現在、日本の自動車メーカーはグローバルでクルマを販売しており、海外で販売しているモデルには、日本でも販売しているモデルもあれば、海外専用モデルもあります。そこで、海外専用モデルのなかから珍しいクルマを5車種ピックアップして紹介します。
■意外と多い海外専用車を振り返る
国内の自動車メーカーは1960年代の終わり頃から、本格的な海外進出を果たしました。その後、貿易摩擦にまで発展するほど日本車は海外で売れ、いまでは世界各地に工場を展開して現地生産を主流とすることで、貿易摩擦は解消しています。
海外で販売している日本車は、日本と同じモデルもあれば、海外専用のモデルもあり、なかにはユニークなモデルも存在。
そこで、海外専用モデルのなかから、とくに珍しいクルマを5車種ピックアップして紹介します。
●ホンダ「リッジライン」
北米では日本の軽自動車のように、ピックアップトラックが税金や保険料が優遇されていることから、もっとも売れているクルマとなっています。
仕事で使う人もいれば、レジャー用途や普段使い用にも人気があり、国内メーカーも北米でピックアップトラックを数多くラインナップしている状況です。
そして、ホンダは2005年に、「SUT」という中型スポーツユーティリティトラックに分類される4ドアピックアップトラックの初代「リッジライン」を発売。
ボディサイズは全長5253mm×全幅1976mm×全高1786mm、ホイールベース3099mmと、ホンダが製造したなかでももっとも大きなクルマとしてデビューしました。
荷台の最大積載量は500kgですが、大柄な車体のキャビンと荷台が一体になった外観や、さまざまな豪華装備などは、多くの日本人が抱くトラックのイメージとは異なり、スタイリッシュです。
荷台の後部下に通常のクルマのトランクと同じように、施錠できるスペース「In Bed Trunk」や、耐荷重158kgのカーゴフックを両側3か所に備え、オートバイの積載が考えられている点などもホンダらしいところです。
搭載されたエンジンは3.5リッターV型6気筒VTECで、最高出力253馬力を発揮、5速ATを介してホンダの4WDシステム「VTM-4」で駆動し、ピックアップトラックでは珍しい4輪独立懸架の採用によって「驚くほどに乗り心地の良いピックアップ」と評価されました。
現行モデルのリッジラインは2016年に発売された2代目で、個性的だった初代から比較的オーソドックスな外観となりましたが、2017年に「北米トラック・オブ・ザ・イヤー」を受賞しています。
●スバル「B9 トライベッカ」
スバルのラインナップでは他社に比べて海外専用車は少ないものの、現行モデルでは北米で販売している大型SUVの「アセント」があり、前身となったのが「B9 トライベッカ」です。
B9 トライベッカは2005年に発売された3列シートSUVで、アメリカ工場で生産。当初は北米のみの販売でしたが、後に欧州、アジア、オーストラリアなどでも展開されています。
エンジンは3リッター水平対向6気筒DOHCを搭載し、トランスミッションは5速ATが組み合わされ、可変トルク型のフルタイム4WDシステムを採用。
外観で特徴的だったのが、当時のスバル車が広く採用していた、いわゆる「ザパティナス顔」と呼ばれる飛行機の翼をイメージしたフロントグリルです。
2007年のマイナーチェンジで3.6リッターエンジンに換装されると同時に、車名を「トライベッカ」に改められ、フロントフェイスも一新されたのですが、個性は薄れてしまいました。
そして、2014年にトライベッカは生産を終了し、2018年に現行モデルのアセントが発売されました。
●マツダ「CX-9」
マツダもスバルと同様に海外専用車が少ないメーカーですが、大型SUVの「CX-9」が該当します。
初代CX-9は2007年に北米で発売された3列シートのSUVで、3.5リッターV型6気筒エンジンを搭載。2012年のビッグマイナーチェンジで、「魂動デザイン」の要素を取り入れたフロントフェイスに一新されました。
その後、CX-9は北米だけでなくオーストラリアをはじめとする74か国で販売され、グローバル累計販売台数は21万台となるヒットを記録。
2016年には2代目が登場し、エンジンは後に「マツダ6」にも搭載された新開発の2.5リッター直列4気筒ターボにダウンサイジングされました。
また、デザインも現在のCXシリーズに共通する魂動デザインを、全面的に採用しています。
ボディサイズは全長5064mm×全幅1968mm×全高1752mmと、国内のフラッグシップSUVである「CX-8」よりもひとまわり大きく、風格ある堂々としたサイズです。
先進安全技術「i-ACTIVSENSE」や新世代の4WDシステム「i-ACTIV AWD」が搭載され、諸性能が飛躍的に向上し、CX-8のベースにもなっています。
■トヨタの若者向けカジュアルクーペとは!?
