軽自動車と並び、登録車のなかで依然と高い人気を誇っているのがコンパクトカーです。日本のみならず、欧州や新興国でも庶民のための大衆車として、定番のヒット車として君臨しています。このコンパクトカーのなかには、歴史に名を残すような名車も存在。そこで、優れたパッケージングや走りだけでなく、デザインが高く評価されたコンパクトカー3車種をピックアップして紹介します。
■秀逸な外観で人気を博したコンパクトカーたち
近年、日本の自動車市場では軽自動車がヒットしていますが、それに負けじと登録車のなかではコンパクトカーが売れています。1リッターから1.5リッターのエンジンを搭載し、ボディは概ね全長は4000mm前後、全幅1700mm以下という使い勝手の良いサイズと、低燃費と低価格による優れた経済性により、高い人気が続いています。
現在のコンパクトカーの基礎は1970年代には確立され、2BOXスタイルのFF車というパッケージングが定番となりましたが、これまで販売されたコンパクトカーのなかには名車の呼び声高いモデルも存在。
そこで、優れたパッケージングや走りだけでなく、デザインが高く評価されたコンパクトカー3車種をピックアップして紹介します。
●フォルクスワーゲン初代「ゴルフ」
世界中で大ヒットした大衆車の代名詞的存在であるフォルクスワーゲン「タイプ1(ビートル)」の後継車として、1974年に登場したのが初代「ゴルフ」です。
新世代のベーシックカーとして開発されたゴルフは、コンパクトなボディサイズに広い室内と高い経済性を実現するため、タイプ1の丸いボディのリアに空冷水平対向4気筒エンジンを搭載するRRから、スクエアなボディのフロントに、水冷直列4気筒エンジンを搭載するFFへと一新。
スタイリングは巨匠ジョルジェット・ジウジアーロの手によるもので、優れたデザインとパッケージングが高く評価されました。
ボディタイプは3ドアと5ドアのハッチバックで、発売当初、エンジンは1.1リッターと1.5リッターを搭載し、後に1.3リッターや1.6リッター、1.6リッターディーゼルなど、バリエーションを拡充。トランスミッションは4速MTと3速ATで1979年には5速MTが追加されます。
内装はシンプルながら空調のスイッチやラジオなどをメータークラスターに集中して配置するなど、ドライバーが最小限の動きで操作できるよう機能的にデザインされていました。
また、1976年に110馬力を誇る1.6リッターエンジンを搭載する高性能モデル「ゴルフGTI」が登場。同年にはソフトトップのオープンカー「ゴルフ カブリオレ」も加わります。
そして、1983年に2代目にバトンタッチして初代は生産を終え、現行モデルは2019年に発表された8代目にあたりますが、最新モデルでも太いCピラーをはじめ、ルーフラインやリアハッチの傾斜角度など、初代からのデザインが継承されています。
初代ゴルフは後にFFコンパクトカーのベンチマークとなり、世界中のメーカーに影響を与えるなど、タイプ1にも匹敵する名車として語り継がれる存在です。
●トヨタ初代「ヴィッツ」
大人4人が快適に過ごせる空間と優れた基本性能を実現したエントリーカーとして、1999年にトヨタ初代「ヴィッツ」が登場。従来の「スターレット」に代わり、トヨタの新世代世界戦略車としてデビューしました。
ボディタイプは3ドアハッチバックと5ドアハッチバックで、内装ではセンターメーターが特徴的で、チープな素材を使いながらも安っぽく見えないデザインを採用。
サスペンションはフロントがストラット、リアがトーションビームのコンパクトカーとしては定番のシャシレイアウトで、エンジンは1リッターと1.3リッター直列4気筒を搭載。後に1.5リッターエンジンを搭載した高性能モデルもラインナップされるなど、クラスを超えた走りも高く評価されました。
その優れたパッケージングと経済性により、「ヴィッツ/プラッツ/ファンカーゴ」が第20回日本カー・オブ・ザ・イヤー1999-2000を受賞。
欧州でも大ヒットを記録して欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、国内外でコンパクトカーのベンチマークといえる存在となります。
初代ヴィッツはビジネスユースからスポーツドライビングまでカバーする幅広いバリエーションを展開し、日本ではホンダ「フィット」と競いながら販売台数を順調に伸ばしていきまいた。
そして、2020年2月には車名を海外名の「ヤリス」に統一した4代目モデルが登場し、世界トップクラスの低燃費を実現するなど、現在もコンパクトカーのトップセラーとして君臨しています。
■それまでのコンセプトを一新したホンダの定番コンパクトカーとは
●ホンダ3代目「シビック」
ホンダは1972年に、登録車としては同社初のFF2BOXコンパクトカーである初代「シビック」を発売。優れた燃費性能と走り、クラスを超えた広さを実現した室内空間など優れたパッケージングにより、大ヒットを記録しました。
また、アメリカでも低燃費と低公害を武器にヒットし、ホンダがグローバルに本格進出する礎にもなったモデルです。
そして、1983年には3代目シビックが登場し、初代からキープコンセプトだった2代目から大きく変わり、シャシや外観デザイン、エンジンなどすべてを一新。
メカニズム部分を最小に、居住スペースを最大にというホンダの「M・M思想(マンマキシマム・メカミニマム)」が初めて具現化されました。
空力を意識したフォルムと居住性を追求した結果生まれた、斬新なロングルーフデザインによって室内空間を大幅に拡大。
180mmのスライド量を持つフロントシートや、室内との自然な一体感を与えるインパネまわりなど、隅々までスペースの有効活用を追求した設計により、使い勝手の良さと広さを兼ね備えた室内が特徴的です。
発売当初に搭載されたエンジンは1.3リッターと1.5リッター直列4気筒で、1.5リッター車ではシリーズ初の電子制御燃料噴射装置を採用するなど、メカニズムも大幅な進化を遂げています。
また、1984年には1.6リッター直列4気筒DOHCエンジンを搭載した「Si」グレードが追加され、それまでに無いスポーティな走りから、シビック=スポーツコンパクトカーというイメージを定着させました。
3代目シビックは同社初となる第4回日本カー・オブ・ザ・イヤー1983-1984を受賞し、さらに1983年には自動車として初めてグッドデザイン大賞を受賞するなど、優れたパッケージングやデザインが名実ともに高く評価されたモデルです。
※ ※ ※
かつて、1980年代から1990年代にかけて、コンパクトカーにも過激な動力性能が求められた頃がありましたが、現在はより基本性能が重視されています。
とくに安全性能や燃費性能の向上はめざましく、より普段使いに適した進化を遂げつつ価格も抑えられており、ある意味メーカーの技術の粋が集められたセグメントといえるでしょう。
いま、日本で一番売れているクルマは軽自動車ですが、グローバルでの販売を想定しているコンパクトカーこそ、国産メーカーの屋台骨を支えている存在といっても過言ではありません。