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どちらが人気? 「Gクラス」軍用/民生用の装備の違いとは?

くるまのニュース 2020年12月13日 12時10分

世界的にSUV人気が続いているが、基本設計を変えずにいまなお根強い人気があるのがメルセデス・ベンツ「Gクラス」だ。そのGクラスの最初期モデルである「240 GD」で、軍用と民生用のどちらに人気があるのかを検証する。

■NATO向けの軍用車両として開発された「Gクラス」

 オン&オフともに卓越した走行性能や流行を超越した独自のキャラクターが、現代においては、クルマ趣味人はもちろんのこと、ライフスタイルやファッションにもこだわるファンたちから圧倒的な支持を受けている「ゲレンデヴァーゲン」ことメルセデス・ベンツ「Gクラス」は、周知のごとく誕生から40余年を経た超ロングセラーである。

 1980年代に生産された初期モデルについては、既にクラシックカーとしてマーケットに出回り始めていることも、ご存知の方は多いに違いない。

 今回はRMサザビーズ社が2020年10月−11月に英国とアメリカで相次いで開催した「LONDON」オークション、および「OPEN ROADS, FALL」オークションに出品された、生産年も仕様も異なる2台の「240GD」を紹介しよう。

 メルセデス・ゲレンデヴァーゲンは、もともと北大西洋条約機構(NATO)から多目的自動車の製造を請け負うためのコンペ案として「ダイムラー・ベンツ(現ダイムラー)」社およびオーストリアの「シュタイア・プフ(Steyr-Puch)」社によって共同開発された軍用車両にまでオリジンを遡ることができる。

 現在では「マグナ」社に名を変えて、今なおGクラスの生産を請け負っているシュタイア・プフ社は、オーストリアで1910年代から自動車生産をおこなっていた「シュタイア」社を、独ダイムラー社から派出・発展した「オーストロ・ダイムラー」が1934年に吸収したことによって誕生した小規模メーカー。

 第二次大戦後には全輪駆動の軍用・民生用クロスカントリー車両を開発・生産し、この特殊な分野での開発能力については、既に確たる実績を誇っていた。

 そして、ダイムラー・ベンツとの数年間にわたる共同開発作業を経て完成した車両は「Typ-461ゲレンデヴァーゲン」と名付けられ、1978年の正規配備を目指しておこなわれたNATOのコンペに臨んだものの、フォルクスワーゲン/アウディの提案した「Typ-183イルティス」に敗退。その後、1982年からようやく正式採用を勝ち取った。

 エンジンやトランスミッションなどのドライブトレインは、メルセデス・ベンツの乗用モデルのものが流用された一方で、いかにも軍用車然とした堅固なシャシやディファレンシャルなどの駆動系システム、いかめしい印象のボディワークは、シュタイア・プフが培ってきたテクノロジーによるものだった。

 当初は軍用バージョンのみだったが、のちに民生モデルとしてW460系が「プフ」ブランドから生産・販売を開始。さらにはそのメルセデス版としてW460系「230G」が今から32年前、1979年春のジュネーヴ・ショーにて正式デビューするに至ったのである。

●1988 メルセデス・ベンツ「240 GD」

デンマーク王立軍に正規納入されたメルセデス・ベンツ「240 GD」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 今回紹介する1台目、RMサザビーズ北米本社「OPEN ROADS, FALL」オークションに出品された240GDは、まさしくゲレンデヴァーゲンの出自を物語る、ホンモノの軍用バージョン。

 RMサザビーズ社の公式WEBカタログによると、1988年に新車としてデンマーク王立軍に正規納入されたとの記録が残っているという。

 写真で見る出品車両は、その正統性を証明するようにヘビーデューティ感がありありと見て取れる。ボディワークはオリーブグリーンで、同系色のソフトトップと頑強なスチールホイールが組み合わされる。シートは黒いビニールレザー表皮とされる。

 一方メカニズムは、2.4リッター直列4気筒SOHC自然吸気ディーゼルエンジンに4速マニュアルのトランスミッションを組み合わせ、ハイ/ローレンジが選択できるトランスファーを介して4輪を駆動する。また、フロント/リアともにロック可能なディファレンシャルが装備されている。

