日本で本格的な自動車製造が始まってから、すでに100年以上経ちます。その長い歴史のなかではエポックメイキングなクルマや、それまでのコンセプトから大きく変わったモデルも存在。そこで、各メーカーにとって大きな転機となったモデルを5車種ピックアップして紹介します。
■メーカーが大きく変わったきっかけとなったクルマを振り返る
カール・ベンツが内燃機関を搭載した自動車を発明して以来、130年もの歴史が刻まれました。日本でも本格的な自動車製造が始まったのは大正時代で、すでに100年以上経ちますが、長い歴史のなかでは革新的なクルマや、画期的なクルマが誕生しています。
これまで数多くの国産車が登場していますが、時にはメーカーにとっても大きな転機となったようなクルマも存在。
そこで、それまでのコンセプトや概念を大きく変えたモデルを、5車種ピックアップして紹介します。
●トヨタ12代目「クラウン」
トヨタは1955年に初代「トヨペット クラウン」を発売。まだ庶民がマイカーを持つことが夢のような時代に、すでに高級車としての風格がありました。
その後、クラウンはトヨタを代表する高級車として代を重ねますが、大きくコンセプトが変わったのは、2003年に発売された12代目です。
外観はそれまでの保守的なデザインから、フロントノーズをスラントさせたスポーティなイメージに一新。全体のフォルムも、重厚さよりも軽快感を強調しています。
また、シャシも変わり、エンジンは直列6気筒を廃止して全車V型6気筒を搭載。足まわりもフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクとなり、乗り心地を犠牲にすることなく、安定したスポーティな走りを両立。
トヨタ自身も12代目を「ゼロ・クラウン」と呼称し、新たなスタートを切ったことをアピールしました。
現行モデルは2018年にデビューした15代目で、12代目以降のコンセプトを受け継ぎ、シリーズ初の6ライトウインドウの採用でクーペスタイルとなり、ニュルブルクリンクで鍛えた足まわりなど、スポーティなクラウンをさらに強調しています。
●ホンダ初代「フィット」
ホンダは1972年に次世代のコンパクトカーとして初代「シビック」を発売。その後、エントリーモデルとして革新的な初代「シティ」が誕生し、「ロゴ」へと受け継がれました。
しかし、ロゴは単にコンパクトで安いだけのイメージで、取り立てて秀でた部分は見られず、実際のセールスでもヒット作とはいえません。
そこでホンダは2001年に、すべてを一新した新時代のコンパクトカーの初代「フィット」を発売。
新開発のシャシは、燃料タンクを前席下に収める「センタータンクレイアウト」を採用したことで、クラストップの広い室内を実現。
エンジンも新開発された1.3リッター直列4気筒SOHCの「i-DSI」を搭載し、十分なパワーと低燃費を達成しています。
この初代フィットの大ヒットによって、同じシャシ、エンジンを使った派生車が次々にデビューしました。
2020年2月に現行モデルの4代目が発売されましたが、コンセプトは初代から継承。また、世界各地でフィットから派生したモデルが販売されています。
なお、センタータンクレイアウトは軽自動車の「N-BOX」シリーズなどにも展開され、現在、ホンダのスモールカーの標準となっています。
●マツダ初代「CX-5」
2012年に発売されたクロスオーバーSUVの初代「CX-5」は、現在のマツダを象徴するモデルです。
初代CX-5は、革新的な技術コンセプトであるスカイアクティブテクノロジーを、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、トランスミッション、ボディ、シャシと、同社で初めてすべてに採用することで、上質で気持ちのいい走りと、優れた燃費性能を両立。
デザインにおいても、マツダのデザインテーマ「魂動(こどう)」を初めて全面的に採用したモデルです。
パワーユニットは、新世代クリーンディーゼルエンジン「スカイアクティブ-D 2.2」が初めて搭載され、高価なNOx後処理装置なしでポスト新長期排出ガス規制に適合するなど、国内市場でディーゼルエンジンの普及を一気に加速させました。
