レースドライバーである中谷明彦氏が、ランボルギーニ「ウラカンGT3」を富士スピードウェイで全開走行! 忖度抜きのガチ試乗レポート。
■ランボルギーニがレースを始めた訳とは?
ランボルギーニというと、上方に跳ね上げて開く「シザードア」や6.5リッターの大排気量V型12気筒自然吸気エンジンを搭載する旗艦「アヴェンタドール」を想像する人が多い。
確かに「カウンタック」や「ディアブロ」「ムルシエラゴ」など、歴代12気筒搭載モデルが築いた強靭な猛牛のイメージはランボルギーニ社を象徴しているといえる。
●AWDからRWDへ移行したスーパートロフェオの背景
しかし、2003年に5リッターV型10気筒自然吸気エンジンを搭載する「ガヤルド」が登場すると、販売面での主役は価格的にも優位性の高いガヤルドが握ることになる。
実際ガヤルドはコストパフォーマンスが高く、ランボルギーニ社はモータースポーツにも積極的に投入するようになる。創業者のフェルッチオ・ランボルギーニは「ランボルギーニ社はレースに出ない」という主義を貫いていたが、ガヤルドを所有する顧客の要望も高まりワンメイクレースを開催。
「スーパートロフェオ」と呼ばれるガヤルドのワンメイクレースが2009年に初開催され、欧州、アジア、北米と世界3大タイトルを設定し、年末にはワールドファイナル戦を開催して「世界一」を決定する仕組みで運営して大成功を収めた。
2014年、市販車「ガヤルド」が新型の「ウラカン」に進化すると「スーパートロフェオ」のワンメイクマシンもウラカンベースに移行。ガヤルドのレースマシンは4輪駆動のAWDだったが、ウラカンは後輪2輪駆動(RWD)が採用され、市販バージョンにもRWDモデルが設定された。
理論的には明らかに優れるAWDを改めRWDとしたのは、2005年にFIA(国際自動車連盟)がグループGT3カテゴリーを制定し、RWD限定のGT3マシンによる選手権が世界各地で開催され活況を呈していたのをみて、ランボルギーニ社としても参戦を鑑みたためと推測される。
実際、ウラカン・スーパートロフェオのワンメイクレース仕様は完成度の高いマシンで速く、ワンメイク仕様ながら他社のGT3マシンと遜色ない速さを披露していたから、GT3を仕立てるのは自然な成り行きだった。スーパートロフェオマシンで闘うプライベートチームの多くからもGT3マシンとして選手権参戦を希望する要望が多く寄せられただろう。
そうしてRWDの「ウラカンGT3」は2015年に登場する。
今回試乗テストしたのは2017年製のウラカンGT3マシンだ。このマシンは国内で唯一ランボルギーニ社から「スクアドラ・コルセ」のネーミング使用を許諾された「THE EMPEROR racing(エンペラー・レーシング)TEAM」が所有する固体だ。実は筆者はこのチーム創成時からドライバーとして関わり、イタリアの「クレモナ・サーキット」でおこなわれたウラカンGT3納車前のシェイクダウンテスト時にも合流しテストドライブさせていただいた。
エンペラー・レーシングはワンメイクのスーパートロフェオ戦を主戦場としていてGT3カテゴリーには参戦していないが、チームオーナーのコレクションとして保有されている。つまり実戦参加していない新車同然のコンディションが維持された貴重な固体といえるのだ。
試乗テストはチームのホームコースである富士スピードウェイでおこなった。富士スピードウェイは1.5kmに及ぶ長い直線をもつ高速コースだ。この本コースとジムカーナ場を使って2日間に渡る贅沢なテスト走行を敢行した。
●ウラカンGT3のエンジン始動方法
初日はウェットコンディションとなりレインタイヤを装着しての走行となった。GT3に乗り込むと、コクピットが市販車ベースのスーパートロフェオとは異なりMotec社製のモニターとスイッチユニットが整然と並べられ、本格的なモダンレーシングマシンのコクピットに仕上げられている。
エンジンの始動には幾つかのスイッチを順番に操作していく必要がある。「メインスイッチ」→「イグニッション」→「自動クラッチ」を順次「ON」にし、ブレーキペダルを強く踏み込んでステアリングの左右に配されたクラッチレバーを左手で握り、同じくステアリング上にある「スタート」ボタンを右手で押すと、セルが回りV10エンジンが目覚める。
メーター表示は艶やかだが速度、エンジン回転の他、各部温度が表示され、停止中はABS(アンチロックブレーキシステム)オフのランプが点灯する。そうGT3カテゴリーはABSやTC(トラクションコントロール)など電子制御システムの稼働を許される特殊なカテゴリーなのである。それは近年GT3カテゴリーの隆盛を支えている「ジェントルマンドライバー(自らマシンを所有しレースに参戦するアマチュアドライバー)」にも扱い易い特性を授けるためであるのだ。
■「レース参戦したい!」中谷塾長絶賛のウラカンGT3の走りとは?
