2020年10月12日に、日産は新型「エルグランド」を発表。高級ミニバンのパイオニアとして誕生したエルグランドですが、ライバルも出現し、覇権争いが続いています。そこで、新旧のプレミアムミニバンを5車種ピックアップして紹介します。
■高級ミニバンのパイオニア、新型「エルグランド」登場で新旧モデルを振り返る
ミニバンに準ずる多人数乗車のワゴンの歴史は意外と古く、1960年代には商用の1BOXバンをベースにしたモデルが誕生しています。その後、1982年に乗用車のシャシを用いた、8人乗りスライドドア・ワゴンの日産「プレーリー」が発売され、いまミニバンの基本的な構成を確立。
そして、1994年に発売されたホンダ「オデッセイ」のヒットによって、ミニバンの普及が一気に加速しました。
各メーカーからオデッセイと同様なコンセプトのミニバンが次々と発売されると、次第に個性的なモデルや多様性が進み、ミニバンにも高額なモデルが登場。
そのなかの1台が、2020年10月12日にマイナーチェンジした日産「エルグランド」です。
そこで、新型エルグランドとライバル、さらに過去に販売されたプレミアムなミニバンを、合計5車種ピックアップして紹介します。
●日産「エルグランド」
前述のとおり、高級ミニバンの先駆け的存在としてデビューしたエルグランドは、初代が1997年に発売され、現行モデルは2010年に登場した3代目です。
現行モデルのエルグランドで話題となったのが、先代までFRだったのに対しFFとなり、室内空間が格段に広くなったことです。
そして、2020年10月12日にマイナーチェンジを実施。ボディサイズは全長4975mm×全幅1850mm×全高18150mm(350ハイウェイスター)と、堂々とした体躯です。
パワートレインは3.5リッターV型6気筒エンジンと、2.5リッター直列4気筒エンジンの2種類で、トランスミッションはどちらもCVTが組み合わされます。
今回のマイナーチェンジでは、さらに押し出し感の強いフロントフェイスに一新し、フロントグリルは精悍な漆黒の「ブラッククローム」と高級感のあるエレガントな「サテンクローム」を設定。
内装ではインパネに10インチの大型ディスプレイの装着が可能で、プレミアムシートは連続したキルティングパターンへと変更が加えられるなど、さらに高級かつモダンな印象に変化しました。
さらに、先進安全機能も向上し、新たに前方を走行する2台前の車両を検知して急な減速などにより、自車の回避操作が必要と判断した場合には、警報によってドライバーに注意を促す「インテリジェントFCW(前方衝突予測警報)」、走行中に隣接レーンの後側方を走行する接近車両との接触を回避するようステアリング操作を支援する「インテリジェントBSI(後側方衝突防止支援システム)」などを標準装備。
また、3.5リッターモデルをベースに、オーテックジャパンが2列シートの4人乗車仕様を設定する「VIP」も引き続きラインナップ。スポーティなNISMOパフォーマンスパッケージ、内外装をカスタマイズした「オーテック」など、豊富なバリエーションを展開しています。
新型エルグランドの価格(消費税込、以下同様)は、369万4900円から759万3300円です。
●トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」
まさにエルグランドに対抗するように、2002年に発売されたトヨタ「アルファード」は、大型ミニバンの「グランビア」と「グランドハイエース」の後継車としてデビュー。
それまでFRだった駆動方式をFFに改め、広い室内と上質な走りを実現しました。
2008年に2代目にモデルチェンジすると同時に、シャシや装備、パワーユニットなどを共有する兄弟車の「ヴェルファイア」が登場。
アルファードが上品さを売りにしているのに対して、ヴェルファイアは力強さを感じさせる外観で、比較的若い世代からも人気を獲得しています。
そして、現行モデルの3代目アルファード、2代目ヴェルファイアは、2015年に発売され、外観はより押し出しが強くなり、プレミアムミニバンにふさわしい豪華装備が満載です。
搭載するパワーユニットは、システム最高出力197馬力の2.5リッターエンジン+モーターのハイブリッド「E-Four」(電気式4WD)に加え、2.5リッター直列4気筒ガソリン、最高出力301馬力を誇る3.5リッターV型6気筒ガソリンを設定。
現在、アルファードはプレミアムミニバンのカテゴリーのトップセラーとして君臨しています。
●トヨタ「グランエース」
2019年12月、トヨタはアルファード/ヴェルファイアよりも巨大なミニバンの「グランエース」を発売。
