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いまの2倍以上は走る!? トヨタが研究開発する「全固体電池」はEVの救世主になるのか

くるまのニュース 2020年8月16日 16時10分

トヨタが開発を勧める「全固体電池」は、EV(電気自動車)の性能を飛躍的に向上させる可能性があるバッテリーとして、いま注目を集めています。全固体電池という単語をニュースで見たことがある人も多いと思われますが、そもそも従来のバッテリーと何がちがうのでしょうか。

■トヨタが研究する次世代バッテリー「全固体電池」の特徴とは

 全固体電池(ぜんこたいでんち)という用語があります。EV(電気自動車)の開発にからんで、テレビやネットのニュースで見たことがある人もいると思いますが、全固体電池が本格的に実用化されると、EVの需要が一気に高まるという見方が、自動車業界の一部にはあるようです。本当にそうなるのでしょうか。

 現在、EVで一般的に用いられているリチウムイオン電池は、正極にリチウム酸化物、負極に炭素材料などを使用。正極と負極の間には電解質として電解液という液体が入っていますが、全固体電池は電解質を固体にするという考え方です。

 全固体電池のメリットについて、電池業界の一般的な見解として大きくふたつの点が挙げられています。

 ひとつは、電池の基本性能であるエネルギー密度と出力密度が上がることです。

 具体的な数字について、自動車技術カンファレンス「オートモーティブワールド」で、トヨタの技術者が2020年1月に明らかにしました。

 それによると、エネルギー密度では、電解液を使用する現行製品が300Wh/Lであるのに対して、全固体電池では400Wh/Lから800Wh/Lと、最大で2倍以上の性能アップが可能だと説明しています。

 これにより、EV向けの電池パックを小型化できたり、現状の電池パックの大きさを維持しながら航続距離を長くすることなどが可能となります。

 もうひとつのメリットは、安全性の向上です。

 リチウムイオン電池では、大型旅客機の搭載機器での火災事故が報道されたり、パソコンがいきなり燃えたといった動画がSNS上にアップされるなど、これまで安全性に対する課題が指摘されることがありました。

 こうした発火の主な原因として指摘されるのが、ショートサーキット(内部短絡)です。

 電池の温度管理が不適切だったり、電池内部に異物が混入するなどして、正極と負極の中間にあるセパレーターという部品が破損すると、電池内部でショートした火花が電解液に着火する場合がありました。

 近年は電池の製造時の安全性確保、電池内部構造の設計の見直し、電池の温度管理の制御技術の向上、また車両事故の際の安全性確保についての研究開発などが進んでいます。

 それでも、電解質が液体から固体になることで、発火の危険性が下がるという点では、トヨタをはじめ、EVを開発している自動車メーカー、電池メーカー各社の技術者の共通認識だと思います。

 しかし、なぜ最近になって、全固体電池に注目が集まるようになったのでしょうか。

■研究が進められる全固体電池、実用化なるか?

 時計の針を少し戻すと、いまから10年ほど前、日産「リーフ」や三菱「i-MiEV」が登場した2010年頃に、全固体電池の基礎研究に注目が集まり、筆者(桃田健史)も参加した自動車関連の学会や各種カンファレンスで研究成果が紹介される機会が増えました。

日産初代「リーフ」

 当時、中国では中国全土25都市で公共交通機関や物流向けにEV普及策があるなど、世界各地でEV普及が一気に伸びそうな雰囲気でした。

 そのため、自動車メーカーや電池メーカーは、大学など研究機関でおこなわれていた全固体電池研究に対する支援にも積極的でした。

 ところが、その後に中国のEV施策の中止や、東日本大震災の影響、さらに自動車メーカーが想定したほどEVの需要が高まらなかったことなどから、既存のリチウムイオン電池の量産効果が業界の当初予測ほどに達しませんでした。

 その影響が全固体電池の研究開発にも及びました。大学やメーカーの基礎研究としては着実に継続されたものの、量産化に向けた具体的な動きがスローダウンした印象があります。

 そうした状況に変化が見えたのは、2010年代の半ば過ぎだと思います。

 その頃、ドイツのフォルクスワーゲングループが中期経営計画で大胆なEVシフトを表明し、その流れにダイムラーやBMW、さらには部品大手のボッシュやコンチネンタルなども同調する動きが出始めました。

 背景には、中国政府が進める新エネルギー車政策や、欧州共同体(EU)の実務機関である欧州委員会(EC)による環境規制の影響などがあります。

 各種の規制強化によって、EVの需要が高まれば、高性能な駆動用電池が必要になるため、全固体電池の早期量産化に向けた動きに弾みがついた印象があります。

 そうしたなか、自動車メーカーとして全固体電池の実用化を公言しているのがトヨタです。

 ただし、トヨタは現在(2020年8月時点)でEV量産化について、日本では超小型車などを除いて明言していません。中国市場向けの量産車「C-HR EV」とレクサス「UX300e」は、あくまでも中国の新エネルギー車向けの、地域限定の対策として見切っています。

 トヨタ全体としての技術的な将来ビジョンでは、EVは比較的短距離な移動で使うシティコミューターに焦点を当て、長距離移動の次世代車は燃料電池車を開発の中核に置いています。

 そのうえで、トヨタとしては電池の基礎技術から量産技術まで、大学や電池メーカーと連携しながら、社内での電池開発の柱として全固体電池を位置付けています。

 当初、東京オリンピック・パラリンピックで全固体電池を活用したクルマのお披露目を計画していたといわれているトヨタ。近いうちに、何らかの発表があるのかもしれません。

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