いまやオークションで10億円のプライスで落札されることもある、マクラーレン「F1」の生みの親ゴードン・マレーが手掛けた「T.50」に、レーシングバージョンの計画があった。4億円オーバーの「T.50s」の全容とは。
■「T.50」にはやくもレーシングバージョンが登場!
ゴードン・マレー・オートモーティブは、究極のスーパーカー「T.50」のレーシングバージョンを発表した。
T.50は、100台限定で車両価格は236万ポンド(邦貨換算約3億3000万円)だが、2020年8月4日の世界初公開から48時間でソールドアウト。レーシングバージョンは果たしてどれほどのプライスになるのだろうか。
T.50を惜しくも購入できなかったというスーパーリッチの注目は、現在T.50のレーシングバージョン「T.50s」に注がれている。T.50sは25台限定で、車両価格は310万ポンド(邦貨換算約4億4000万円)だ。
T.50sの正式名称は2020年末の世界公開の際に発表される予定だが、すでに生産予定台数の半分以上が売約済みとのことだ。
車両重量は、ロードバージョンより96kgも軽い890kg、最高出力はロードバージョンより67psアップの730psとなる。このほか、レースやサーキットでの使用を想定して、従来のT.50に何百という大幅な改良が施されている。
ゴードン・マレー氏は、T.50sについて次のようにコメントしている。
「パフォーマンスを重視し、路上での法規制やメンテナンスの考慮から解放されたT.50sは、コース上で驚くべきパフォーマンスを発揮しマシンの能力をフルに発揮することになるでしょう。私たちはこのクルマをこれまでにないレベルに押し上げるためにすべてを費やして開発しました」
●エアロダイナミクスはどうなっている?
T.50sに追加された最大のパフォーマンス向上の秘策は、幅1758mmのデルタウイングをリアにマウントした点である。
新たに設計されたアンダーボディ エアロフォイル、フロントスプリッター、アジャスタブル ディフューザー、400mmファンとの組み合わせにより、1500kg以上のダウンフォースを発生させることに成功した。
T.50には、6種類のエアロダイナミックモードがあるが、T.50sは常に「ハイダウンフォース モード」となる。アンダーボディのディフューザーダクトを全開にし、常にファンを7000rpmで作動させているモードだ。
また、空力性能を大幅に向上させていているパーツは、ルーフ上部からテールエンドまでのエアロフィンだ。このフィンが、コーナリングでの安定を高めるだけでなく、車体上のエアを整流してデルタウイングに流す役割も果たしている。
●エンジンの変更点は?
コスワース製のGMA V型12気筒エンジンは、大幅に改良が施されている。騒音や排出ガスに関する規制がない分、エンジンのポテンシャルを最大限引き出すことに注力され、実に50以上のコンポーネントが変更されている。
たとえばシリンダーヘッドとカムシャフトの全面的な刷新、圧縮比をさらに高め、新開発のエキゾーストシステムなどが採用された。
また、T.50のルーフマウント型ラムエアインレットは、フロントウインドウ部分まで延長され、ペリスコープスタイルへと変更された。これにより、約30psのパワーアップに貢献している。
トランスミッションは、T.50のマニュアルトランスミッションからXtrac社製の6速IGS(Instantaneous Gearchange System)に変更され、パドルシフトで操作する。
■「T.50s」オーナーだけの特別なサポートとは?
コックピットは完全パフォーマンス重視仕様となる。ロードカーに装備されていたエアコン、インフォテイメント、収納コンパートメント、カーペットは装備されず、計器類も専用となる。
●コックピットは何が変わった?
T.50sでももちろんドライバーはセンターに座ることになる。シートはカーボンファイバー製のレーシングシートで、6点式ハーネスを装備。そしてドライバーの左側だけに助手席が用意された。これはコ・ドライバー用である。
ステアリングホイールは、F1スタイルの長方形の形をしたカーボンファイバー製を採用。だたしステアリングホイール上で操作できるボタンは、トラクションコントロール、ローンチコントロール、インターカムなどの必要最低限の機能だけとなる。
専用のディスプレイでは、トラックラップタイム、Gフォース、車両/エンジンデータなどのパフォーマンスに焦点を当てた情報のみが表示される。
●サスペンションやブレーキは?
T50.sは、T.50のカーボンモノコックを継承しているが、バディパネルやサスペンションなどは大幅に変更されている。車高はロードカーより40mmも低くなった。
スプリングレート、ダンパー、フロントアンチロールバーなどは、完全にレース用にチューニングされている。また、タイヤはミシュラン カップスポーツタイヤ2が鍛造マグネシウムホイールにセットされ、大幅にバネ下重量が軽減されている。
ブレーキはブレンボ製を採用し、フロントに6ピストンキャリパー、リアに4ピストンキャリパー、ディスクはカーボンセラミックとなる。これにより、2.5Gから3Gの制動力を発揮。
このほか、エンジンとトランスミッションの冷却システムは、センターフィンの設置を可能にするために車両の側面に移設された。
●オーナーだけの特権とは?
T.50sのオーナーは、セットアップ、トレーニング、レース、サポートを含む「Trackspeed」のフルカスタマイズパッケージを受けることができる。これは、完全にカスタマイズ&パーソナライズされたレース体験を目的としており、各オーナーの好みやドライビングスタイルに合わせて、T.50sに幅広い調整をおこなうものだ。
たとえば、シート、ステアリングホイール、ペダルなどの人間工学に基づいたカスタムメイドのセットアップに加え、各オーナーに合わせて車両のセットアップが可能だ。オーナーは、サスペンションやシャシバランスの微調整、デルタウィングの調整などをおこない、自分のドライビングスタイルや要望に合わせてクルマの性能を最適化できる。
こうした個別のセットアッププロセスでは、当然エクステリアカラーも自由に選択することができ、すべてのT.50sが唯一無二のものとなる。
「T.50sは、オーナーが定期的にドライブできるよう、トラックスピードパッケージの一環として、一連のレースイベントを開催したいと思っています。このクルマをドライブする経験に勝るものはないでしょう」
マレーのコメントによると、T.50sでのレース開催も構想にあるようだ。