他社が開発したクルマに自社メーカーのバッジをつけて販売されるOEM車。OEM車に乗っている人は、なぜオリジナルのモデルとは違うメーカーのクルマを選んだのでしょうか。OEM車に乗っているオーナーに聞いてみました。
■意外に多いOEM車 他社製と知らずに買う人も
見た目はそっくりなのに、違う名前のクルマが存在します。これは「OEM(Original Equipment Manufacturing、またはManufacturer)」と呼ばれる、他社で開発・製造したクルマを自社ブランド扱いで販売するクルマのことを指します。
両車の違いは内外装のバッジ(車名やブランドロゴ)の変更だけというケースや、グリルやフロントバンパーなどデザインが異なる場合もある状況です。ちなみにOEMと似た事例として2社共同でクルマを開発し、各々のメーカーが別々に販売することなどもあります。
OEMを積極的におこなっているのがトヨタとダイハツです。ダイハツ製のトヨタ車だと知らずに乗っているユーザーも多いといわれていますが、OEM車を販売するメリットやデメリットには、どのようなことがあるのでしょうか。
主要な国産メーカーは大まかに3つのグループに分かれています。
トヨタを軸とした、ダイハツ、スバル、マツダ、スズキと、フランスのルノーを加えた日産、三菱のアライアンス、そしてアメリカのGMとの関係強化を図っているホンダとなっています。
OEMに関しては、必ずしもグループ間だけというわけでありませんが、現状ではこのグループ内でOEM提供が盛んにおこなわれているようです。
たとえば、トヨタやスバルは自社生産の軽自動車を持っていませんが、ダイハツからOEM供給を受けて軽自動車を販売しています。
また、トヨタのコンパクトSUVとして大ヒットモデルとなった「ライズ」は、ダイハツ「ロッキー」のOEM車です。
両車とも企画・製造はダイハツがおこなっており、ライズのデザインや専用ボディカラーの開発もダイハツが担当しました。
同じくコンパクトミニバンのトヨタ「ルーミー」もダイハツが企画・製造を担当。ダイハツでは「トール」として販売されるとともに、スバルにもOEM供給されて「ジャスティ」として展開されています。
小型車の製造を得意とするダイハツですが、同社がノウハウを持たないセダンやミニバン(ワゴン)といったジャンルはトヨタからOEM供給を受けています。
トヨタ「カムリ」はダイハツ「アルティス」として、2021年3月末で生産終了となりますが、トヨタ「プリウスα」はダイハツ「メビウス」として販売されるなど、持ちつ持たれつの関係を築いています。
マツダも、現在は軽自動車や商用車を自社で開発していないメーカーのひとつです。
軽自動車のマツダ「キャロル」はスズキ「アルト」、マツダ「フレア」はスズキ「ワゴンR」など、スズキからのOEMがメインになっています。
マツダの商用車については、「ボンゴブローニイバン」の自社生産が終了した後、現在はトヨタ「ハイエースバン」のOEM車となりました。「ボンゴバン」「ボンゴトラック」もダイハツから「グランマックス」のOEM供給を受けている状況です。
マツダ「ファミリアバン」は、2018年までは日産からOEM供給(ADバン)を受けていましたが、いまではトヨタ「プロボックス」へと変更されています。
商用車の分野は、今後さらにOEMが加速することが予想されています。なかでも軽トラは、ホンダ「アクティトラック」が生産終了となることから、ダイハツ「ハイゼットトラック」とスズキ「キャリイ」の2車種のみとなります。
トヨタ、スバルはダイハツから、マツダ、日産、三菱はスズキから、それぞれOEM供給を受けて商品展開をおこなっているのです。
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近年OEMが増えているのは、自社で開発するコストを必要とせずにラインナップを充実させることができるからです。
新車の購入を検討している人がディーラーへ来たときに、欲しいクラスやジャンルのクルマがなかったら他社へ行ってしまいます。
そうならないためにも、ラインナップはできるだけ充実させておきたいということから、他社からOEM供給してもらうという手法がとられています。
一方でOEM供給する側にとってもメリットはあります。名前こそ変わっても、自社のクルマがそれだけ売れることで、生産性の向上や開発コストの回収、トータルでのコスト削減にも繋がります。
その一方でデメリットとしては、オリジナルの車種と比較してグレード展開が制限されてしまうことが多々あることなどが挙げられます。
たとえば、スズキは日産「セレナ」のOEM車として「ランディ」を販売していますが、セレナの目玉ともいえる電動パワートレイン「e-POWER」や先進運転システム「プロパイロット」は装着されません。
また、「セレナ ハイウェイスター」のようなカスタム仕様はランディには設定されておらず、セレナの標準仕様に準じた大人しいフロントグリルを装着しています。
■なぜハスラーじゃない!? マツダ版ハスラーを購入した理由とは
オリジナルのモデルのほうが知名度も高く、豊富なグレードやオプションが選べるのに、OEM供給されたモデルはどのような人が購入しているのでしょうか。
実際にOEM車に乗っているユーザーに話を聞いてみました。
広島県在住のFさん(40代・女性)が購入したのは、マツダ「フレアクロスオーバー」です。つまりスズキ「ハスラー」のマツダ版です。
SUVタイプの軽ハイトワゴンとして人気の高いハスラーを選ばずに、なぜフレアクロスオーバーをチョイスしたのでしょうか。
「以前からマツダのクルマに乗っていて、もう少し気軽でコンパクトなクルマに乗りたいと思っていたんです。
現在のクルマに乗り換えたのは、やはり慣れたディーラーで取り扱っていた車種だったことが大きいです。担当者も知っている人だし、修理やメンテナンスなども頼みやすそうというのがポイントでした」
また、ハスラーよりもフレアクロスオーバーのほうが商談で好条件だったり、納期が早かったりといったことが購入のきっかけになったといいます。
「クルマに詳しくないので、できれば安心できるお店で購入したかったし、家から一番いディーラーというのも購入した理由のひとつです」
Fさんのように、ディーラーの担当者との繋がりから購入するケースはOEMの場合は多く、また商用車の場合は、仕事の取引先との関係を考慮してあえてOEM車を選ぶケースもあるようです。
ちなみにFさんがフレアクロスオーバーがハスラーのOEM車だと知ったのは、商談を進めてからとのこと。
ハスラーがベースなので、社外品のカスタムパーツもハスラー用なら装着可能なのも、OEM車のメリットだといえます。
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OEM車は知名度の低さはあるものの、オリジナル車よりもOEM車のほうが好条件が出たり、納期が早いケースもあるというのは意外なメリットといえそうです。
逆に、好条件が出やすいOEM車をあえて選ぶのも、賢い購入方法なのかもしれません。
これからの時代、さらなる開発コストの抑制や効率化を進めるために、車種が絞られる可能性も否定できません。
ラインナップの充実のために、OEM車はこれからも増えることになりそうです。