 そしてエクステリア/インテリアにおいても、元祖ジープのごとく前方に倒せるフォールディング式ウインドスクリーン、折りたたみ式シート、リアスイングハッチ、マッドフラップ、ワイアハーネス付きのピントルヒッチ(けん引用連結器)、フロントおよびリア補助照明など、ミリタリー仕様の魅力的なディテールを完全装備するのは、生粋の軍用車両であることのなによりの証であろう。

 ただ、クラシックカー/コレクターズカーの国際市場において、趣味としての軍用車両のマーケットは決して大きいとはいえないうえに、第二次世界大戦中とその直後のモデルに人気が集中する現状においては、まだまだ価格高騰には至っていないようで、11月におこなわれた競売では2万2000ドル、日本円に換算して約230万円での落札となった。

■「Gクラス」は、軍用と民生、どちらに人気がある?

 メルセデスおよびプフの民生用W460系ゲレンデヴァーゲンには、生産開始当初からメルセデス乗用モデルから流用した4気筒SOHCガソリンエンジンの「200G/230GE」に加えて、同じくメルセデス用4気筒ディーゼルを搭載した「240GD」および直列5気筒ディーゼルの「300GD」も用意。

 また、一部市場向けの高性能モデルとして「280E/280SE」用6気筒DOHCエンジンを搭載した「280GE」も追加設定された。

 2020年10月「LONDON」オークションに出品されたのは、発売2年目となる1980年5月に生産。イタリアにデリバリーされたという最初期のショート版240GDである。

●1980 メルセデス・ベンツ「240 GD」

イタリアにデリバリーされたという最初期のショート版の「240 GD」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 パワーユニットは72psを発生する2.4リッター直列4気筒ディーゼルエンジンで、2速トランスファーケース付きの4速マニュアルトランスミッションが組み合わされる。

 新車当時はとても高価なクルマだったことを示すように、この240GDにはメーカーオプションのパワーステアリングや、アップグレード版の洒脱なインテリアに加え、フロントのけん引フック、およびリアのピルトンヒッチを組み込んだ2ピース型バンパー、さらに観音開きのリアハッチと外付けスペアホイールキャリア、そして折りたたみシートなど、ファンの間では望ましいとされるオプションが満載されている

 ランボルギーニの故郷として知られるサンタアガタ・ボロネーゼから、この240GDのオークション出品を委託した現オーナーは、下半分に独特の塗装が施されたダッシュボードまでオリジナルを保ったインテリアを称して「タイムカプセル」とアピール。

 唯一の追加パーツは、メータークラスター左脇のスント傾斜計のみ、と公式カタログにて報告している。

 2017年には、ボディの完全な再塗装がおこなわれ、ホイールもオリジナルの正しいカラーで再仕上げが施されたという。

 生産から現在に至るまでの走行距離は約5万5800kmと、年式とクルマの用途を考えれば非常に少ないうえに、エンジンとブレーキは最近になって大規模なメンテナンスを受けたほか、ゴム製のサスペンションパーツも交換されたとのこと。

 同時期に劣化が進んでいたボンネット裏の断熱パッドも新調され、現オーナーはイタリアの車検にも合格。「今すぐ運転する準備ができています」と述べている。

 さらに、工場出荷仕様書とイタリアの登録書類のコピーも添付されたこのW460系240GDは、10月にオンラインでおこなわれた競売では2万6400ポンド、つまり約368万円で落札されることになった。

 同じ2020年秋に落札された「240GD」であっても、もう1台の軍用車両との間に140万円近い格差が生じたことには、やはり「ゲレンデヴァーゲン」というクルマに対するファンの嗜好がうかがわれる。

 レトロでシックな4輪駆動クロスカントリーカーであるのはもちろん、現在のメルセデスにも通ずるユーティリティと、クラシック・メルセデスならではの洒脱な雰囲気や楽しさを備えた民生用モデルが、少なくとも現状における大多数のエンスージアストの心をつかんでいるように思われるのだ。

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