2020年も多くのSUVモデルが登場しました。新規やフルモデルチェンジなどSUVの勢いは衰えませんが、実際の販売面ではどのような影響が出ているのでしょうか。
■SUVはお腹いっぱい? それでも続々と登場するワケとは
日本のみならず世界中で「SUVブーム」といわれて久しいですが、SUVへのユーザーの関心が高まったことで、実際の販売面ではどのような変化があったのでしょうか。
SUVとは「スポーツ・ユーティリティ・ビーグル」の略で、日本ではその先駆けとして1980年代後半から1990年前半に掛けてRV(レクリエーショナル・ビークル)というジャンルが確立されたことから始まります。
1980年代に販売されていた四輪駆動車は、ラダーフレームにボディや荷台を架装したトラックと同じ構造の堅牢なモデルがほとんどでした。
その後、乗用車のプラットフォームを採用したトヨタ「RAV4(1994年)」やホンダ「CR-V(1995年)」が登場したことで、現在の都市型SUVとなるジャンルが徐々に定着。トヨタ「ハリアー(1997年)」、スバル「フォレスター(1997年)」、日産「エクストレイル(2000年)」、マツダ「CX-5(2012年)」と続々と登場していきます。
2020年10月現在、日本市場における各社のSUVラインナップは、トヨタが「ライズ」「ヤリスクロス」「C-HR」、「RAV4」「ハリアー」「ランドクルーザープラド」「ランドクルーザー(200系)」の7車種。さらに、2020年7月にタイで発表された「カローラクロス」は近い将来に日本導入する可能性が高いようです。
スズキは、「ハスラー」「ジムニー」「ジムニーシエラ」「クロスビー」「SX4 S-CROSS」「エスクード」の6車種をラインナップ。マツダは、「CXシリーズ」の4車種に加え「MX-30」が2020年秋に発売予定です。
それ以降は、三菱が4車種、スバルが3車種、ホンダ、日産、ダイハツ(タフト含む)が2車種という状況です。ただし、日産は2021年中頃に電気自動車の「アリア」を発売予定としています。
また、これらのなかで直近1年以内に新規またはフルモデルチェンジで登場したSUVは、マツダ「CX-30」、ライズ、ダイハツ「ロッキー」、トヨタ「ハリアー」、日産「キックス」、トヨタ「ヤリスクロス」の6車種にのぼるほど、SUV市場は激化しているのです。
各社からSUVが続々と登場することで販売現場ではどのような影響が見られたのでしょうか。トヨタの販売店は次のように話します。
「トヨタでは、人気のライズとヤリスクロスという使い勝手の良いモデルが非常に好調です。とくに、高齢層のお客さまの乗り換えや地方でのセカンドカーといった需要があります。
さらに、ハリアーも新型になったことで内外装のデザインが大幅に向上し、他社の上級セダンや輸入ブランドからの乗り換えが増えました。
また、2020年5月から全店舗で全車種を扱いとなり、コンパクトカーやミニバンを見に来た人がSUVを検討することや、トヨタブランド内でSUVを比較されることが以前にも増して多くなったことは、他社にお客さまが流れないという部分では大きいです」
また、トヨタ同様に豊富なSUVラインナップを誇るマツダの販売店は次のように話します。
「現在、マツダにはCX-3、CX-30、CX-5、CX-8というSUVがあります。パッと見るとデザインが似ているように思えますが、それぞれパワートレインや想定利用シーンなど商品パッケージでは異なった特徴を持っています。
また、近いうちにはマイルドハイブリッドのMX-30も出てくるので、SUVを検討されているお客さまの細かなニーズに応えられると思います」
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一見するとSUVが続々と登場することで市場が飽和状態となることが考えられますが、現時点で日本のSUV市場は、各社が異なるサイズ、パワートレインを設定するモデルを登場させることでユーザー側の選択肢が広がり、販売面ではあまりデメリットは無いようです。
しかし、ブームはいずれ落ち着くものです。さらには、昨今の自動車メーカーでは「選択と集中」がおこなわれており、トヨタは「タンク」を廃止して「ルーミー」に一本化。ホンダは「シビックセダン」「グレイス」「ジェイド」を生産終了するなど、相次いでラインナップを整理しています。
今後、増えすぎたSUVが整理される可能性もあり、いつまでSUVブームが続くのか気になるところです。
■ミニバンとSUVの密な関係。 SUVが売れるとミニバンが売れなくなる?
SUV(RV)のジャンルが確立した約30年前、ミニバンは、家族や友人といった複数人でクルマに乗って旅行などに出かける需要が高まったことから、人気が高まりブーム化したといわれます。
なかでも、トヨタ「エスティマ」やホンダ「オデッセイ」などの登場をきっかけに、ミニバン人気に火が付きました。
2000年代に入ってからはトヨタ「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」、日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」といったミドルサイズミニバンが売れ筋のモデルになります。
その後もラージサイズの高級ミニバンでは、日産「エルグランド」、トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」が登場したことも現在のミニバン人気に繋がります。
その一方で、コンパクトサイズのトヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」では、3列シートの多人数乗車のみならず、レジャー道具の積載性や車中泊などの使い勝手に特化した2列シート車を設定。この2列シート車が、これまで多人数乗車をウリにしていたミニバンに2列(5人乗り)という新たな需要を生むという変化をもたらしているようです。
マツダは、ミニバン市場のユーザー動向を調査。2010年のミニバン市場と比べて2018年では、ミニバンから他ジャンルに乗り換えるユーザーが増えているといいます。
一方で、SUV市場は年々増加傾向にあるとマツダはいい、国内SUVの登録車/軽自動車の販売台数の推移は20万台強でしたが、2018年には約65万台を記録し2019年には70万台に近い台数になったようです。
SUV市場について、マツダの国内営業本部の担当者は次のように説明しています。
「国内のSUV市場は伸び続けているといえ、直近でも新型SUVの投入は続いており、今後もさらに伸びると想定しています。
一方で、セダンやミニバン市場の縮小傾向が続くなか、SUVの構成比は2010年からの9年間で2.5倍増となり、2018年にはセレナやアルファードなどのミドル・ラージサイズミニバンと同等の構成比です。
そのため、SUVは登録車全体で高い構成比を占める小型ハッチバック(アクアやマツダ2など)に次ぐ、2位規模の市場に成長しているといえます」
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前述のようにSUVの全体数はある程度の種類まで増えると頭打ちとなり、売れるモデルが残るように整理されることが予想されますが、市場希望に関してはいまや高いシェアを誇っていることもあり、当面の間はこの傾向が続くのかもしれません。