤やお買い物、奥様用のクルマが欲しいなら、案外面白い狙い目かもしれない。
では、グラベル路はどうでしょうか。現役のラリードライバーのつもりなので、存分に振り回してみました。
前後バランスがいいのだろう。素直なハンドリングでポテンシャル高いです。
ラリーの卒業は、ぜひGRヤリスでWRCのグラベルイベントに出場したいと思っています。早く競技用のコンピューターやロールゲージなど出ないかと期待。
今後、いくつかの競技用パーツはGRガレージ専用パーツとして出てくる予定です。