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女豹のフェラーリは1700万円で落札! 「308GTB」の最高値はFRPボディで間違いなし

くるまのニュース 2021年3月11日 11時50分

ピッコロ・フェラーリである「308GTB」でもっとも高値で取引されるのは、FRP製ボディが架装されたヴェトロズィーナである。どうしてFRP製ボディを架装することになったのか、そして現在のオークション・マーケットでの価値をレポートする。

■ヴェトロレズィーナってなに?

 ここ十数年の慣習にしたがって、1月下旬の北米スコッツデール、2月中旬の仏パリによって本格始動した感のある2021年シーズンのクラシックカー/コレクターズカー市況。

 そんな状況のもと、業界最大手のRMサザビーズ社は、早くも2月下旬に次なるオークションを繰り出してきた。

 新型コロナウイルスの影響によりオンライン限定とされた「OPEN ROAD FEBRUALY」オークションは、同社の北米本社および欧州本社の双方から出品がおこなわれ、そのアイテム数は自動車だけでも108台に及んだ。

 今回VAGUEが注目したのは、常にクラシックカー/コレクターズカー国際マーケットの指標となるフェラーリ。いまや「クラシック」としての地位を確立した「308GTB」のなかでももっとも人気の高い、FRPボディの1台である。

●1976 フェラーリ「308 GTB ヴェトロレズィーナ」

 ご存知の方も多いことだろうが、1975年のパリ・サロンにてデビューしたフェラーリ308GTBの最初の数年間に製作されたモデルは、フェラーリ製ストラダーレ(ロードカー)としては特異なFRP製のボディを持つ。

 そしてこのFRP製の308GTBのことを、イタリアでは「Vetroresina(ヴェトロレズィーナ)」の愛称で呼ぶ。

「ヴェトロ」とはガラスのこと。そして「レズィーナ」はレジン、樹脂を意味する。つまりガラス繊維を樹脂で固めた「グラスファイバー」をそのままイタリア語とした、実は意外なほどにストレートなニックネームなのだ。

 ボディの架装は、当時フェラーリ社の傘下に収まったばかりのカロッツェリア・スカリエッティが担当することになった。

 ところが、当時イタリアで吹き荒れていた労働争議のあおりを受けて、開発段階で使用を予定していたスティール製ボディパネルの生産が間に合わなくなる可能性が高まっていたため、発売当初はマラネッロ製ストラダーレとして初めての経験となるFRP製ボディが架装されることになったという経緯がある。

 しかし、実際に308GTBの生産が軌道に乗ったのち、1977年6月以降の生産分はスティール製に置き換えられることになった。

 ちなみにスティール化された当初は、公称データの車両重量は不変とされていた。しかし実際のヴェトロレズィーナの車重は約1100kgだったのに対して、スティールボディ車両は150kgから200kgほど重くなったといわれているようだ。

 シャシについては、鋼管スペースフレームやフロント/リアともダブルウイッシュボーンのサスペンションも、実は前任車「ディーノ246GT」系と事実上共通のものを踏襲。さらにはホイールベースも同じ2340mmとされるなど、コンベンショナルなクルマ造りを常套としていたフェラーリらしい実績のあるものが、一連の308GTB/GTSシリーズ全モデルに採用されていたことになる。

 一方、リアミドシップに横置きされるパワーユニットは、フェラーリとしては1960年代前半に活躍したレーシングスポーツ「248SP」や、F1マシン「158F1」以来の搭載となるバンクあたりDOHCヘッドを持つ90度V8エンジンで、1973年に先行デビューしていた「ディーノ308GT4」と共用のものを、同じく横置きされた5速マニュアルのトランスミッションと組みあわせた。

 このエンジンの総排気量は2926ccとされ、4基のツインチョーク・ウェーバーキャブレターが装着された初期の本国仕様では255psのパワーを発揮。その結果、250km/h級の最高速度を達成する、ミドル級ながら侮れないスーパーカーとなっていたのだ。

 現在の国際クラシックカー・マーケットにおいて、フェラーリ308GTB/GTSとその発展モデルたちが「真正クラシック・フェラーリ」入門篇として高い人気を得ていることは、もはや誰もが知る事実である。

