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なぜMT廃止? 新型「ノート」登場で日産MT車は2車種に 増減させるメーカーの思惑とは

くるまのニュース 2020年12月7日 9時10分

日産のコンパクトカー「ノート」がフルモデルチェンジし、新型モデルに全車e-POWERが搭載され、ガソリン車が廃止されました。それと同時にMT車の設定もなくなったのですが、今後日産のMT車はどうなるのでしょうか。

■日産新型「ノート」は全方位に進化! 全車e-POWER搭載へ

 日産のコンパクトカー「ノート」がフルモデルチェンジし、2020年12月23日に新型モデルが発売されます。

 初代モデルが2005年に登場したノートですが、今回デビューする新型モデルは3代目にあたります。

「コンパクトカーの常識を超える運転の快適さと楽しさが詰まった先進コンパクトカー」とのコンセプトに開発された新型ノートは、さまざまな面が進化しました。

 スタイリッシュなデザインは、2020年7月に世界初公開された日産初のクロスオーバーEV「アリア」と共通の意匠となる、新世代の日産デザインが採用されています。

 また、運転支援技術「プロパイロット」は、ナビリンク機能を日産として初めて備えています。さらに、全方位の「360°セーフティサポート」などの先進安全技術も充実しました。

 さらに、新設計のプラットフォームとシステムを大幅に刷新。パワーアップした第2世代の「e-POWER」を初搭載しました。

 第2世代のe-POWERは、より力強く上質な走りと効率化を高い次元で両立。スムーズな加速や、なめらかな減速制御、電動パワートレインならではの静粛性などを格段に向上させています。

 先代ノートはガソリン車も設定されており、1.2リッター直列3気筒ガソリンとスーパーチャージャー仕様の「DIG-S」をラインナップ。

 さらに、スポーティモデルとして、1.2リッターガソリン+スーパーチャージャーにCVTを組み合わせた「NISMO」、専用チューニングの1.6リッターガソリンエンジンと5速MTの「NISMO S」が用意されていましたが、新型では全車e-POWERとなったことからノートで唯一ラインナップしていたMT仕様は姿を消したのです。

 e-POWERのみになった理由について、日産自動車 執行役副社長 星野朝子氏が次のように説明しています。

「ガソリン車があったほうがたくさん売れると思いますが、ゼロ・エミッションの社会を日産がリードして作っていくというビジョンや、日産が進めている電動化に集中させていくということを決めています。

 それに則った代表的なモデルとして、新型ノートをe-POWERだけで出すことになりました」

※ ※ ※

 ノートのMT車が消滅したことになり、日産でMTを選べるのは「マーチ NISMO」と「フェアレディZ」のみになりました(OEM車除く)。

 マーチの標準モデルはCVTですが、先代ノートと同じように、スポーティモデルのNISMOにMTが設定されています。

 新型ノートでは、ガソリン車廃止(MTの廃止)に加え、NISMOの設定もなくなっており、関係者によると「いまのところNISMOを追加する計画はない」といいます。

 また、ミニバンでNISMOが設定されていた「セレナ」についても、2019年8月のマイナーチェンジでNISMOが消滅しています。

 日産車のカスタム仕様としては、2018年に新たにブランド展開が開始された「AUTECH(オーテック)」が担うことになり、モデルを続々と投入。

 現在は6車種のAUTECHブランド車が設定されていますが、これと引き換えにNISMOは数を減らしている状況です。

 そのため、マーチNISMOもいずれは廃止され、それと同時にMT車の設定がなくなる可能性があるといえるかもしれません。

 一方で、2020年9月に世界初公開された「フェアレディZ」のプロトタイプには、6速MTが設定されることが明らかにされました。

 チーフプロダクトスペシャリストの田村宏志氏は、「フェアレディZは絶対にMTでなければいけないと思いました」と語っており、新型Zは自分で操る歓びを重視していることがわかります。

 日産のMT車は絶滅寸前の状態ですが、最後の砦ともいえるフェアレディZのMT存続は、ファンにとっては朗報といえそうです。

■MT車を増やすメーカーと減らすメーカーの事情とは

 2020年1月にフルモデルチェンジしたスズキ「ハスラー」や同年2月に発売されたホンダ新型「フィット」など、軽自動車やコンパクトカーでは、MT車の廃止が進んでいる傾向があります。

 クルマの電動化や先進安全装備の搭載など、技術的にMT車が設定しづらくなっていることもありますが、もっとも大きな原因は「需要が減った」ということもありそうです。

MT減少か増加か、各メーカーの事情とは

 1991年にAT限定免許が導入されて以降、AT限定免許保有者が増加。警察庁の統計によると、AT限定免許保有者数(中型免許なども含む)は、2009年は934万5745人だったのが、2019年には1563万6753人にまで増えました。

 AT限定免許の普及は、MT車の減少に関係しているといえるでしょう。

 その一方で、トヨタやマツダはMT車を増やすという、昨今の流れとは逆の現象もみられます。

 フィットと同時期に新型モデルが発売されたトヨタ「ヤリス」では、1.5リッターガソリンに、CVTと6速MTを設定。

 さらにトヨタは、「カローラシリーズ」にもiMTと呼ばれる、コンピューターがドライバーのクラッチ、シフト操作にあわせて、最適なエンジン回転数になるように制御する、新規開発のマニュアルトランスミッションを搭載しています。

 カローラにMT車が設定された理由について、開発を担当したチーフエンジニアの上田泰史氏は、「個人的なこだわりというと語弊があるかもしれませんが、運転にひと手間加えて自分でクルマを操るというところを感じていただきたいと考え、その思いを伝えたかったのでMT車を残しました。

 カローラスポーツにMTを設定したときも、お客さまから『MTがあってよかったです』という声をいただいています」と説明します。

 上田氏によると、カローラスポーツの場合、MT仕様の割合は5%から10%程度だといいます。決して多数派とはいえないものの、エンジニアの熱意があって、新型カローラにおいてもMT車が実現したようです。

 マツダもMTの設定を増やしており、同社が自社開発するモデルでは、3列シートSUVの「CX-8」以外のすべてのモデルにMT車を設定。

 走り好きの人はMT比率が高いことから、そのニーズにも対応するため、グローバルで展開するモデルには基本的に設定しているのです。

 また、フィットのMTを廃止したホンダは、軽自動車「N-ONE」のフルモデルチェンジを機に、スポーティグレード「RS」に6速MTを設定。走りの楽しさをアピールしています。

 さらにスズキは、「ワゴンR」や「アルト」には、歴代モデルも含めてMTが用意する理由について、「MT車しか運転できない年配者のニーズに応えるため」と説明。

 メーカーによって状況は異なるものの、MT車を残すのには、ユーザーのニーズが関係しているといえます。

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 一方、かつてMT車を多く設定していたスバルですが、2020年夏時点で唯一のMT車を用意していた「BRZ」の販売が終了。現在新車で購入できる自社開発のモデルに、MT車の設定がなくなりました。

 スバルがMT車を減らす理由には、同社の運転支援システム「アイサイト」が関わっているようです。

 スバルは、海外ではMT車が設定されているモデルもありますが、日本ではアイサイトを優先したモデル展開をおこなっているためMT車を設定していないと説明。

 アイサイトのACCには渋滞停止保持機能が組み込まれていることから、停止時にドライバー自身がクラッチ操作をする必要があるMTには組み込むことができないとされています。

 そのため次期BRZでは、AT車のみにアイサイトを搭載することになりました。

 運転支援システムによる安全性を高めたクルマが求められている現在、MTによる走りの楽しさをどこまで追求するかという課題に直面しているといえます。

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