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90年前のクルマだけど新車! ベントレー「ブロワー」が完成

くるまのニュース 2020年12月19日 11時50分

ベントレーのコンティニエーション・シリーズ第1弾となる「ブロワー」の復刻生産試作車である「カーゼロ」が完成した。90年も昔のクルマをどのようにして新たに創り出したのか、その一部始終を紹介する。

■数千パーツをすべてデジタル化

 ベントレーマリナーが4万時間をかけて製作した新しいベントレー「ブロワー」が2020年12月9日に公開された。新たにブロワーを製作するのは実に90年ぶりとなり、「ブロワー・コンティニュエーション・シリーズ」の復刻生産に先駆けて発表されたこのプロトタイプは「カーゼロ」と名付けられた。

 カーゼロに続いて製作される12台の復刻モデルはすでに完売。その製作には、1920年代後半にオリジナルブロワーが製造されたときの図面と治工具が使用される。

 オリジナルモデルは、ヘンリー”ティム”バーキン卿のレースチームのために製造された4台のなかでベントレーが所有する2号車(シャシ番号「HB3403」、エンジン番号「SM3902」、ナンバー「UU5872」)である。この車両を、コンティニュエーション・シリーズのために分解し、すべての部品を残らずレーザースキャンするところから、このプロトタイプの製作はスタートした。

 収集したデータをもとに、新たなブロワー用のパーツ1846個が設計され、手作業で製作。ただし、そのうち230個はアッセンブリーであり、そのなかにはエンジンも含まれているので、ねじやインテリアトリムなどの個々のパーツを含めると、実際には数千のパーツが製作されたことになる。

 こうしたパーツやアッセンブリーは、ベントレーマリナープロジェクトチームのエンジニア、職人、テクニシャンが英国内のスペシャリストやサプライヤーらと協力して作り上げたものだ。

 カーゼロは12台の復刻モデルに先駆けて、開発・試験用に製作されたプロトタイプであり、今後数か月かけて耐久試験と性能試験が実施されることになっている。

 エクステリアはグロスブラック、インテリアはブリッジ・オブ・ウィアー社製のオックスブラッドと呼ばれる赤いレザーを採用している。

 また、このカーゼロの発表に伴い、ベントレーモーターズがクルーに建設した新施設も初公開された。新施設は1946年からベントレー本社が置かれているピムズレーン一帯の大規模な工事を含め、本社敷地を拡張する形で建設されたもので、将来に向けて重要な役割を果たす施設となる。

 発表会でカーゼロのドライバーを務め、ピムズレーンを走行したベントレーモーターズのエイドリアン・ホールマーク会長兼CEOは次のようにコメントしている。

「本日はブロワー・コンティニュエーション・シリーズの初公開という大切な日であると同時に、ベントレーモーターズにとっても記念すべき日となりました。90年ぶりに製作されたブロワーを運転できたことは大変光栄であり、ティム・バーキン卿もこのクルマの出来栄えに満足してくれることと思います。

 このクルマのクラフトマンシップは実に素晴らしく、一世を風靡したオリジナルブロワーの走りが正確に再現されていたことをご報告させていただきます。

 このブロワーでピムズレーンを走行でき、喜びもひとしおです。ベントレーはこのたび、ピムズレーンの本社敷地を拡張し、新施設を建設いたしました。

 本社の拡張はベントレーの未来にとっても、クルーという地域にとっても大変意味のあることです。新施設は明るい未来に向けた具体的戦略のひとつであり、サステナブルなラグジュアリーモビリティにおける世界的リーダーを目指していく上で、重要な足がかりとなります」

■英国のクラシックカー再生のスペシャリストたち

 ブロワー・コンティニュエーション・シリーズは、ベントレーマリナーの「クラシック」部門が顧客のために手がけた初めてのプロジェクトである。マリナーにはそのほかに、特別限定車「バカラル」を製作した「コーチビルド」部門とコンチネンタルGTマリナーを製作する「コレクション」部門がある。

カーゼロの製作は、オリジナルブロワー4台の製造時に使用された設計図や下書き、当時撮影された写真を徹底的に分析することからスタート

 カーゼロの製作は、オリジナルブロワー4台の製造時に使用された設計図や下書き、当時撮影された写真を徹底的に分析することからスタートした。次に取りかかったのがベントレーが所有するブロワー2号車の分解である。フレームとパーツをレーザースキャンし、その精密なデータを基に、CADによる完璧なデジタルモデルを完成させた。

 ベントレーマリナーは今回のプロジェクト当初から、パーツ製作を外部に依頼することを計画しており、何世代にもわたって伝統的技術を継承している英国きってのスペシャリストらの協力を得ている。