実際、車両重量が1300kgあまりであるのに対し、最大出力は610psを超えるスーパーカーだ。電子制御がなければ我々プロドライバーでも扱うのは容易ではない筈だ。
だがABS+TCでタイヤスリップをコントロールすることで、アマチュアドライバーでもアクセル全開でスピンすることなくサーキットを攻められる。電子制御の効果の偉大さを改めて実感させられるのである。
●「ABS+TC」で、アマチュアドライバーでも安心
ABS+TCはステアリング上のスイッチにより「0」から「9」(確認したのは「9」までだが、その先もあるかもしれない)のレベルに走りながらでも設定変更できる。今回はウェット路面を用心してABSもTCも「8」を選択し安全性を高めて走行開始する。
路面は完全ウェット状態だったが、マシン挙動は極めて安定し安心感が高く快適だ。タイヤはピレリ社のPゼロ・コルサのレインタイヤで、前後とも325/18インチと極太サイズを履く。スーパートロフェオは前305/18、後315/18と一回り細く、GT3の方が高いグリップレベルを与えていることがわかる。
ストレートをアクセル全開で駆け抜けると6速で8000回転以上回る。速度計は275km/hを表示。ウラカンは市販車のナンバー付車でも「ペルフォルマンテ」なら290km/hを表示するが、そこは速度計の誤差があるのだろう。
ただ市販車のペルフォルマンテはAWDであり、優れたトラクション性能を持っていてGT3マシンに決して大きく引けを取らない高性能を元々持たされているのだ。
GT3カテゴリーは通常レース時にはBOP(バランスオブパフォーマンス)と呼ばれる性能調整が実施され、エアリストリクターが吸気口に装着されて出力が制限されるのだが、本車両は素の状態。つまり最大パワーが引き出されている。
1コーナー目がけてブレーキングを開始すると、しっかりした制動Gが発生しみるみる減速する。GT3カテゴリーはカーボンブレーキが禁止されているのでブレンボ社製キャリパーにスチール製のディスクローターを装着しているが、それでもクーリング性能に優れていて、思い切り踏み続けてもペダルストロークは安定し確実に減速できるのが強みだ。
試しに安全な場所で思い切り強くブレーキを踏み込んだが、ABSの介入はほとんどなく、タイヤグリップに相当なゆとりがある。おそらくレースラップでグリップダウンしてくるとABSの助けが効果を発揮することになるのだろう。
ABSがなければ、ロックアップ一発でタイヤがダメになることもあるほど、ブレーキ自体の効きは強力なのだ。一方TCは「8」でもタイヤスリップを許容している。
アクセルを急激に踏み込めばリアが容易にリバースする。そのまま踏み込んでいればTCが介入して過剰なホイールスピンは抑制するが、滑る度合いは大きくカウンターステアでコントロールしなければならない。そこは絶対安全を重視する市販車のTCコントロール介入とは大きく異なるところだった。
2日目はドライコンディションで走り込んだ。ABS制御は「2」、TC「3」で走行するとレースラップとして安定した走行が可能だ。路面の予期せぬグリップ変化には最終的に電子制御介入がおこなわれるので、タイヤを傷めず長時間走行できた。耐久レースなどでは効果が期待できる。
今回、特別にウェットのジムカーナ走行テストもおこなえた。レーシングカーでジムカーナ走行をおこなうのは滅多にない貴重なチャンスである。路面はウェットでタイヤはスリックを装着。
アクセルほんのひと踏みでマシンのテールが大きく流れ、カウンターステアを当てても収まらないほど。コース上なら簡単にスピンしているところだ。ジムカーナコースならスピンしても安全で、スライドコントロールの難しさを知ることができる。
TCを最大限介入させてもリアのスライドは抑えきれない。GT3のTCは安全性よりも速さの追求をテーマにプログラムされていることがより明確になったのだ。
さまざまな路面とステージでウラカンGT3を走らせ、次は是非このマシンで実際にレースを走ってみたい! という意識が高まった。その機会が来る事を願いつつ今回は筆を置くこととしよう。