トヨタは都内のレンタカー店舗を拠点として、シェアサイクルの実証実験を開始しました。自動車最大手であるトヨタが、自転車の領域にまで手を広げる理由とは、どのような背景があるのでしょうか。
■トヨタがレンタカー店でシェアサイクルを展開!?
トヨタはレンタサイクルサービス「ちかチャリ」で、2020年7月1日からシェアサイクルを実験的に始めました。
トヨタが、なぜこのタイミングでさまざまな自転車サービスを始めようとしているのでしょうか。
ちかチャリとは、トヨタ100%子会社のトヨタモビリティサービス(TMS)が、2019年6月25日から東京都内で始めた電動自転車の貸出し事業です。
車両は長距離を走っても疲れにくい26インチタイヤを使用。スマホで予約ができ、24時間利用可能です。料金(消費税込)は30分間130円、1日1100円とお手頃です。
貸出と返却の場所は、TMSが運営するトヨタレンタカーの店舗に併設しています。
同社は以前、トヨタレンタリース東京と名乗っており、その後に企業向けのリース事業を分社化していたのですが、2018年に再度統合してTMSへ生まれ変りました。
現在、レンタカー事業では都内に直営店50店舗があり、またリースは全国のトヨタ車リース事業の約2割に相当する16万台を有しています。
そんなTMSが、なぜこのタイミングで自転車サービス参入なのでしょうか。
ちかチャリを考案したのは、TMSの新規事業を担うBR(ビジネス・リフォーム)ネクストという部門です。同社の幹部やちかチャリ事業責任者に話を聞きました。
まず聞いたのは、なぜシェアサイクルにこのタイミングで参入するのかということです。
この点については、近年の市場実態として顧客ニーズが多様化し、クルマを保有ではなくカーシェア、レンタカー、リースなど利活用を重視するトレンドがあることを指摘。
そのうえで、ラストワンマイルと呼ばれる近距離移動で、シェアサイクルの必要性が高まると考えたといいます。
また、ウィズコロナ時代の感染予防の観点から、車内が密になりやすい公共交通機関ではなく、自転車通勤・通学をする人が増えてきたという社会情勢も加味しています。
新しい社会のなか「クルマ以外の移動領域もトヨタが支える」という発想があるのです。
そこで現場に近いTMSが実行部隊となり、トヨタ本社のモビリティサービス事業部と連携して「トヨタと社会(地域)との新しい関わり方」を模索しているのです。
現時点で、トヨタとして自転車製造事業に参入しようとしているワケではありません。
■ユーザーの期待値も高いトヨタのシェアサイクルの目的とは
次に聞いたのは、実証実験としていることについてです。都内ではNTTドコモなど、さまざまなシェアサイクルがすでに実用化されています。そこに後発として参入するのに、なぜ実証実験が必要なのでしょうか。
この点については、面白い答えが返ってきました。
「ワンウェイ以外の方法で、事業採算性を探るため」というのです。
一般的にシェアサイクルは、A地点からB地点までワンウエイ(乗り捨て型)で利用する人が多くいます。
一時、中国で爆発的なブームとなったシェアサイクルは、貸出・返却ポートを設定しないことが利点でしたが、その反面、市街地のいたるところに自転車が大量に放置され歩行や自動車の通行を妨げたため、当局が強制的に撤去する事態となりました。
また、ポートを使った場合を含めて、ワンウェイは自転車が偏在し、それを修正するために小型トラックに自転車を積み込んで貸出場所に再度置き直すという手間とコストがかかります。
TMSの実証実験では、貸出と返却が同じラウンドトリップを基本として、「ワンウェイでなくとも十分なニーズはある」という仮説のもと、成立する地域密着型のビジネスモデルを探るのです。
ポートについても、レンタカー店舗だけではなく、他事業者との連携を考慮したり、ポートの場所と自転車の台数について、実証実験の結果とユーザーのニーズをふまえて拡大することも検討しているといいます。なお、実証実験の期間は設定されていません。
ユーザー目線で見ればちかチャリは、「トヨタがやっているなら、間違いない」と、サービスに対する期待度が高いはずです。
TMSとしても、その点は当然自覚していて、トヨタの看板を掲げるからには「トヨタらしさ」を徹底して追求していくということです。キーポイントとなるのは、安心、安全、清潔、快適です。
自動運転や高度なコネクティビティといった最先端技術とは一線を画す、地域密着型でのトヨタの新しいサービスであるちかチャリの今後の動向に期待したいと思います。