過激で妥協を許さず、最新。新生ブガッティの歴史のなかでもっとも先進的なハイパースポーツカーのデザインを形作るものとは?
■ブガッティ・ボライドのデザインに込められたものとは
ブガッティの原動力となる創造力は、才能あふれるデザイナーたちのチームが、優れたデザイン遺産に向き合った成果といえるだろう。この野心的な取り組みは、1920年代から30年代にかけてブガッティがレース活動で築き上げた数々の栄光という、豊かな歴史の上に築かれており、また一方、技術革新の限界を押し広げる実験をも見据えたものだ。
フランスの高級車ブランドの新たな歴史のなかでもっとも過激なクルマのコンセプトとして、卓越・勇気・献身という企業のコアバリューに沿って進んでいったブガッティ「ボライド(Bolide)」のデザインの道のりは、それ自体がインスピレーションなのである。
「形態はパフォーマンスに従う」というブガッティのデザイン理念のもと、新たなハイパースポーツカー、ボライドは「もしも?」という大きな問いに答えている。
もしもブガッティが、象徴的な8.0リッターW16エンジンを搭載して、パワーウェイトレシオに何の制限もない超軽量なクルマを作ったとしたら? その結果が、モダン・ブガッティにおいてもっとも過激で一切の妥協なく、最速、最軽量のコンセプトカーである。
同社謹製のW16エンジンは1850psを出力し、F1カー並みのパフォーマンスを発揮。最高速度は500km/hをはるかに上回り、最高のハンドリングと軽快さには妥協がない。
ブガッティの最新ハイパーツスポーツカーという野心的な実験を後ろで束ねるために、弱冠27歳のデザイナー、ニルス・ザヨンツが不可欠な存在だった。ボライドのチームで働く前に、すでにザヨンツはいくつもの限定モデルのデザインに携わっており、2018年発表の「ディーヴォ(Divo)」、2019年3月発表のワンオフモデル「ラ・ヴォワチュール・ノワール(La Voiture Noire)」、同年8月発表の「チェントディエチ(Centodieci)」などの実現に貢献してきた。
5人チームで働きながらザヨンツがボライドのデザインで示した勤勉さ、成熟度、粘り強さによって、彼は最近ブガッティ・デザインの特別プロジェクトの責任者に昇進している。
ザヨンツは語る。「ブガッティ・ボライドのデザインに取り組むのは驚異的な体験でした。ボライドは私たちのデザインチームの表現力を結集したものです。
サーキットに焦点を合わせたハイパースポーツーカーがブガッティにとって最善の次のステップだと考えて、ボライドは私たちのデザインの指針の優れた例となっています。それは過激であり、先進的であり、現代的であり、つまりブガッティが意味する全てです。
ブガッティは決して立ち止まらず、私たちはいつも心を奮い立たせる次なる目標を探しています」
ザヨンツは2015年にインターンとしてブガッティのデザインチームに参加し、自律走行レースのためのブガッティのデザイン研究をテーマに大学で論文を書いてもいる。
限定モデル、コンセプト、クリエイティブ実験でデザイナーとしての経験を積んだ彼は、特別プロジェクトの責任者に適任であり、ブガッティが比類なきハイパースポーツカーに取り組み続けていくために今後の研究を担っていく。
チェントディエチ、ディーヴォ、ラ・ヴォワチュール・ノワールといったプロジェクトに携わることでザヨンツは、世界でもっともパワフルで豪華で高級なハイパースポーツカーをデザインするのに必要なことを直接学ぶことができた。ザヨンツはデザインディレクターのアヒム・アンシャイトの直属となる。
■マシュメロみたいなヘッドライトは、ガラス飛散防止のなごり!?
