2020年9月6日から7日にかけて、九州を中心とする西日本に接近する恐れのある台風10号に対して、気象庁は最大級の警戒を呼び掛けています。高潮や洪水などによるクルマの被害も懸念されますが、どこにクルマを避難させるのが良いのでしょうか。
■2018年にはフェラーリ50台以上が浸水した台風・高潮被害も発生
2020年9月4日現在、急速に発達しながら日本列島に接近中の台風10号(ハイシェン)は、2020年9月6日から7日にかけて、九州を中心とする西日本に勢力を落とさず接近する恐れがあると報じられています。
記録的な大雨、暴風、高波、高潮になる可能性があり気象庁では最大級の警戒を呼び掛けていますが、自らの命と愛車を守るためには、どのような行動をとるべきなのでしょうか。
いまから2年前の2018年9月4日に「非常に強い」勢力のまま日本に上陸した台風21号は、近畿・北陸地方を中心に60箇所で観測史上最大の最大瞬間風速を記録しました。
大阪府では4日昼前頃から猛烈な風となり、台風の接近に伴って潮位が急上昇。瞬間値で天文潮位よりも277cmも高い潮位を観測し、過去の最高潮位を超える値となりました。
記憶している人も多いと思いますが、記録的な高潮となった大阪湾周辺では関西国際空港をはじめ多くの場所が冠水の被害にあいました。
多くのクルマ好きにとって衝撃的だったのは、神戸にある人工島「六甲アイランド」にあるフェラーリの正規ディーラーで、50台以上のフェラーリが高潮の被害を受け冠水してしまったことかと思います。
フェラーリディーラーだけではなく、周辺の倉庫からコンテナが海に流れ出したり、冠水した車両から火災が発生したりと、高潮による甚大な被害を受けました。
六甲アイランドには、ほかにもポルシェの認定中古車センターがありますが、こちらは、同じアイランド内でも中央部に位置していることでクルマの移動もなしで高潮の被害はありませんでした。
フェラーリディーラーやコンテナのある倉庫は入り組んだ湾の奥に位置しており、まさに目の前が海という環境だったので高潮の被害が大きかったと思われます。
高潮とは、どのような状態なのでしょうか。
台風に伴う風が沖から海岸に向かって吹くと、海水は海岸に吹き寄せられて「吹き寄せ効果」と呼ばれる海岸付近の海面の上昇が起こります。
風速が2倍になれば海面上昇は4倍となるため風が強ければ強いほど海面の上昇も急激にあがります。とくにV字形の湾の場合は奥ほど狭まる地形が海面上昇を助長させるように働き、湾の奥ほど海面が高くなります。
台風が接近して気圧が低くなると海面が持ち上がる「吸い上げ効果」が起こり、外洋では気圧が1hPa低いと海面は約1cm上昇します。
それまで1000hPaのところに中心気圧が950hPaの台風が来れば、台風の中心付近では海面は約50cm高くなり周辺でも気圧に応じて海面が高くなります。
このようにして起こる海面の上昇を高潮と呼びます。
また、台風の接近と高潮の関係について気象庁では以下のように注意を呼び掛けています。
「高潮の被害は満潮時以外にも発生しています。台風の接近が満潮時と重ならないからといって安心はできません。
9月頃は海水温が高くなるなどの影響で、1年を通じてもっとも平均潮位が高くなる時期であることも、台風に伴う高潮災害を考えるうえで見逃してはいけません」
■底面まで水が来たらクルマは簡単に浮く! 冠水前にできる対策とは
重さ1トンから2トンほどの鉄の塊であるクルマですが、水が車体の底面を超えれば簡単に浮いてしまいます。
つまり、最低地上高の低いスポーツカー(10cm前後)はSUV(15cmから20cm前後)よりも早い段階でクルマが浮いたり、浸水が始まったりすることになります。
では、洪水や高潮で外が冠水し、クルマが浸水しそうなときには、どこに避難させるのが良いでしょうか。
高潮は地震と違って、気象情報や前ぶれの現象などにより、ある程度の予測は可能です。しかし、湾奥など地形特性によって局地的に高くなる高潮までは予測できません。
また、ダムが決壊したり、急激に雨量が増加したりで、瞬く間に洪水が押し寄せることもあります。局地的な現象はあまり時間を与えてくれないので自分自身ですばやく判断して行動することになります。
台風による大雨、強風は高潮のみならず、河川の氾濫などによる洪水の被害も予想されます。
冠水や浸水による被害からクルマを守るために、まず重要なのは、とにかく早めの「垂直避難」です。
よく、クルマの浸水が予想される際には「丘の上や坂の上など高台に移動させる」といわれますが、実際、地形的に「高台」がない地域もたくさんあります。また、高台に移動させた後、自宅までの帰り道も気になります。
その場合は早めに人工的な高台である立体駐車場に移動させましょう。
パチンコ店やショッピングモールなどの商業施設は、災害時の避難場所として市町村などと協定を結んでいるところも少なくありません。市町村の災害センターで確認するか、店舗などに直接問い合わせてください。
また、JAFに加入しておくのも効果的です。
JAFのロードサービスは損保やクレジットカードなどに無料付帯されるロードサービスとは違って、冠水し不動となったクルマの引き上げなど自然災害にも対応しています。
また、損保が「契約車両」だけを対象にしているのとは違い、「人」に掛けるシステムになっているので、JAF会員所有のクルマはもちろん、会員が使用中のレンタカーやカーシェアのクルマ、オートバイなども対象となります。
JAFでは毎年「自然災害の後に加入者が増える」といわれています。もちろん、JAFでも物理的に対応できないケースはあると思いますが、事前に入っておけば安心です。
そのうえで、高潮ハザードマップや国土交通省の「浸水ナビ」で自分の暮らす地域の危険性を確認しておくことも重要です。あらかじめ確認しておけば、スムーズに対応できるでしょう。
そして、気象庁は高潮注意報や高潮警報、また数十年に一度の台風や同程度の温帯低気圧により高潮になると予想される場合には「高潮特別警報」を発令しています。
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大切な愛車を浸水や冠水の被害から守るためには、雨風が強まる前にクルマの移動を考えることが重要です。風雨が強くなってからでは、帰宅までの徒歩移動が危険になる場合もあります。