 シャシは、イスラエル・ニュートン&サンズ社が極厚鋼板を手作業で成形し、熱間によるリベット留めによって完成。同社はダービーのほど近くに拠点を置き、蒸気機関車のボイラーやトラクションエンジンの製作を手掛けてきた創業200年の歴史ある会社で、伝統的工法による金属の鍛造・成形加工を得意としている。

 ブロワーの主要パーツのいくつかを忠実に再現したのは、ビスターヘリテージに拠点を置くビンテージ・カー・ラジエター・カンパニーだ。鏡面仕上げが施されたニッケルシルバー地金製ラジエターシェルや、スチールと銅板を打ち出し成形したフューエルタンクなどを担当している。この会社はビンテージカーのラジエターやコンポーネントの製作・復元におけるトップメーカーであり、最高レベルのクラフトマンシップとオーセンティシティを誇っている。

 リーフスプリングとシャックルは、ウェストミッドランズにあるジョーンズ・スプリング社のオリジナル仕様だ。鍛冶屋をルーツとし、75年近い歴史を持つ会社である。

 ブロワーのシンボルであるヘッドライトは、シェフィールドにあるビンテージ・ヘッドランプ・レストレーション・インターナショナル社によって再現された。親子経営のこの会社は銀細工で知られ、オリジナルの仕様にしたがってビンテージデザインのヘッドランプを製作するその技術は、世界的に高い評価を得ている。

 アッシュフレームはラドローにあるロマックス・コーチビルダーズ社が製作し、クルーのマリナートリムショップにて、職人らが最終仕上げを施した。ブロワーのボディは、25メートルに及ぶ人工皮革のレキシン(Rexine)で覆われており、ボディの内装はマリナーの名匠の手によって仕上げられた。

 カーゼロのグロスブラックのエクステリアに、ブリッジ・オブ・ウィアー社製のオックスブラッドと呼ばれる赤いレザーと、それにマッチした内装は実に見事な組み合わせだ。オリジナルのブロワーと同じく、シートの中身には計10kgもの天然馬毛が使用されている。

■北京−パリ間を想定しておこなわれるテスト

 カーゼロのエンジンは、W.O.ベントレー自らが設計した4.5リッターで、今回はワトフォードにあるNDR社などの協力を得て新たに製作されることになった。

エンジンにはアルミニウムピストン、オーバーヘッドカムシャフト、4バルブ、ツインスパークイグニッションなど、1970年代のスポーツカーエンジンもうらやむような革新的技術が数多く採用されている

 このエンジンにはアルミニウムピストン、オーバーヘッドカムシャフト、4バルブ、ツインスパークイグニッションなど、1970年代のスポーツカーエンジンもうらやむような革新的技術が数多く採用されている。

 アムハースト・ヴィリヤースの設計によるルーツ式スーパーチャージャーも新たに機械加工され、搭載されている。今回製作されたエンジンは、1920年代後半にバーキン卿のレースチームのために製作された4台のブロワーのエンジンを忠実に再現したもので、クランクケースにマグネシウムが使用されている。

 このエンジンの組立と並行し、100年近く前に設計されたエンジンをテストできるよう、クルー本社にあるエンジンテストベッドが改造されている。このエンジンテスト設備は、1938年の工場建設時からベントレーに存在していたもので、第二次世界大戦中には航空機用エンジン「マーリンV12」の試運転やパワーテストに使われた設備だ。ちなみにマーリンV12は「スピットファイヤ」や「ハリケーン」といった戦闘機に搭載されたエンジンだ。

 コンピューター制御のエンジンダイナモメーターに取り付けられるように、まずはブロワーのフロントシャシのレプリカが作成され、そのレプリカにエンジンが格納された。

 さらに、ベントレーのエンジニアがエンジンをモニターし、正確なパラメーターでエンジンを作動できるようにするため、エンジンの測定と制御に使う新しいソフトウェアの作成とその動作確認もおこなわれた。

 ブロワーのパワートレインは、現在のベントレーに搭載されているエンジンとはサイズも形状もまったく異なるため、再現されたエンジンをテストベットに取り付ける際には、マーリンエンジンのテスト用としてベントレーに保管されていた当時の取付具も多数活用されたほどだった。

 そして完成したエンジンは、車両に搭載される前に、テストスケジュールにしたがって試運転がおこなわれている。

 カーゼロは今後、耐久試験に入る予定だ。走行時間と走行速度を徐々に増やしながら、より厳しい条件下で機能性と耐久性を確認していくことになる。

 このテストプログラムは、8000kmのトラック走行を含め、計3万5000kmの走行を想定している。これは、北京・パリモーターチャレンジやミッレミリアなどのクラシックカーラリーでの走行を想定しているためだ。

 さらに、最高速での走行試験も予定されており、そのドライバーの最有力候補としてエイドリアン・ホールマーク会長兼CEOの名前が挙がっている。

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