稀に冬タイヤのまま春・夏・秋を走行する人がいるといいます。では冬タイヤのまま、夏場に走行するとどのような危険性があるのでしょうか。
■冬用タイヤで夏に走ったらどうなる?
タイヤは冬になる前に夏タイヤ(ノーマルタイヤ)から冬タイヤ(スタッドレスタイヤ)に替えますが、冬タイヤを装着したまま1年を通して走行しても問題はないのでしょうか。
一般的には、冬用タイヤで通常シーズン(春・夏・秋)も走行すると危ないといわれています。
危険性について、あるタイヤ販売店のスタッフは以下のように説明します。
「冬用タイヤは、夏用タイヤに比べて溝が深く、細かい溝も多数あります。
これらの溝には吸水性能があり、とくに雨の日など路面が濡れているときは、スタッドレスタイヤが水を溜め込んでしまうため、排水性能が低下して、高速走行ではハイドロプレーニング現象が起きやすくなります。
また、ゴムが柔らかくできているので、高温になる夏の路面では、柔らかくなりすぎてタイヤ自体が歪みグニャグニャします。
タイヤの性能を発揮できない状態でグリップが悪くなり、カーブなどの曲がった道では、ふくらんだり、ふらついたりして思うような走行が出来なくなることもあります。
着脱する費用や、手間がかかってしまうため、面倒に感じて冬用タイヤをそのまま夏も使って履き潰してしまう人がいらっしゃいますが、危険なので季節ごとに替えるように心がけて下さい」
また、JAFでは、2015年に雨天時にタイヤの溝の深さのちがいで摩擦力がどの程度違うのか直線ブレーキテスト、旋回ブレーキテストをおこなっています。
テスト車両はABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が装着されているトヨタ「プリウス」で、使用されるタイヤは夏用の新品、5分山、2分山の3種類、さらに夏用として使用可とされる5分山の冬タイヤも加え、同サイズ4タイプのタイヤで実験がおこなわれました。
この検証では、ドライ時の路面、ウェット時の路面をそれぞれ走り、60km/hと100km/hでの制動距離を測ります。
直線でのブレーキテストにおいて、とくにその差が現れたのはウェット路面となり、60km/hで濡れた路面での制動距離は新品タイヤが16.7mであったにもかかわらず、5分山の冬タイヤでは20.3mでした。
100km/hでは、新品の夏用タイヤが47.6mであるのに対し、冬タイヤでは72.2mとはるかに長くなりました。
夏用の5分山タイヤであれば、ドライ・ウェット路面ともに、新品の夏用タイヤと制動距離において大きな差は見られなかったので、同じ5分山のものでも冬タイヤということだけで、かなりの差が出ています。
この結果から「溝があるから問題ない」「夏も利用可の冬タイヤだから大丈夫」という考えを持つのは危険であるといえるでしょう。
また、摩耗が進んでいる2分山タイヤのウェット路面のテストでも、60km/hで18m、100km/hで70.5mと、いずれも冬タイヤの制動距離が長いことが分かりました。
このように、「費用がかかる」「面倒だから」を理由に冬タイヤのまま走行し続けることで、危険性が高まるということが分かります。
実際に夏によく起きる冬タイヤの事故について、ロードサービスの担当者は以下のように話します。
「夏の雨の日のスリップ事故の現場に行くと、冬用タイヤを着用したままだったというクルマを高確率で見かけます。
冬用タイヤはゴムが柔らかいのが特徴で、摩擦抵抗が少ないので、とくに滑りやすいのです。
夏になっても履き続けていた冬用タイヤで、しかも雨の日にドライバーの感覚が夏用タイヤを履いている雨の日の感覚で運転しているのもひとつの原因です。
雪の上は、滑りやすいと視覚の要素も加わり注意してアクセルを開き、ブレーキをかけます。
スリップしないように細心の注意を払い運転をするのですが、夏の日に冬用タイヤを履いていても、それと同じような感覚を持って運転する人はまずいません。
夏に冬用タイヤを履いているということは、氷の上を走っているのと同じということなのですが、冬用タイヤ特徴の深い溝があり、見た目上は摩耗していないので、滑るという感覚は掴めないと思います。
豪雪地帯ではない人は、雪がもう降らないという予報が確認できれば3月には夏用タイヤに履き替えて欲しいです」
■夏用タイヤと比べて、冬用タイヤの特徴はどういったものなのか
そもそも冬用タイヤとはどういった特徴があるのでしょうか。
冬用のスタッドレスタイヤは、積雪や凍結した路面で使用することを目的に作られたタイヤで、寒冷地に住んでいる人や、ウインターレジャーに行く人には必需品とされています。
見た目の特徴は夏用タイヤより溝が深く、タイヤの地面と触れる部分であるトレッドに、溝で囲んだような大きく深いブロックが設けられており、そのブロックには細かな切れ込み(サイピング)が刻まれています。
この構造により、雪上路では、トレッドのブロックによって雪を踏み固めながら抵抗を増やす雪柱せん断力と、ブロックの角が雪をひっかくことで生じるエッジ効果によって雪を噛むように圧縮していきます。
溝に噛まれた雪はタイヤが回転する間に溝から剥がれ落ち、再度接地した時には新たな雪を噛む動きをします。
また氷上路では、サイピングによって、滑りの原因となる路面の氷上にできた「水膜」を細かい溝のなかに取り込むように働き、エッジ効果が増えます。
ゴムが低温下でひっつこうとする凝着摩擦力とあいまって、安定したグリップ力が確保され、このような構造により、冬の道でも駆動力や制動力、そしてハンドルを切った際の旋回力を生み出し、安定した走行が可能となっています。
もうひとつの特徴として、夏用タイヤとは違うゴムを採用しているところにあります。
低温でも路面にピッタリと密着し、硬くなりにくく、しなやかに動くように特殊配合されたゴムを使用しています。
また、氷表面の水分を除去する素材を使うことによって摩擦力を生み出しています。
このしなやかさより、雪や氷との接触面積を増やし、冬用タイヤの溝の特徴によりエッジ効果が増加され、走る・曲がる・止まるといった車の基本要素が保たれるようになっています。
それだけでなく、雪や氷のない通常の路面でも、通常の運転操作をしている上では安心して走行できるように設計されています。
このように、冬用タイヤは、積雪路・凍結路面での性能を重視して作られているので、乾燥路及び湿潤路で使用することを進めてはいけないといわれています。
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近年では夏用として使用可とされるスタッドレスタイヤや、オールシーズンタイヤというものも人気が出ていますが、タイヤの特性などをよく理解したうえで、十分な注意を払う必要があるといえます。
住んでいる環境にもよりますが、冬から春へと気候の変わるタイミングで、夏用タイヤに履き替えることがベストといえるのではないでしょうか。