また、ブレーキの自動制御で衝突被害の軽減を図る「スマート・シティ・ブレーキ・サポート(SCBS)」を初採用するなど、すべての面で現行ラインナップの基礎といえるのが初代CX-5です。
現行モデルのCX-5は2017年に発売された2代目で、初代のコンセプトを大きく変えずに開発され、マツダのラインナップのなかで主力車種となっています。
■平成元年に登場した2台の革新的モデルとは
●スバル初代「レガシィ」
現在、スバルが提唱する水平対向エンジンと4WDシステムを組み合わせた「シンメトリカルAWD」の源流は、1971年に僅かな台数のみ生産された「スバルff-1・1300Gバン4WD」です。
そして、ff-1の技術を昇華させ、同年にスバル初代「レオーネ」が誕生。名車と呼ばれた「スバル1000」の後継車として水平対向4気筒OHVエンジンを搭載し、ボディタイプも2ドアクーペ、セダン、ライトバンを展開。
レオーネは乗用車タイプの4WD車という新たなジャンルを開拓しましたが、1980年代にはライバル車に対して旧態然とした設計では太刀打ちが困難になりつつありました。
そこでスバルは1989年に、すべてを新開発した初代「レガシィ」を発売。セダンとステーションワゴンをラインナップしました。
トップグレードには200馬力を誇る2リッター水平対向4気筒ターボエンジン「EJ20型」を搭載し、フルタイム4WDが組み合わされ、高速走行から雪道まで安定した走行が可能でした。
こうしてデビューした初代レガシィは大ヒットを記録。なかでも「ツーリングワゴン」は高性能ステーションワゴンのブームのきっかけになったほどです。
レガシィの誕生によって、スバルのクルマづくりは大きく変わり、「インプレッサ」や現在の「レヴォーグ」にも、コンセプトは生かされました。
●日産8代目「スカイライン」
1957年、プリンス自動車から発売された初代「スカイライン」は、当時としては先進的なメカニズムを搭載したセダンとしてデビュー。同じくプリンス製の2代目はレースで活躍することで、スカイラインの高性能さを証明します。
3代目以降は日産から発売され、スポーティ路線を継承して代を重ね、1989年に発売された8代目では、足まわり、ボディデザイン、内装のコンセプトが一新されました。
1985に登場した7代目は、当時人気のあった「ハイソカー」を意識した直線基調のデザインでしたが、8代目では曲面を組み合わせたボリューム感のあるデザインに変貌。さらにボディサイズも7代目からダウンサイジングが図られています。
内装もそれまでの直線基調から、ラウンドしたメータークラスターやコクピットに変わりました。
トップグレードに搭載されたエンジンは、2リッター直列6気筒DOHCターボ「RB20DET型」で、最高出力215馬力を発揮。
足まわりも伝統的な前ストラット/後セミトレーリングアームから、4輪マルチリンクとなり、運動性能が飛躍的に向上し、シリーズ初の4WDモデルも設定されました。
8代目スカイラインというと、「スカイラインGT-R」の復活ということが大きく取り上げられましたが、実際には後の日産製FRモデルの基礎となり、8代目は大きなターニングポイントだったといえます。
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日産は1980年代に「1990年までに走りにおいて世界一を狙う」というスローガンを掲げ、これを「901活動」と名付け、プロジェクトをスタートさせました。
この901活動実現に向け開発されたのが、北米市場をターゲットとした4代目「フェアレディZ」、欧州市場向けには初代「プリメーラ」、日本市場ではR32型「スカイラインGT-R」です。
これらのモデル以外でも昭和の終わりから平成の始めに登場した日産車は、革新的なモデルばかりで、会社としても大きな転機となりました。
しかし、バブル崩壊前から日産の財務状況は悪化し始めており、後のルノー×日産アライアンスへとつながってしまいます。
そしてコロナ禍の2020年7月に、日産は新たなCIマークを発表しました、これこそ次の大きな転換への序章なのかもしれません。