古くから、クルマの基本的なボディタイプと言えばセダンでした。しかし、近年のトレンドはSUVやミニバンであり、セダン人気は低迷しつつあります。そんななか、最新のセダンの多くが「スポーティ」であることをアピールしていますが、その背景には何があるのでしょうか。
■クルマの基本はセダンからSUVへ?
戦後、急激に発展してきた日本の自動車産業ですが、モータリゼーションが本格化しはじめた高度経済成長の頃、クルマの基本的なボディタイプといえばセダンでした。しかし、近年のトレンドはSUVやミニバンであり、セダン人気は低迷しつつあります。
そんななか、最新のセダンの多くが「スポーティ」であることをアピールしていますが、その背景には何があるのでしょうか。
かつてのセダンは車種によってはクーペやワゴンなどもラインナップされていましたが、それらは基本的にはセダンからの派生モデルという位置づけでした。
現在でいうところのSUVやミニバンに近いものも一部存在していましたが、あくまで軍用や商用など用途が限定されているものがほとんどでした。
乗用車の基本は、ボンネット・キャビン・トランクがそれぞれ独立した形状、つまりセダンであり、特定の目的がある人でなければ、それ以外のボディタイプを積極的に選択する人はあまりいなかったといわれています。
一方、現在の新車のラインナップを見るとむしろセダンは少数派です。とくに近年では国内外の各メーカーがSUVに力を入れており、世界的なトレンドとなっています。
加えて、コンパクトハッチバックやミニバン、そして軽自動車が乗用車販売のほとんどを占めており、むしろセダンを選択する人が少なくなっているといいます。
あえていまセダンを選択する人はどのような人なのでしょうか。国産メーカーの販売店スタッフは次のように話します。
「セダンを選ぶお客さまは、そのモデルでなければならない方、もしくは『クルマといえばセダン』という方がほとんどです。つまり、ほとんどがいわゆる『指名買い』であり、なんとなく選ぶ人はほとんどいません。
あまりコストを掛けたくない人や、運転のしやすさを重視する人には軽自動車やコンパクトカーがありますし、多人数乗車がメインの方はミニバンに興味を示します。
トレンドに敏感な人や、アクティブな趣味をお持ちの人は、近年ではSUVを検討されることが多くなっています。これらのボディタイプと比べると、セダンにはわかりやすいメリットがなくなってきており、『指名買い』に頼っているのが現状です」
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かつては技術的な制約もあり、セダン(とくにFRセダン)こそがもっとも合理的なボディタイプとされてきました。
しかし、近年では技術の進歩により、居住性やデザイン、運動性能、燃費性能、そして安全性を兼ね備えたボディタイプが可能となりました。
消費者にとって選択肢が増えたことで、結果としてセダンは少数派になってしまったといえます。
■「スポーティ」をアピールするのはなぜ?
SUVなどに押されつつあるセダンですが、もちろん現在でも各メーカーのラインナップには並び続けています。しかし、最近登場するセダンの多くが、「スポーティ」をアピールしています。
例えば、日本のセダンの代名詞であるトヨタ「クラウン」は、ドイツのニュルブルクリンクで走りを鍛えたとし、公式ホームページでも「目指したのは、クラウン史上最高にスポーティな一台」と明記されています。
また、レクサスのセダンモデルは、スポーティなデザインの「Fスポーツ」をメインビジュアルに採用。ホンダの上級セダンである「アコード」も、スポーティな走りが高評価を得ています。
さらに、もともとスポーティさには定評がある日産「スカイライン」は、より走りに特化した「400R」をラインナップ。
これらのモデルでは、消費者の好みに合わせて落ち着いた仕様を選択することも可能ですが、ホームページやカタログなどで積極的にアピールされているのは、やはりスポーティな仕様がほとんどのようです。
セダンがスポーティ化していく事情について前述の販売店は次のように説明します。
「セダンを購入する人の多くが『指名買い』となってきたことで、各モデルには『指名されるための何か』が必要になってきたのだと思います。消費者にとってもっともわかりやすいのが、『スポーティなデザイン』なのではないでしょうか。
また、セダンは重心の低さからSUVやミニバンに比べてスポーティな走りを味わえるという利点があります。
まずデザインに興味を持ち、そして試乗してそのスポーティは走りを気に入る人も少なくありません。2ドアのスポーツカーやクーペとは違い、4ドアとしての実用性もあるため、家族がいる人でも日常的に使用できることも魅力です」
実際に、SUVを検討していたものの、最終的にセダンを購入した人に話を聞いたところ、そのスポーティな走りが決め手となったと話します。
「実家がホンダ党ということもあり、ホンダ車のなかで検討をしていました。多人数乗車ができたら便利だと考えたのと、月に1-2回は大きな荷物を積んで移動するということもあり、はじめは『CR-V』を見にディーラーへ行きました。
燃費も重視していたので、ハイブリッドモデルを考えていましたが、CR-Vの場合、ハイブリッド仕様だと5人乗りしか選択できないことがネックでした。
ガソリン仕様にすべきかと悩んでいると、たまたま『インサイト』の試乗車が置いてあったので、試しに試乗することにしました。
CR-Vも走りは悪くなかったのですが、やはりインサイトのほうが重心が低い分、スポーティな走りをしてくれたのが気に入りました。結局、その走りが決め手となりインサイトを選びました。購入後1年ほど経ちますが、燃費も良く、トランクもそれなりに広いので、いまのところ悪い選択ではなかったと感じています」
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いまでも多くの教習車がセダンであるなど、セダンがクルマの基本であった時代の名残はさまざまなところに見ることができます。また、「クルマといえばセダン」というイメージから、セダンを好む人も少なくありません。
しかし、現在ではセダン以外のボディタイプが充実していることから、今後はそのモデルに積極的に魅力がなければセダンは選ばれなくなってくると考えられます。
そういった背景から、多くのセダンがスポーティ路線へと舵を切ることで、ほかのボディタイプにはない魅力をアピールしているといえます。