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「タイヤに窒素ガス」を入れるサービスにメリットはある? その始まりとは

くるまのニュース 2020年9月23日 8時10分

10年以上前に流行した「タイヤに窒素ガスを充てん」するサービス。いまでもタイヤ販売店やガソリンスタンドなどでおこなわれているが、タイヤに普通の空気ではなく、窒素ガスを入れるメリットはあるのだろうか。

■「タイヤへの窒素ガス充てん」は飛行機からはじまった

 愛車のタイヤへ空気を入れる代わりに、窒素ガスを入れるサービスがある。

 一部のカー用品店では、タイヤを購入すると無料でおこなったり、有料で窒素を充てんするタイヤ販売店やガソリンスタンドもあり、目にすることも少なくないだろう。

 そんなタイヤへの窒素ガス充てんには、どんなメリットがあるのだろうか。

 タイヤに窒素ガスが最初に充てんされはじめたのは、じつは自動車用のタイヤではないようだ。

 それは飛行機だ。国内大手の航空会社である日本航空株式会社に話を聞いた。

「航空機のタイヤは、過酷な用途で使われます。着陸時には路面との摩擦で、かなり高温になります。そして機体重量も数百トンあることで、タイヤへの負担は相当なものになります。もし不測の事態が起きた場合、酸素が含まれない窒素ガスを充てんしたほうが、火災等が起こる可能性を最小限にすることができます」(同社広報)

航空機用タイヤには窒素ガスが充てんされている

 そしてもうひとつ、特殊な環境であることも窒素ガスを充てんする理由だという。

「航空機の主流となるジェットエンジンを搭載した機種は、高いところだと高度1万mまで上昇します。その際、外気温はマイナス60度という、極低温の環境におかれます。

 そういった環境下では、水は凍結してしまうため、もしタイヤに空気を充てんしていた場合、空気に含まれていた水分がタイヤ内に影響を及ぼし、タイヤ空気圧が急激に低下します。高度を徐々に下げて着陸するまでに、もしも空気圧が戻らなければ大変危険な状態になります。

 一方で、タイヤへ空気を充てんしていた場合は、着陸時にも危険が生じます。先の話と重複しますが、空気中の水分は高温時には水蒸気となり、体積を膨張させるので空気圧が一気に高まる危険性があります。そういうこともあり、航空機のタイヤには窒素ガスを充てんしています」(同社広報)とコメントする。

 つまり極端な外気温の変化に対応するために、飛行機のタイヤには窒素ガスの充てんが必須というわけだ。

 いつからそうした取り組みが行なわれているのか、続けて聞いてみたが「残念ながら詳細は不明です。しかし相当以前から使用されていると聞いています」とのこと。

 飛行機の歴史は長く、さらにジェットエンジンを搭載した飛行機が高高度を飛ぶようになって、かなりの年月を経ている。そうした歴史を考えると、タイヤに窒素ガスを充てんする取り組みは、相当以前からおこなわれているのではと推測できる。

■レースで窒素ガスが使われだしたのは1980年代?

 窒素ガスを充填することは、なぜふつうの空気を入れるよりも良いのだろうか。そもそも空気も約80%が窒素なので、窒素100%のガスを入れるメリットがないように感じてしまう。 

タイヤ交換の様子

 窒素ガスは、製造工程でほとんどの水分が除去される。ここが大きなポイントだ。

 水分が除去されることで、気温が暑くなったり寒くなったり、また走行したことでタイヤが熱くなっても、水分が含まれていないことで、それらに左右されることなく常に一定の圧力が保たれるのだ。

 カー用品店などでタイヤに窒素ガスを充てんするサービスが始まる前から、一部の業界ですでに使われていた。それはモータースポーツだ。

 日産のモータースポーツ活動を担うNISMOによると「レースではタイヤを交換する時に使うインパクトレンチや、レースカーを素早くリフトアップするエアジャッキなどに窒素ガスを使っています。高圧で力が必要であることと、安価であることが窒素ガスのメリットです。

 もちろん、タイヤの充てんにも使っています。窒素ガスをタイヤに使い始めたのは、いつ頃かはハッキリしていませんが、エアジャッキがレースで使われ始めたのが1983年あたりからなので、おそらくその年代からだと思います」とのことだった。

現在もモータースポーツシーンではタイヤに窒素ガスを入れる

 では、タイヤへの窒素ガスの充てんは、実際のレースシーンではどんなメリットがあるのだろうか。 

 実際にワンメイクレースに参戦する人に話を聞いてみたところ「タイヤの空気圧はシビアで、やはりタイムに差が出てくるので、窒素ガスを充てんして使っています。エア抜けしにくいと感じます。また熱ダレに強い、という話は聞きますが、あまり感じたことはありません。でも、空気圧が安定しているというのは間違いないですね」とコメントする。

 いまではカー用品店やタイヤ販売店、ガソリンスタンドなどでも窒素ガスを充てんするサービスが広がっている。実際にカー用品店で聞いてみた。

「ウチの店では、タイヤ購入のお客様に無料で充てんしています。窒素ガスだとエア抜けしにくいことや、タイヤが減りにくいといった利点を説明しています。充てん後1年間は、補充無料です。有料での充てんもおこなっており、その場合1本540円で提供しております」(東京23区大手カー用品店ピット担当)

「タイヤを購入していただいたお客様に無料で充てんしています。充てん後は、そのお買い上げいただいたタイヤを装着している限り、補充は無料です。有料での充てんも承っています」(東京23区タイヤメーカー系店舗売り場担当)

※ ※ ※

 ここまでメリットばかり取り上げたが、実際に普段クルマを使う上で役に立つのだろうか。

 先ほど紹介したワンメイクレースに参戦している人に、普段から愛車にも窒素ガスを充てんして使っているのか、聞いたところ「(窒素ガスを)充てんしてくれる所が限られているので、普段はふつうの空気を入れて使っています。それにエアが抜けづらいといっても、ほったらかしというのは信条的にイヤ。なので、普段は1か月に一度は空気圧をチェックしています」という。

 カー用品店でも「窒素ガスを入れるとエア抜けがしにくいからといって、メンテナンスフリーではなく、徐々に抜けていきます。ですので、まったく空気圧を点検しなくても良いということではないと説明しています」とのことだった。
 
 窒素ガス充てんのメリットは確かにあるが、充てんできる場所が限られてくる。日ごろからサーキット走行を楽しむ人以外は、メリットはそんなに多くないようだ。

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