 そして、同じ308GTBシリーズのなかでもスティールボディ+インジェクションの「308GTBi」のマーケット相場価格は比較的安価で、スティールボディ+キャブレター仕様の「308GTB」と、気筒当たり4バルブヘッドを与えられた最終型「308GTBクワトロヴァルヴォレ」がそれに次ぐ相場感となる。

 それに対して「ヴェトロレズィーナ」は、多くの場合でもっとも高価な308GTBと見なされているのだが、今回のオークションでは果たしてどんな評価が下されるのだろうか。検証してみることにしよう。

■もっとも価値が高いとされるノンレストア車の落札価格は?

 このほどRMサザビーズ「OPEN ROAD FEBRUALY」オークションにスイスから出品されたフェラーリ308GTBヴェトロレズィーナは、シャーシナンバー「#19135」である。

 デビューから間もない1976年にマラネッロのフェラーリ本社工場をラインオフしたのち、スイス・ローザンヌ在住の初代オーナーに新車としてデリバリーされた。

●1976 フェラーリ「308 GTB ヴェトロレズィーナ」

一度もフルレストアを受けていない「プリザーブド」である点も高値の理由となったフェラーリ「308GTB」(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

 ボディはいわゆる「ロッソ・コルサ」。フェラーリの赤に、ブラック本革レザーの組み合わせだが、驚くべきことに現在に至るまで全塗装や内装の張り替えはおこなわれていないとのことである。

 一方、新車時からか後世の追加かは明かされていないながらも、純正オプションとして指定されていたフロントの大型エアダムスカートが取り付けられているのは、外観における大きな特徴といえよう。

 唯一目立つ社外アフターパーツは、オリジナルの純正オプションでは旧式なカセットステレオとなるはずのオーディオが、近代的な高級ハイファイシステム「マッキントッシュMX406」ヘッドユニットに換えられていることだろう。ただし、マッキントッシュの特徴としてクラシカルなデザインであることから、1970年代的な雰囲気が大きく損なわれることもあるまい。

 この308GTBヴェトロレズィーナは、2006年に現在のオーナーにしてこのオークション委託者でもあるスイスの愛好家によって購入され、今なおスイスで過ごしている。

 オークションの公式WEBカタログを作成する段階で、走行距離は約5万2600km。45年間ノンレストアでオリジナル性を保ってはいるものの、写真を見る限りで正直な感想をいえばインテリア、とくにシートのレザー表皮には明らかな経年劣化や使用感も垣間見られる

 現オーナーは、2011年に新品のANSA社製フェラーリ純正指定のエキゾーストシステムに換装。また2006年に入手して以降の、すべてのメンテナンスを記録したドキュメントとサービスマニュアルも、今回の販売に際して添付されるという。

 フェラーリ308GTBのうち「ヴェトロレズィーナ」ボディの車両は、わずか712台(ほかに719台説など諸説あり)とレアであること。また、キャブレター仕様のエンジン+軽量なFRPボディを持つことから、一連の308GTBのなかでももっともピュアと目されている。

 それだけに、クラシックカー市場がピークを迎えた2010年代中盤には、2000万円を大きく超える取り引きが常態化していたのだが、近年では1500万円前後で落ち着いているようだ。

 そんな市況のもと、今回RMサザビーズ欧州本社は12万−14万ユーロという、なかなか強気ともとれるエスティメート(推定落札価格)を提示した。

 決して「ミント(新車同様)」とはいえない個体にそれだけの価格設定がおこなわれた理由は、生産から45年間、一度もフルレストアを受けていない「プリザーブド」であることにほかなるまい。

 そして、オンライン限定の競売では、締め切り前約3時間の段階で9万6000ユーロまで上昇したのち、締め切り時の最高額は12万ユーロであった。オークションハウス側に支払われるコミッションも合わせた、最終的な落札価格は13万2000ユーロ、つまり邦貨換算約1700万円となった。

 真正クラシックなフェラーリは、たとえかつての「ピッコロ(小型版)」であっても、然るべき来歴とコンディションの個体であれば、然るべき評価を受けることを、このフェラーリ308GTB「ヴェトロレズィーナ」がいまいちど証明したのである。

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