近年、欧州車から始まったエンジンのダウンサイジングは各メーカーに浸透するなか、ボディサイズは大型化する傾向にあります。一方で、かつてボディサイズの小型化をおこない、好意的に受け入れられたクルマも存在。そこで、ボディサイズの小型化が功を奏したモデルを、3車種ピックアップして紹介します。
■時代の流れに反してサイズダウンしたクルマを振り返る
2000年の始めに欧州車から始まったエンジンのダウンサイジングターボ化は、国産各メーカーでも広がりをみせています。その一方でボディサイズは大型化する傾向にあり、とくにグローバルで展開されているモデルは顕著です。
ボディサイズの拡大は居住性や衝突安全性、走行安定性の向上が期待できますが、車重の増加や日本のような道路環境では使い勝手の悪化が懸念されます。
しかし、かつてボディサイズの小型化をおこない、好意的に受け入れられたクルマも存在。そこで、ボディサイズの小型化が功を奏したモデルを、3車種ピックアップして紹介します。
●ホンダ6代目「アコード」
ホンダは1972年に登場した初代「シビック」のヒットを受け、さらに上位車種として1976年に初代「アコード」を発売。
発売当初は3ドアハッチバックのモデルとしてデビューでしたが、後に4ドアセダンが設定されるとアコード=セダンのイメージが定着しました。
1981年に登場した2代目からは、国産メーカーでは初となるアメリカでの現地生産を開始し、北米市場におけるホンダの主力車種となり、いまも好調なセールスを記録しています。
こうして長い歴史を刻むアコードで、大きな転機を迎えたのが1993年に発売された5代目です。
アメリカの安全基準に対応するためにボディが大型化され、日本ではシリーズ初の3ナンバー専用車となりました。
ボディサイズは全長4675mm×全幅1760mm×全高1410mmと、先代から全幅が65mm拡幅されましたが、スタイリッシュなフォルムから国内市場でも概ね好評でした。
しかし、1997年に登場した6代目では「世界共通フレキシブル・プラットフォーム」という新たな技術手法が取り入れられ、仕向地別にそれぞれのコンセプトを確立し、地域によってボディサイズやデザインなど最適化が可能になりました。
その結果日本仕様のアコードは、よりスポーティなイメージを高めるためと日本の道路環境に合わせる目的で、全長4635mm×全幅1695mm×全高1420mm(SiR-T)とサイズダウンし、再び5ナンバーサイズへ回帰。
トップグレードの「SiR-T」には200馬力を誇る2リッター直列4気筒DOHC VTECエンジンを搭載し、取りまわしがよく軽快でキビキビ走るスポーティさを取り戻しました。
さらに2000年にはより高性能なモデル「ユーロR」が登場。220馬力を発揮する2.2リッターエンジンを搭載し、実用性が高いスポーツセダンとして高い人気を獲得します。
ところが、2002年に発売された7代目では再び大型化し、その後もボディサイズは拡大を続けました。
●日産「S15型 シルビア」
1965年に誕生した日産初代「シルビア」は、国産スペシャリティカーの先駆け的存在です。しかし、多くの製造工程が手作業だったこともあり、あまりにも高額なモデルだったことから生産台数はわずかでした。
その後、1975年に登場した2代目からは量産モデルとなり、スポーティなクーペとして若者を中心に人気を獲得し、1988年に発売された5代目(S13型)では大ヒットを記録。
ボディは手頃な5ナンバーサイズでハイパワーなターボエンジンを搭載したFR車として、スポーツドライブ好きだけでなく、デートカーとしても好評を博します。
このヒットした5代目の後継である6代目(S14型)では、時代の流れとグローバルでの競争力強化もあって、ボディサイズを全長4520mm×全幅1730mm×全高1295mmまで拡大して全車3ナンバーとなりました。
しかし大型化されたボディにより、S13型の魅力であった軽快感が失われたと不評だったため、1999年に発売された7代目シルビア(S15型)は、全長4445mm×全幅1695mm×全高1285mmと全長、全幅共にサイズダウンし、再び5ナンバーサイズに戻されました。
車両重量も1270kgから1250kgに軽量化され、エンジンは6代目から受け継いだ2リッター直列4気筒ターボ「SR20DET型」のままでしたが、最高出力220馬力から250馬力と高出力化。新たに採用された6速MTと相まって、走りのポテンシャルもアップしました。
しかし、S15型は排出ガス規制強化に対応が見送られて2002年に生産を終了。わずか3年7か月と短命なモデルでした。
■まさに原点回帰に成功した日本を代表する2シーターオープンスポーツ
●マツダ「ND型 ロードスター」
1989年に発売されたユーノス「ロードスター」は、オープン2シータースポーツの世界的な人気を再燃させるという偉大な足跡を残しました。
決してパワフルとはいえない1.6リッター直列4気筒エンジンを搭載しながらも、軽量なボディとシャープなハンドリングでドライビングプレジャーあふれるクルマとして国内外で大ヒットを記録。
その後排気量を拡大するなど、よりパワフルさを求めるニーズに対応し、2005年に登場した3代目では、170馬力を誇る2リッター直列4気筒エンジンを搭載。同時にこの出力を受け止めつつ高いコーナーリング性能を発揮するためシャシが一新され、ボディサイズは全長4020mm×全幅1720mm×全高1255mmまで拡大されました。
しかし、マツダはロードスターの原点に立ち返るとし、4代目ではエンジンが132馬力を発揮する1.5リッター直列4気筒にダウンサイジング。ボディサイズも全長3915mm×全幅1735mm×全高1235mmとワイド化しつつも全長を3代目よりも105mm短くしました。
また、各部にアルミや超高張力鋼板を効率的に使い分けることで、3代目よりも100kgほど軽量化し、「S」グレードで990kgと1トン未満を実現。
また、伝統となっている前後重量配分50:50を継承し、高い旋回性能と走行安定性を両立するなど、初代ロードスターに近い軽快なドライブフィールを持つFRスポーツカーへと生まれ変わりました。
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現在、世界中のメーカーが電動化に注力していますが、現時点ではまだ内燃機関が動力の主役となっています。
なかでもガソリンエンジンは前述のとおりダウンサイジング化の勢いは止まっておらず、たとえばメルセデス・ベンツ「Eクラス」では1.5リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載しており、ひと昔前では考えられないほど小型化しました。
また、BMWも「1シリーズ」に3気筒エンジンを搭載していますが、かつてBMWのエンジンといえば直列6気筒が代名詞で、3気筒エンジンを搭載するなど想像すらできませんでした。
昔ながらの多気筒かつ大排気量自然吸気エンジンは淘汰されつつあるのは残念ですが、そもそも近い将来には内燃機関が主役ではなくなることを考えると、仕方がないことなのかもしれません。