メルセデス・ベンツ「300SL」をリスペクトしてガルウイングが採用された「SLS AMG」とはどのようなクルマだったのか、最新オークションに出品された2台のSLS AMGの落札状況を比べながら紐解いてみよう。
■これから人気が高まる予感しかない「SLS AMG」は、今が狙い目!?
2020年夏、オンラインで開催されたRMサザビーズの「オープン・ロード・ノースアメリカ」、そして「シフト・モントレー」の両オークションに、AMGによって独自に開発された「SLS AMG」が出品された。
ちなみに前者に出品されたのは4万6300マイル(約7万4000km)を走行した2012年モデルのSLS AMG、一方後者に姿を現したのは、究極のSLS AMGともいえる2014年モデルの「SLS AMGブラックシリーズ」で、3人のオーナーのもとを経ていながら、走行距離はわずかに2300マイル(約3680km)と、ほとんど走行していない状態の個体だ。
●AMGが独自開発した「SLS AMG」とは
まずはSLS AMGとはどのようなモデルであったのかを簡単に解説しておこう。
SLS AMGが正式に発表されたのは、2009年秋に開催されたIAA=フランクフルトショーでのことであった。
すでにメルセデス・ベンツの100%子会社となり、それ以前にはメルセデス・ベンツ、そしてイギリスのマクラーレンとともに、「SLRマクラーレン」シリーズ生産の一翼を担っていたAMGだが、2006年にはすでに独自のスーパースポーツ、後のSLS AMGの開発プロジェクトがスタートしている。
実際に誕生したSLS AMGは、あらゆる点で特徴的なエンジニアリングが施されたモデルだった。そのもっとも象徴的なものは、アルミニウム製スペースフレームの採用だ。
安全性を確保するためにAピラーの一部にスチール素材を使用しているものの、それは重量にして全体のおよそ4%にすぎない。
結果的に完成されたホワイトボディの重量は241kgという軽量なものだった。
搭載エンジンはM159型と呼ばれる6.3リッターV型8気筒自然吸気エンジンで、最高出力は571ps。トランスミッションは7速のDCT(AMGスピードシフト)で、前後重量配分を最適化するためにリアに配置された。エンジンとの間を接続するのはカーボン製のトルクチューブだ。
■コレクションモデルとして注目の「ブラックシリーズ」とは
それではオークションに出品された2台のSLS AMGを見てみよう。まずは2012年式のモデルから。
年式を考えれば十分に納得できるコンディションを持つモデルであるのは確かだが、やはり5万マイル(約8万km)に迫る走行距離が敬遠されたことが、売買が成立しなかった理由のひとつだろう。
●2012年式 メルセデス・ベンツ「SLS AMG」
ただし、装備内容は十分に魅力的だ。当時オプションで用意されていたフロント19インチ、リア20インチのホイールと、メルセデスAMG専用のシルバーメタリック色、AMGアルビームとの組み合わせも魅力的だし(いずれもオプション)、キャビンはフルカーボントリムでスポーティな雰囲気に包まれている。
RMサザビーズは、このSLS AMGを13万7500ドル(邦貨換算約1460万円)で販売することを、オーナーとの話し合いで決定したという。はたしてそれは高いのか安いのか。微妙な指値を提案してくるあたり、さすがはRMサザビーズだ。
●2014年式 メルセデス・ベンツ「SLS AMGブラックシリーズ」
一方の2014年式「SLS AMGブラックシリーズ」は、搭載されるV型8気筒エンジンが631psにまで強化された限定車で、わずかに4000km以下の走行距離は、ほぼ新車といってもよいくらいの一台である。
メルセデスAMG、あるいはメルセデス・ベンツのコレクターには見逃せない一台だろう。
SLS AMGは、2009年から2014年まで生産された。「ロードスター」や「E-Cell」など、さまざまなモデルが生産されたが、このブラックシリーズはそれらの頂点に位置するモデルだ。
エンジンの強化に対応して、専用のダンパーや50%も強化されたスプリング、前後トレッドの拡大、重心を下げるためにギアボックスの搭載位置をさらに10mm低下させるなど、ブラックシリーズではさまざまな策が講じられた。
エクステリアではカーボンファイバーのフロントスプリッター、サイドスカート、固定式のリアウイング、インテリアではアルカンターラやカーボン、レーシングバケットシートなど、スパルタンな雰囲気がさらに強調されている。こうした結果として、ウエイトは標準モデルから70kgも軽減された。
さらにバング&オルフセンのオーディオシステムまで装備されたSLS AMGブラックシリーズは、今回のオークションの主役級に近い存在だったのかもしれない。
落札価格は40万7000ドル(邦貨換算約4300万円)。そもそもの予想落札価格が40万ドルだったから、ほぼ予想どおりの結果だったことが分かる。