トヨタ新型「センチュリー」をはじめとした高級公用車が話題となっている昨今ですが、全国の知事が乗る「知事専用車」は実用性、利便性や環境性能を重視して選ばれることが増えています。近年はどのようなクルマが多いのでしょうか。
■知事専用車にアルファードが選ばれる理由は?
都道府県の首長である「知事」が乗るクルマといえば、ひと昔前までは黒塗りの大型セダンが定番でした。
車種でいえば、トヨタでは「センチュリー」「セルシオ」「クラウン」、日産車では「プレジデント」「シーマ」といった高級セダンです。
もちろん、現在も黒塗り高級セダンを知事専用車に採用している県も少なくないのですが、2000年以降はセダンからミニバンに変更する例が増えていることが分かりました。
現在の知事専用車として、急速な勢いで増えているのがトヨタ「アルファード」のハイブリッドモデルです。
アルファードを選ぶ理由として、「環境性能、居住性能、利便性」をあげる都道府県が多数を占めています。
また、乗車定員が7名であれば、警備や秘書など側近の職員と一緒に移動もできますし、ハイブリッド車なので環境性能の条件も満たしています。
知事専用車で自然災害の被災地を移動することもあるため、4WDであることも重要な条件だそうです。
ロードクリアランスが確保できて視点が高いミニバンは、移動や視察にも都合がよく、十分な室内高があるため着替えがしやすいという声もありました。
確かに被災地の視察などでは、作業服に着替えてヘルメットを着用している知事の姿を見ることがありますが、スーツからの着替えも車内でおこなっているのでしょうか。
石原都知事時代からアルファードを知事専用車として導入いる東京都に聞いてみたところ、「現在の知事専用車であるアルファードHVは2020年6月に導入して、7月より使用を開始しました。室内が広いので、車内で知事を囲んだ打ち合わせなどもしやすいですし、長距離の移動も快適です」とお気に入りの様子でした。
また、10年前の調査ではプレジデントを知事専用車としていた福島県も、2017年にアルファードHVに乗り換えています。
「福島県は中心都市がなく、とても広い県土を持っています。知事専用車の平均走行距離は年間約2万8000kmとかなり多く、1日の移動距離が100kmを超えることも珍しくありません。
知事の業務や移動状況に沿って、長距離の移動でも疲れない広い室内であること、十分なパワーがありつつも環境性能を考えたハイブリッド車であることなど仕様を決めて、一般入札で決定します」(福島県)
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沖縄県と徳島県は、いずれも十数年という長い間、セルシオを県知事専用車として使用していましたが、2017年にアルファードに乗り換えました。
「災害時などの移動でも安全に走行できるよう4WDであることや、居住性の良さ、車内で打ち合わせができることなどを理由にアルファードに決まりました」(徳島県)とのことで、同県の知事専用車は年間平均2万3000kmも走行するそうです。
なお、多くの県知事専用車はハイブリッド車がほとんどですが、長野県はアルファードのガソリン車を選んでいます。この理由は「HVも検討されましたが、パワーが落ちるのでは? という意見がありガソリン車を選びました」(長野県)
山岳地帯を移動することも多い長野県ゆえの理由かもしれません。
■埼玉と熊本がホンダ「レジェンド」を使用するのはなぜ?
知事専用車はアルファードやクラウン、レクサスなど、トヨタ勢が全国の約9割を占めていますが、埼玉と熊本ではホンダ「レジェンド」が使用されています。
埼玉県がレジェンドを知事専用車にしている理由について、次のように説明します。
「埼玉県にはホンダの量産工場である狭山完成車工場があります。1964年に誕生した歴史のある工場で、レジェンドもこの狭山工場で作られています。産業振興という目的もあり、また埼玉県内の工場で生産されているクルマをアピールする目的もあって、レジェンドを知事専用車としています」
また、同じくホンダ二輪車の生産工場(ホンダ熊本製作所)を持つ熊本県も、知事専用車はレジェンドです。しかし理由は少し異なるようで、選定理由は「ハイブリッド車で排気量は3500cc以上という条件で一般入札をおこなった結果」だといいます。
同じホンダ車を導入している島根県はホンダ「オデッセイ」を使っています。2017年8月に知事専用車としてトヨタ「クラウン」を導入しましたが、2019年4月に丸山知事に代わってからは車内での書類整理や職員との協議に便利で車内が広いミニバンの需要が高まったこともあり、2020年2月にオデッセイへスイッチしたとのことです。
このほか、日産自動車誕生の地である神奈川県の知事専用車はもちろん日産車。シーマが黒岩知事の専用車です。
「公用車としては『リーフ』もありますが、知事専用車に使われたことはありません」とのことでした。
全国で2県だけ、マツダ車を知事専用車にしている県を紹介しましょう。
2県のうちのひとつは、マツダ本社のある広島県です。もうひとつが、県内で「CX-3」「CX-5」「マツダ2」「マツダ3」「マツダ6」を生産するマツダの防府工場を有するお隣の山口県です。
広島県と山口県は、いずれも知事専用車としてはかなり珍しいSUVのマツダ「CX-8」を使っています。
少し前に、「2000万円の貴賓車センチュリー」で話題となった山口県ですが、村岡知事の専用車は実用性と機動性を重視したCX-8が選定されました。
CX-8は7人乗り3列シートSUVで、内装は高級感があり、広さも十分。大人数での長距離移動や車内での打ち合わせも快適におこなえそうです。
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知事専用車を決める際に、知事の意向はどれくらい反映されるのでしょうか。
いくつかの都道府県から頂いた答えをまとめたところ、どこも「知事の希望はほとんど考慮されません」という答えが返ってきました。
車種を選定する際は、多くが知事専用車としての条件を提示し、一般入札で決められるそうです。