●ブガッティの卓越したデザイン遺産
「ブガッティにとって重要なのは、お客さまやブガッティ愛好家たちが常に我々に求めてきた、究極の豪華さとユニークさに貢献できる才能の持ち主を多く抱えることです。
ブガッティのデザインチームは、一人一人がブランドの価値観に沿って豊かな遺産に取り組む、才能に恵まれたカーデザイナーたちが一体化した集団です」と語るのは、デザインディレクターのアヒム・アンシャイトだ。
「ボライドの開発は、過去にリンクしながらイノベーションを導いていくというブガッティの志を示すものであり、ニルスはその中心でした。ニルスは極めて才能あふれるデザイナーで、我々のクリエイティブチームの非常に大切なメンバーであることがすでに証明されています」
ブガッティのデザイン遺産についてザヨンツはこう語る。「私が小さい頃から、デザインと物の美しさが私の人生を形成してきました。
ブガッティというブランドの遺産は私にとって失われたものではなく、ブガッティ『タイプ35』や『タイプ57SCアトランティック』といった有名なレーシングカーの歴史から大きなインスピレーションを得ています。
私たちの全てのクルマにも今回のボライドにも、ブガッティのレース活動の遺産が小さなヒントとともにちりばめられています。今後の特別プロジェクトでも、まさしく比類のないブランドのデザイン・アイデンティティを保っていくことが大事です」
●ブガッティ・ボライド:サーキット志向の現代のサラブレッド
量産から派生したW16エンジンをパワートレインとし、最大のダウンフォースを得る最小限のボディと組み合わせたサーキット志向のハイパースポーツカー、そんな実験的な研究がブガッティ・ボライドなのである。0.67kg/psという信じられないほどのパワーウェイトレシオは、1850psのW16エンジンと、わずか1240kgの車両重量によって実現している。
ボライドで使用される材料と製造プロセスは、ハイパースポーツカーのデザインにおいて現在可能なことと将来可能になることへの大胆なステップを示している。
世界初のイノベーションはルーフ上のエアインテーク・スクープの変形可能な外板で、気流をアクティブに最適化できる。低速走行時にはスクープの表面は滑らかなままだが、高速時には泡のように表面が膨らむことでスクープの空気抵抗を10%低減し、揚力を17%減少させるのである。車高は歴史的なブガッティ・タイプ35と同じ、わずか995mmに抑えられていて、全体のプロポーションが空力にもたらす劇的な効果は明らかだろう。
ボライドの革新的なデザインについて、ザヨンツはさらに語る。
「ボライドのデザイン上の数々の特徴は、機能的であると同時に、スタイルの中心的なテーマとしても重要です。ボライドの外観は航空史における、いわゆるXプレーン(アメリカの実験機シリーズ)を想起させるもので、どの角度から見てもXの字が見えるようになっています。
これはまたブガッティのサーキット育ちの歴史を思い起こさせ、フロントにあるXの字は、歴史的なレーシングカーが事故の際にガラスの散乱を防ぐためヘッドライトに貼っていたテープの「X」を表しています。しかしこれらのテーマは一貫していて、ボライドの全体のダイナミクスとパフォーマンスに貢献し、他の追随を許さないものとしているのです」
ブガッティのチームは駆動系の周りにカーボン製の軽量モノコックを開発し、それと結合した一体型フロントエンドも高強度のカーボンファイバー製としている。空力的に十分に効果的なアンダーボディやモノコックも同じカーボンファイバーを使っており、単繊維引張強度は1平方mmあたり6750ニュートン、単繊維剛性は1平方mmあたり3万5000ニュートンを誇る。これは、航空宇宙産業でしか到達したことのない数値だ。
水冷式インタークーラーのかわりに、ボライドは冷却スプレー付き空冷インタークーラーを採用し、サーキットで最適なパフォーマンスを実現。フロントアクスルの前にふたつのウォータークーラーを配置することで冷却システムをより効果的にしているのは、F1ではおなじみの手法だ。
高性能なセラミック製レーシングブレーキシステムには新開発の「ハイブリッド・カーボンチタン・ターボファン・ラジアルコンプレッサー」が組み合わされて、熱換気と冷却を効果的におこなうようになっている。