1970年代には「オートレストラン」や「オートパーラー」と呼ばれた自販機で飲食を販売するスポットが流行しました。現在では、その数は減少しているものの、かつての自販機を集めてオートレストランを復活させたタイヤ販売店があります。なぜ、コンビニ全盛期のなかで、レトロな自販機での飲食を展開しているのでしょうか。
■人気を集める「レトロ自販機」、かつては「オートレストラン」として1970年代に流行
神奈川県相模原市にあるタイヤ販売店に併設された24時間営業の「レトロ自販機」が最近人気を集めています。
週末は深夜でも駐車場は満車状態で待機列ができるほどだといいますが、なぜ中古タイヤ販売店にレトロ自販機が設置されたのでしょうか。
現在では「レトロ自販機」「なつかし自販機」などと呼ばれる自動販売機は1970年代に流行しました。
深夜営業しているコンビニもファミレスもなかった時代にモータリゼーションの拡大と共に時間に縛られないクルマ移動が各段に増え、道路の整備が進んだこともあって深夜も走り続ける長距離トラックが急増します。
ドライブを楽しむ一般ドライバーから、夜も仕事で走り続けるプロドライバーのための食事処として、全国各地の国道沿いなどに24時間温かい食事を提供できる、うどんやそば、ハンバーガーや弁当などの自販機が置かれるようになりました。
1970年代に大ヒットした映画「トラック野郎」シリーズにもたびたび登場しています。
しかし1980年から1990年代には24時間営業のコンビニやファミレスが急増し、ドライブインと共に、オートレストラン、オートパーラーと呼ばれるこれらの自販機コーナーも減っていきます。
修理ができる業者が減ったこともあり、一度故障すると再生が難しく、廃棄される自販機も増えてしまったのです。
こうして手放されることになったレトロ自販機が再生されて活躍しているのが、中古タイヤの販売やホイールの修理などをおこなう「中古タイヤ市場」です。
コロナ禍のいま、無人で温かい食事がとれる自動販売機なら、営業自粛や時短営業とも無縁です。
メディアで紹介される機会も増え、名古屋や大阪は当たり前、遠くは北海道からもクルマで訪れる人もいるという相模原のレトロ自販機コーナー。
2001年にオープンした中古タイヤ市場は2021年で20年を迎えますが、レトロ自販機を設置し始めたのは2017年からだといいます。
社長の斉藤辰洋氏が趣味として集め、修理や整備をしてよみがえったポップコーンや瓶コーラの自販機を置いたことから始まり、「タイヤ交換などの作業を待っている間、お客さんに楽しんでもらえたら…という思いから始めた」といいます。
数台から始まったレトロ自販機はどんどん増えて、うどんやそば、ラーメンなど自動調理機を備えた自販機を含め、2020年春頃には40台を突破。自販機の列も1列から2列へ増えて、現在は95台にまで増えました。
ほとんどの自販機は昭和生まれで、30年、40年もの長い間、使われてきたものが大半で故障も多く、部品を探すのにも苦労する自販機が多いのですが、斉藤氏は独自の技術で修理をしています。
ちなみにもっとも古い自販機はロッテ「チウインガム」で、製造は昭和35年(1960年)と、61年もの歴史を持っています。
丁寧に整備やメンテナンスをおこない、60年以上も昔の機械が元気に動いているのは驚異的といえるでしょう。
なお、実際の商品価格は1個100円ですが、自販機の金額表示は10円・20円と当時のまま残してあります。
■現在はクルマ好きの新たな聖地になっている?
95台あるレトロ自販機で売られているものは実に多種多様です。
うどん、そば、ラーメン、ハンバーガー、ホットサンド、ホットスナック、弁当、カレーライス、みそ汁などの温かい食事系、清涼飲料水、アイスクリーム、かき氷などのデザート系。食品以外では、アニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」のプラモデルや神社にあるのと同様のおみくじなどもあります。
一番人気の自販機について、斉藤社長は次のように話します。
「うどん・そば、ラーメン、ハンバーガー、トーストなどは季節を問わず人気がありますね。
寒い時期ならなおさらでしょう。週末ともなれば、麺類は1日400杯以上が販売されています。
また夏場はもちろんですが、寒い時期でもかき氷やアイスクリームが意外と売れるのですよ」
確かに筆者(加藤久美子)がいったときは氷点下2度という寒さで駐車場の水たまりも凍っていましたが、かき氷を買っているカップルがいました。
ということで筆者もチャーシュー麺を買ってみることに。このときはラーメンが売り切れだったのでチャーシュー麺を選びました。
同じ自販機でラーメン(300円)とチャーシュー麺(400円)を販売していますが、100円の差でチャーシュー麺にはチャーシューが5枚も入っていてオトク感満載です。
自販機といっても生めんに熱々の液体スープが注がれてネギ、海苔、メンマ、なるとまで入ったとてもおいしいチャーシュー麺でした。
そんな話題のレトロ自販機ですが、訪れる世代となれば、やはり40代以上が中心かと予想出来ますが、実は20代の若者グループやカップルのデートスポットとしても人気を集めているようです。
集まるクルマはスポーツカー、痛車、カスタムカー、そして1980年代の国産スポーツカーも目立っていました。
斉藤社長の話によると、遠くは北海道や九州から訪れるクルマもあり、大阪や京都などの関西ナンバーも普通に見かけるとのこと。
旧車数台が集まって、ここからツーリングに出かけたり、オフ会の帰りによってみたりと、クルマ好きにとっても新たな聖地になりつつあるのでしょう。
筆者が取材にいった金曜日の深夜も日曜日の昼間も、いずれも駐車場はほぼ満車。金曜日は午前0時近い時間でしたが、駐車場に入れないクルマも多数いました。
なお、こちらの駐車場は凹凸が多いので車高の低いクルマは下回りをぶつける危険があります。ドリフト仕様やローダウンのクルマは駐車場外に停めたほうが安全です。
斉藤社長に、今後、加えたい自販機を聞いてみました。
「川鉄(川鉄計量器株式会社)のカレー自販機を手に入れたいですね。稼働しているカレー自販機は恐らくないと思います。
動かなくなった自販機は全国にひとつかふたつはあるかと思うのですが。探しだして修理をして自販機としてカレーを提供できる日を夢見ています」
※ ※ ※
なお、中古タイヤ市場のレトロ自販機群は24時間営業ですが、商品の補充や両替に関してはお店の営業時間である10時から19時のみ対応です。ほとんどの自販機は古いため500円玉は使えないといい、歴史的価値もある貴重な自販機なため優しく扱ってあげましょう。