世界のミリオネア、もしくは好事家には、ただのフェラーリでは満足できない人も多い。そうした人たちのオーダーに応えてオリジナルのボディを架装するのがカロッツェリアの役目だ。ザガートが手がけた「599」は、どのようなフェラーリなのだろうか。
■どうしてフェラーリをカロッツェリアが手がけるのか?
フェラーリが2006年2月に開催されたジュネーブ・ショーで、新型12気筒ベルリネッタの「599GTBフィオラノ(日本名599)」を発表した時、誰もが一瞬息を飲むほど、そのスタイリングは美しかった。
●2009 フェラーリ「599GTZニッビオ・スパイダー・ザガート」
599は前作の「550マラネロ/575Mマラネロ」に続き、フロントエンジンの基本設計を採用している。したがってロングノーズ&ショートデッキがスタイリングの基本となっていたが、すでにフェラーリはこのスタイルを完全に自身のものとして使いこなしているという感が強かった。
599に先んじて誕生した2+2GTの「612スカリエッティ」も、フェラーリ、そしてピニンファリーナにとっては重要な経験となったといえる。だが両車のスタイルは、612スカリエッティが古典的で優雅な曲面で構成されていたのに対して、599は前衛的な彫刻の如き鋭いラインで構成した、きわめてアグレッシブなものに仕上がっている。
そのため、599とは異なるテイストの、いわば612スカリエッティに近い優しさを感じる12気筒ベルリネッタに乗りたいと願うカスタマーも、少なからず存在したはずである。かつてはそうしたカスタマーの要求に応えるために、イタリアではカスタマーが好みのボディをデザイン、製作し、シャシに組み合わせるカロッツェリアが数多く存在していた。
フェラーリももちろん、かつてはカロッツェリアと友好的な関係を築いていたが、それはいつしか“ピニンファリーナ”と、という言葉に変わり、現在ではニューモデルのデザインも社内のデザイン・センターでおこなわれるようになった。
そのようななかで、2月に開催されるRMサザビーズのパリ・オークションに出品されるのが、2009年にカロッツェリア・ザガートによって製作された「599GTZニッビオ・スパイダー・ザガート」だ。
■日本人の好事家のオーダーから復活したザガート製フェラーリ
そもそもザガートがフェラーリのコーチビルドを再開したきっかけは、ある日本人コレクターの「575Mマラネロ」をベースとした「575GTZ」の製作を請け負ったことが直接のきっかけである。
それから10年近い年月が経過し、再びザガートは599をベースに独自のオープンモデル、ならびにクーペモデルを製作する決断を下したのだった。
●2009 フェラーリ「599GTZニッビオ・スパイダー・ザガート」
実際に完成されたオープン仕様の「599GTZニッビオ・スパイダー・ザガート」は、そのベースが599であることが分からないほどに斬新に、そして美しく姿を変えている。
とくに印象的なのはフロントマスクの造形で、さらに大型化され丸みを帯びたフロントグリルや、往年の「250テスタロッサ」、あるいは前作の550GTZバルケッタをも想像させるフロントフェンダーとヘッドランプの造形は実に見事だ。
フェンダー後方のエアアウトレッドもデザインはより水平方向へと改められ、ここから導かれるキャラクターラインはテールエンドまで美しく連続する。ちなみにニッビオとはイタリア語で鳶の意。大空を自由自在に飛び回る姿が、そのスタイルからも想像できる。
キャビンの後方からリアハッチにかけては、ザガート伝統のダブルバブルのデザインが採用されている。ちなみにこれからザガートでは、6台のバルケッタと9台のクーペを新たに生産する予定だが、クーペにはダブルバブルを採用するのは間違いないだろう。
599GTZニッビオ・スパイダー・ザガートに搭載されるエンジンは、オリジナルと同様に620ps仕様の6リッターV型12気筒自然吸気である。これは実に、あの「エンツォ」直系の高性能エンジンである。
RMサザビーズ、そしてザガートによれば、6台のバルケッタはすべて異なるボディカラーで製作されているとのこと。つまりすべてはワンオフモデルということになる。はたして今回のオークションで、そのなかの1台たるこのモデルは、どのくらいの高値で取り引きされるのだろうか。参考までにかつてのオークションでは、1億円以上の落札価格が提示されたこともある。リザルトが楽しみな1台である。