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軽自動車だけじゃ無理!? ダイハツの小型車販売が激増する理由とは

くるまのニュース 2020年8月27日 9時10分

軽自動車のナンバー1であるダイハツですが、昨今は小型車に力を入れており、小型SUVの「ロッキー」は好調な販売を記録しています。なぜダイハツは、小型車の販売を強化しているのでしょうか。

■ダイハツが軽から小型車の販売へシフト!?

 最近、ダイハツ車の売れ方に変化が生じています。以前は販売比率が少なかった小型車が増えているのです。

 とくにコンパクトSUVの「ロッキー」は、2020年1月から6月に1か月平均で2909台を登録しました。この台数は、ホンダ「ヴェゼル」(3015台)やトヨタ「C-HR」(3065台)に近いです。

「トール」や「ブーン」などのダイハツの小型車も、以前に比べると堅調に売れており、2020年1月から6月に日本国内で販売されたダイハツ車のうち、小型/普通車が11%を占めました。

 ほかのメーカーに比べると少ないですが、2017年はダイハツの小型/普通車比率はわずか4%だったところ、2018年は5%、2019年は7%と上昇を続けており、2020年のダイハツは小型/普通車比率を急増させているのです。

 現在のダイハツは2016年8月からトヨタの完全子会社です。子会社化する以前から同社コンパクトカーの「ブーン」をトヨタ「パッソ」として展開しており、ダイハツが開発と製造をおこなってトヨタにOEM供給していました。

 そうなると販売力の強いトヨタ車が売れ筋になり、ブーンの販売は低調でした。当時のダイハツの小型車比率も10%未満でしたが、いまは流れが変わっています。

 この点をダイハツの販売店に尋ねると、以下のような返答でした。

「以前のダイハツは、軽自動車が中心のブランドでした。小型車や普通車は親会社のトヨタが扱うので、役割を明確に分担していたのです。

 ところが最近は小型車の販売にも力を入れて、TVのCMも活発に流れています。販売店の試乗車も、ロッキーやトールを積極的にそろえています」

 軽自動車を中心に販売していたダイハツが、なぜ小型車に力を入れるようになったのでしょうか。

「一番の理由は、軽自動車の需要がいつまで続くか分からないことです。軽自動車税は以前の(年額)7200円から1万800円に値上がりしましたが、普通車の自動車税は逆に値下げされました。

 軽自動車と普通車の税金の差額が縮まり、軽自動車の経済性も薄れています。しかもいまはホンダや日産も軽自動車を多く販売しており、競争も激しくなりました。そこでダイハツは、小型車に乗り出したのです」(前出の販売店)

 販売店の指摘通り、税金の差額は縮まりました。以前は軽自動車税が年額7200円、自動車税は排気量が1リッター以下でも2万9500円だったので、軽自動車税は少なくとも2万2300円は安かったです。

 それがいまでは軽自動車税が1万800円に値上げされ、1リッター以下の自動車税は2万5000円に下がったので、差額が1万4200円に縮まりました。

 こうなると1リッターエンジンを搭載した魅力的なコンパクトカーが数車種発売されると、軽自動車の需要を奪われる心配もあります。

 軽自動車への依存度が高いとリスクが伴うため、ダイハツは小型車にも力を入れるようになったと考えられます。

■トヨタへ小型車をOEM供給するダイハツは不利?

 軽自動車中心のラインナップから小型車に注力する戦略をダイハツよりも先に開始したのがスズキです。

 スズキは2014年にダイハツと激しい軽自動車の販売合戦を展開して、両社とも、販売会社が在庫車を大量に届け出して販売台数を粉飾する自体にまで発展しました。

ダイハツが企画・製造するトヨタ「ライズ」と「ロッキー」

 新車として販売されるクルマを中古車にするので、大きなムダが生じます。軽自動車の中古車価格も値崩れを起こし、ユーザーが愛車を売却するときの金額を下げてしまいます。

 このような悪影響が生じたこともあり、スズキは2015年に発表した新中期経営計画において、軽自動車のシェアを30%以上に保ちながら、小型車の国内販売を10万台以上に高める方針を打ち出しました。

 そこでスズキは2016年1月に「イグニス」、3月にはインド製の「バレーノ」も導入して小型車の選択肢を増やし、12月には「スイフト」を現行型へフルモデルチェンジしています。

 その結果、スズキの小型/普通車の年間登録台数は、2016年には早くも10万台を超えました。2019年には、スズキは国内で小型/普通車を12万2031台登録して、軽自動車のシェアも30%でした。

 2015年の新中期経営計画を満足させ、なおかつ小型/普通車の売れ行きは目標の10万台を2万台以上多く達成しています。

 その点で、ダイハツが2019年に国内で登録した小型/普通車は4万3695台です。スズキの36%ですが、2010年のダイハツは1年間でわずか5825台でした。約10年で8倍近くまで増えており、ダイハツの小型車戦略が大きく変わったことを示しています。

 そしてスズキの小型車は、「ソリオ」が「デリカD:2」として三菱にOEM供給されるものの、基本的には専売車種です。

 しかしダイハツの場合はトヨタが姉妹車を大量に販売して、ロッキーのOEM車となるトヨタ「ライズ」も、2020年1月から6月の1か月平均が9749台と、ロッキーの3倍以上を販売していました。

 ダイハツの小型車がトヨタのOEM車と競争する以上、ロッキーの販売規模が上限かも知れません。売れ行きをさらに伸ばすには、かつての「シャレード」のようなダイハツ独自の小型車が必要でしょう。

 しかし開発コストと、見込まれる登録台数のバランスを考えると、ダイハツ独自の小型/普通車を用意するのは難しそうです。

 その意味で注目されるのが、ロッキーの最上級グレードとなるプレミアムです。ライズが用意していない仕様で、ソフトレザー調シート表皮が使われ、車内を上質に仕上げました。

 ロッキーの開発者は以下のようにコメントしています。

「ロッキーはダイハツの小型車なので、最近の上質になった軽自動車から、さらに上級移行されるお客さまも購入します。このときには価格の安さよりも質感が重視されるため、ロッキーには、ライズが設定しない最上級仕様を加えました」

 ロッキープレミアムのように、トヨタとは違うグレードや特別仕様車を魅力的に造り上げると、多額のコストを費やさずに人気や注目度を高めやすいです。

 ロッキーがヴェゼルやC-HR並みに売られた背景には、ダイハツの小型車市場に向けた新たな戦略が潜んでいます。

 2020年1月から6月の販売データによると、日本国内で売られたホンダ車の52%が軽自動車です。日産も軽自動車比率が42%に達します。

 その一方で、軽自動車販売ナンバーワンのダイハツが、小型車市場への進出を模索しているわけです。

 ダイハツの小型車には、トヨタの扱うOEM車とは異なる創意工夫が求められ、ホンダや日産が悠長にしていると、主力であるはずの小型車需要をダイハツやスズキに浸食されかねません。

 小型車を中心にしたライバル車同士の競争は、今後ますます激しくなるでしょう。各社が発憤すると、小さなクルマがますます魅力的になりそうです。

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