フェラーリのスペチアーレのなかでも創設者の名前を冠した特別な1台が、「エンツォ」だ。新車でエンツォを手に入れるには、どのような基準があったのだろうか。
■スペチアーレのオーナーでないと入手できないフェラーリ
2002年9月に開催されたパリ・サロンで、創業者、すなわち「エンツォ」の名を掲げた特別なフェラーリが正式に発表された。これは1998年に発表された「F50」に続く、一般的にはいわゆるスペチアーレと呼ばれるモデルで、最初から限定生産を前提とした特別な顧客向けに生産されるモデルである。
●2003 フェラーリ「エンツォ」
当然のことながら発表と同時に、というよりも発表時点ですべての車両のオーナーが決定しており、そのリストに自分の名前を連ねるには、それまでにどれだけのフェラーリを所有してきたかなど、厳しい審査が待ち構えていた。これがいわゆるフェラーリ・カスタマーのヒエラルキーを作りあげている何よりの証明といっていいだろう。
今回RMサザビーズのアリゾナ・オークションに出品されるエンツォは2003年に製作されたモデルである。
前作のF50と比較してもっとも大きく進化を果たしたのは、やはりエアロダイナミクスを徹底的に追求したエクステリアデザインといえる。デザインは当時の定石どおりにピニンファリーナに委ねられ、ピニンファリーナはF50よりもさらに高性能で魅力的な造形を実現するためにF1マシンのモチーフを積極的にエンツォに採り込んだ。
例えばフロントセクションの造形は、当時のF1マシンのノーズコーンそのものともいえる鋭さを持つものであるし、その左右に設けられたエアインテークもまた、同様にF1マシンを意識させるとともに高性能な機能を持ち合わせている。
プロジェクター方式のヘッドランプを用いることで可能になった、コンパクトな縦長のヘッドランプ、ボンネット上からエアを効率的に排出し、同時に少なからずダウンフォースを生み出すエアアウトレットも、エンツォのエアロダイナミクスでは見逃せないパートだ。
フロントフェンダーは滑らかな曲線でデザインされ、その頂点から若干後方の部分にサイドミラーが配される。フロントウインドウの傾斜もF50よりさらに強くなった。キャビンは見た目にはかなりコンパクトに見える。
ボディ後半も実にスムーズなデザインだ。リアフェンダーの手前にはエンジンルームにエアを導入するためのエアインテークが設けられ、そのリアフェンダーも想像するほどにはワイドなデザインではない。さらにテール部には可変式のリアフラップが備えられており、最大で75mm、自動的にアップする仕組みとなっている。
■フェラーリのスペチアーレには走行距離は関係ない!?
リアミッドに搭載されるエンジンは、F140B型と呼ばれるV型12気筒で排気量は5998ccである。ちなみにこのエンジンは、「712Can-Am」以来フェラーリが製作したもっとも大きな排気量のエンジンで、ボア・ストローク比は0.82。F50と同様にショートストローク型のエンジンに仕上げられている。
●2003 フェラーリ「エンツォ」
吸排気の両側に連続可変バルブタイミング機構を持つほか、吸気管長の切り替えによる可変慣性過給システム、さらには独立型コイルを組み合わせたプラグを等長配置するなど、さまざまな新技術がこのユニットには採用されている。
最高出力は660ps、最大トルクは657Nmというのが、当時発表されたデータだった。組み合わせられるミッションは6速のF1マチック。このパワーユニットとプッシュロッド式のダブルウイッシュボーンサスペンション、そして当時F1GPでのパートナーであったブリヂストンが専用開発したタイヤ、ポテンザRE050Aスクーデリアが、350km/h以上の最高速を実現するために大きく貢献した。
RMサザビーズによると、この2003年式エンツォ・フェラーリは、同年3月にマラネロから出荷された後に、アメリカのノースカロライナ州のカスタマーへと渡ったという。
このカスタマーは、ほかにも「512S」、「312P」、「333SP」、「250GT SWB」などをコレクションする生粋のフェラーリスタ。エンツォの購入リストに名を連ねるのには、何の問題もなかったに違いない。
後に彼は5300マイル(約8480km)を走行した後に、このエンツォを売却。現在のオーナーは1万1400マイル(約1万8240km)で、今回のアリゾナ・オークションにこのエンツォを出品したが、はたして創業者の名を掲げた特別なフェラーリには、現在どれだけの価値が認められるのだろうか。
参考までにRMサザビーズは、その予想落札価格を225万−250万ドル(邦貨換算約2億3000万円−2億6000万円)と提示しているのだが。世界でわずかに400台しか存在しないエンツォ。その価値はそれに相応する可能性が高い。オークション結果が楽しみな1台だ。