ヘッドライトを瞬時にハイビームに切り替えられる「パッシングライト」は、本来は、どのような用途で使うべきなのでしょうか。また、間違った使い方とはどのようなものなのでしょうか。
■追い越しの意思表示に利用される「パッシングライト」
ほとんどのクルマに装備されている「パッシングライト(通称:パッシング)」とは、ウインカレバーを手間に引くことで瞬間的にハイビームになる機能で、合図として使用した経験がある人も多いのではないでしょうか。
このパッシングライトは、道路交通法的には使用に関して厳密な規定がなく、どんな場面で使用するべきなのか、よくわからない機能のひとつだといえます。
「パッシング」は、「追い越し・追い抜き」を意味しており、後続車が先行車に対して「追い抜きたい」または「追い越ししたいので道を譲ってほしい」という意思表示として使う機能とされています。
道を譲って欲しいというサイン代わりのパッシングライトは、あくまでドライバー同士の意思疎通を図る方法とされているため、正式な規定は道路交通法にありません。
一方、道を譲って欲しいという解釈が難しく、最近では「道路交通法第4章第1節第70条」に記載されている「安全運転の義務」に違反し、取り締まりの対象になる可能性が指摘されています。
これは、「車両の運転者は、ハンドルやブレーキや車載装置を確実に操作して、状況に応じて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければいけない」というものです。
先行車に対して何度もパッシングするのは「危害を及ぼす行為」であり、違反として取り締まられると、違反点数2点に加えて反則金9000円が科されることになります。
近年あおり運転による事件や事故が多発したことから、あおり運転とみなされる行為に対して取り締まりが強化され罰則も厳罰化されました。
道を譲ってほしいという合図として使用されるパッシングライトは、たいてい1回から2回程度ですが、車間距離を詰めながらパッシングを執拗に繰り返せば、あおり運転と見なされる可能性もあります。
その場合は道路交通法の安全運転の義務違反だけでなく、車間距離不保持という違反となり、罰則は3か月以下の懲役か5万円以下の罰金となります。
さらに厳罰化された現在では暴行罪となる可能性もあり、パッシングライトが原因で交通事故などが発生してしまった場合は、危険運転致死傷罪に問われる可能性も出てきています。
ただし、1、2回程度のパッシングは「道を譲って」の意思表示として常識の範疇内だといえ、それだけで即違反になることはほとんどないでしょう。
■地域で違う!? 関東は「お先にどうぞ」関西は「先に行きます」
法的な基準はほとんどなく、ドライバー同士の意思の疎通を図るための手段として使われることが多い「パッシングライト」は、どのようなときに使うべきなのでしょうか。また、間違った使い方とは、どのようなことなのでしょうか。
都内の自動車教習所で教官を務めていたことがあるI氏は、次のようにいいます。
「あおり運転の取り締まりや罰則が強化されたこともあり、現在では高速道路での追い越しなどでも使わないほうがいいと思います。使用するにしても、パッシングライトの適正な回数は1、2回が限度。それ以上は威圧行動と覚えておいてほしいです。
また、車間距離を異様に詰めてパッシングを複数回繰り返す行為は、明らかなあおり運転ですので、絶対にしないでいただきたいです」
パッシングライトの使い方でポピュラーなのが、一般道での「お先にどうぞ」のサインです。対向車が速度を落としながらパッシングしているときは、右折車に道を譲っているケースが多いです。
しかし、地域によってはパッシングの意味が変わってくる場合があります。
関東では道を譲るという意味でパッシングライトを使いますが、関西では「先に行かせてもらいます」という真逆の意味になるため注意が必要です。
ほかにも、後続車や対向車がパッシングしてくる場合は「テールランプが切れている」「トランクやリアゲートが半開きになっている」「ヘッドライトがハイビームのまま」など、自分のクルマに異常があることを教えてくれているケースもあります。
1車線ずつの一般道などでパッシングされた場合は、インジケーター内の警告灯などがついていないかチェックしてみてください。
また、普通に走行しているだけで、パッシングされた経験がある人もいるでしょう。あおり運転を受けている可能性もありますが、そうでなければ自分の運転が周囲から危険だと思われている場合もあるようです。
「1度ならまだしも何度かパッシングされた経験がある人は、自分の運転が周囲に迷惑をかけている可能性を考える必要があります。
免許取得から間もない初心者ドライバーは、判断の遅れによる急な車線変更や急ブレーキ、適度な車間距離の保持ができていないことを自覚できていないことがあります。自分が迷惑をかけているのに被害者と思い込む運転はもっとも危険ですし、事故を起こす確率も高いのではないでしょうか。
限られたスペース内での教習所とは違い、一般道はずっと流れが速いということを改めて意識しておく必要があります」(教習所元教官 I氏)
※ ※ ※
パッシングライトは法的な基準がないからこそ、使い方次第では対向車や先行車、後続車に対して不快にさせてしまうこともあります。
心配ならば「パッシングライト」は使わなくてもいいと思いますが、コミュニケーション手段として上手に使い、みんなが気持ちよく運転できると良いのではないでしょうか。