●トヨタ「ヤリス」
トヨタは2020年2月に「ヴィッツ」の後継車となるコンパクトカー「ヤリス」を発売。これまで、海外でのヴィッツの名称だったヤリスに、グローバルで統一が図られました。
このヤリスは日本と欧州、アジア圏、北米で、同じ車名ながら異なる車種として販売されており、なかでも北米仕様のヤリスはマツダ「マツダ2」のOEM車です。
北米のヤリスは2015年に発売され、もともとは日本で販売していなかった「デミオセダン」をベースとしており、若者向けブランドのサイオンから「iA」として登場。
その後、サイオンブランドが消滅したため、現在はトヨタ「ヤリス」となっています。また、国内のマツダ2と同様な5ドアハッチバックの「ヤリスハッチバック」もラインナップされました。
外観はマツダ2と同様なフォルムですが、フロントフェイスにトヨタのデザインテーマである「キーンルック」を採用し、大きな開口部のフロントグリルが特徴です。
エンジンは全グレード共通で最高出力106馬力の1.5リッター直列4気筒ガソリンを搭載、
ボディサイズはセダンが全長4348mm×全幅1695mm×全高1486mm、ハッチバックが全長4105mm×全幅1695mm×全高1496mmと、「プリウスc(日本名アクア)」の販売が終了したため、トヨタの北米ラインナップではもっとも小さなクルマとなっています。
また、ユニークなのがセダンには6速MTが設定されていますが、ハッチバックは全グレードとも6速ATのみとなっている点で、ハッチバックは女性が通勤で使う「セクレタリーカー」としての需要を考慮していると思われます。
●サイオン「tC」
前述のとおり、サイオンは北米でトヨタが展開する若者向けブランドでした。2003年に始まり2016年に廃止されましたが、ラインナップは独特で、「bB」をベースにした「xB」や、「86」と同様なモデルの「FR-S」、「iQ」などとなっていました。
そして、完全にサイオン専用モデルだったのが、3ドアハッチバッククーペの「tC」です。
初代tCは2004年に発売され、ボディサイズは全長4420mm×全幅1755mm×全高1415mmとコンパクトながら、2.4リッター直列4気筒エンジンを搭載。駆動方式はFFのみとなっていました。
外観はショートデッキのリアまわりが特徴的なクーペスタイルで、精悍なFR-Sよりもカジュアルな印象です。
そして、2010年に2代目tCが登場。基本的なフォルムやサイズ感は初代からのキープコンセプトで、フロントフェイスはシャープなデザインに変化。
また、搭載されたエンジンは180馬力を発揮する2.5リッター直列4気筒のみで、トランスミッションは6速ATと6速MTが設定されました。
2014年にはフロントフェイスにキーンルックを取り入れ、「マークX」にも似た精悍なイメージに一新するビッグマイナーチェンジがおこなわれました。同時にサスペンションやトランスミッションもスポーティな味付けにチューニングされ、走りの質を向上。
しかし、販売は好調とはいえない状況が続き、2016年にサイオンの廃止とともに販売を終了しました。
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冒頭にあるとおり、現在の日本車は海外生産が盛んにおこなわれており、ユニークな海外専用車が数多く存在します。
なかでもアジア圏や南米で販売されているモデルは、独特なマーケットに向けてつくられているため、ユニークなモデルが多い印象です。
そうしたモデルのなかには、日本に導入すればヒットしそうなクルマもありますが、安全性能や質感の向上を図る必要があるため、実現は難しいでしょう。