ボディサイズは、全長5300mm×全幅1970mm×全高1990mm、ホイールベース3210mmと、トヨタでもっとも大きなミニバンで、全長は「センチュリー」よりもわずかに短いですが、全幅は上まわっています。
グランエースのベースとなったのは海外仕様の「ハイエース」で、外観はアルファード/ヴェルファイアに近いフォルムながら角張ったデザインを採用。
シートは2人掛けが3列の6人乗りと、4列の8人乗りの2タイプがラインナップされ、2人掛けに限定したことで、かなり余裕あるレイアウトとなっています。
また、2列目と3列目には本革のキャプテンシートを採用し、ロングスライド機構やオットマンを装備することで、大人でも余裕ある空間を実現。
パワートレインは、2.8リッター直列4気筒ディーゼルエンジンと6速ATを搭載し、駆動方式はFRです。
リアの足回りには、新開発のトレーリングリンク式サスペンションを採用することで、高いボディ剛性と相まって、上質な乗り心地と優れた操縦安定性を誇っています。
グランエースは一般のユーザーよりも、ホテルなどの送迎用の需要を狙って開発され、価格は8人乗りが620万円、6人乗りが650万円です。
■北米生まれ! でも販売はイマイチだったプレミアムミニバンとは
●日産「クエスト」
もともとミニバンはアメリカで誕生したカテゴリーで、大型のフルサイズバンに対して小さめなバンを指しました。
アメリカでは1980年代にミニバンの普及が始まり、1992年には日産が北米専用のミニバン「クエスト」を発売。
クエストは7人乗りの大型ミニバンとして開発され、米オハイオ州の工場で生産し、1995年にはオーテックジャパンが輸入するかたちで、左ハンドルのまま日本でも販売されました。
ボディサイズは全長4835mm×全幅1870mm×全高1770mmと、当時のミニバンとしてはかなり大きく、現在のエルグランドと同等です。
外観はボリュームの全体にある丸みを帯びたフォルムで、サイズ感とともにアメリカナイズされたデザインを採用。
搭載されたエンジンは150馬力を発揮する3リッターV型6気筒のみで、当時としては先進的なFFミニバンだったことから、広い室内空間を確保。
シートレイアウトは2列目が独立したキャプテンシートとし、3列目は3人掛けで、大人7人がゆったりと座れました。
しかし、日本での販売は、左ハンドルのみだったことに加え、リアのスライドドアが右側だけで、価格も約350万円からと高額だったことからヒットせず、1999年に販売を終了。
なお、北米ではその後もクエストは代を重ねて販売されましたが、エルグランドをベースにした4代目が2017年に販売を終え、ラインナップから消滅してしまいました。
●ホンダ「ラグレイト」
初代オデッセイは北米でもヒットしましたが、アメリカではサイズ、パワーともにキャパシティ不足との声もありました。そこで、ホンダは1998年に、北米専用モデルのオデッセイを発売。
カナダにある工場で生産され、日本でも1999年に「ラグレイト」として輸入販売されました。
外観は国内仕様のオデッセイに近いデザインですが、後部ドアは両側電動スライドドアとなっており、後席の乗降性を高めています。
また、ボディサイズは全長5105mm×全幅1935mm×全高1740mmとかなり大型で、全グレードが7人乗りということもあり、ゆとりある室内空間を実現。
搭載されたエンジンは205馬力を誇る3.5リッターV型6気筒VTECで、トランスミッションは4速ATのみの設定です。
当時、エルグランドに対抗してホンダはラグレイトを発売しましたが、日本の住環境、道路環境ではさすがに大きすぎて販売は低迷。
2004年に日本の道路事情にもマッチしたプレミアムミニバン「エリシオン」の発売によって、ラグレイトの販売は終了しました。
ちなみに、現在も北米専用モデルのオデッセイが販売されていますが、ボディサイズは全長5212mm×全幅1994mm×全高1735mmと、さらに大きくなっています。
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これまで数多くのミニバンが誕生しては消えていきましたが、なかには他車との差別化を図るうえで、高性能なモデルも存在しました。
たとえば、1998年に登場した日産「プレーリーリバティ ハイウェイスターGT4」には、「シルビア」などにも搭載された230馬力を誇る「SR20DET型」を搭載し、1995年に発売された三菱「シャリオ リゾートランナーGT」には、「ランサーエボリューション」と同じ2リッター直列4気筒DOHCインタークーラーターボの4G63型エンジンを搭載して、最高出力230馬力を発揮しました。
現在、こうしたユニークなモデルは淘汰されてしまいましたが、ミニバンにも個性が求められていた時代ならではのモデルといえます。