近年、世界的に1980年代から1990年代の、いわゆるネオクラシックカーの人気が高く、中古車の価格が異常な高騰となっています。しかし、そうした旧車を維持するのは一筋縄ではいかない面もあるといいます。そこで、旧車ユーザーのリアルな声を聞いてみました。
■旧車ブームだけど実際はかなり大変?
数年前から世界的に1980年代から1990年代のクルマの人気が高くなっており、そうしたクルマは「ネオクラシックカー」や「ヤングタイマー」「旧車」などと呼ばれています。
しかし、そうした旧車を維持するのはかなりの覚悟が必要で、うかつに手を出すとかなり大変なことになると想像できます。
そこで、1989年式の三菱「スタリオン GSR-VR」を所有するKさんのリアルな声を聞いてみました。
――スタリオンを手に入れた経緯を教えてください
私のスタリオンは、もともと叔父が新車で買ったものを15年ほど前に譲り受けました。叔父はかなりのクルマ好きで、とくにスタリオンが好きだったことから2台乗り継いていました。
叔父はそのほかにもクルマを持っていましたが、引っ越しの際にスタリオンを手放すことになって「買うか」と声をかけてもらい、私も好きなクルマだったので譲り受けました。
ちゃんと整備されていて程度が良かったのですが当時はまだ旧車人気が高くなく、今の相場の3分の1以下で買うことができ、かなり安かったと思います。
――維持するうえで大変なことは何でしょう
まず旧車全般にいえますが、純正部品がありません。走るために最低限必要な消耗品は問題ありませんが、内外装や電装品、樹脂パーツはまず出てきません。
ただ、10年ほど前にマフラーに穴が空いてワンオフで作ることを覚悟しましたが、ディーラーの方に探してもらったら1か月後に奇跡的に純正マフラーが見つかりました。でも本当にイレギュラーなことです。
電装品もいくつかトラブルが出て、ヘッドライトやワイパーのスイッチの接点が摩耗して作動しなくなったり、4年前にはオルタネーターがダメになって発電しなくなり、リビルト品に交換しました。
最大の試練だったのが8年前にエンジンがかからなくなったことで、最初は出先だったのでJAFに助けてもらいました。そのまま近くにディーラーに運んでもらったのですが、エンジンがかかって、結局トラブルが再現しなかったのでそのまま乗って帰りました。
でも、数日後にまたかからなくなって、放置していたら気まぐれにかかるのという状況でした。
――今は完治したのですか
その後、いつも整備してもらっていた修理工場でも原因がわからなく、相変わらず気まぐれで始動不良が起きていたのですが、旧車仲間に紹介してもらったショップで点火系のイグナイターという部品が怪しいというのがわかり、パーツを探してもらったのですが日本には無く、アメリカからリビルト品を取り寄せて交換したら治りました。
スタリオンは日本ではマイナーなクルマですが、欧米では比較的人気だったため、探すとパーツが出てくるケースもあります。
旧車仲間が初代「フェアレディZ」を持っていますが、アメリカにパーツがたくさんあって取り寄せることもあると。メジャーな旧車で輸出の実績が多いと、海外にパーツがある確率が高いです。
ただ、国内仕様と互換性が無いこともあるので、パーツが使えるのか調べるのが先決ですね。
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現在、Kさんのスタリオンは快調なようですが、普段使いではなく、休みの日に月に1、2回乗る程度だそうです。
電装品のトラブルは原因特定が難しく、旧車ユーザーでは「あるある」のようですが、ほかのもECUやメーターなど1980年代のクルマから電子制御化が進んだことで、コンデンサーの液漏れなどによるトラブルは避けられないとのことです。
では、ほかに旧車の維持で注意すべき点があるか聞いてみました。
■メーカーによる旧車サポートはありがたいけど……
旧車ユーザーの間ではボディのサビなどは板金で修理ができるので、事故などでボディパネルの交換が必要ではなければあまり心配していないとのことです。
また、エンジンもノーマルならばあまり問題なく、メジャーなモデルならばリビルトエンジンが入手可能であったり、オーバーホールもできるので、ちゃんとオイル交換などのメンテナンスをしていればそれほど心配はいらないといえます。
しかし、どうにもならない部品もあるようです。引き続きKさんに話をうかがいました。
――ほかにも旧車ライフでの苦労はありますか
電装品やエンジン部品は流用であったり社外品でもなんとかなるのですが、樹脂パーツだけはどうにも困ってしまいます。
ドアのウエザーストリップなどのゴム部品や、内装、バンパーなどですが、とくに内装は割れちゃうんです。
紫外線で硬化してしまい、取り外そうとするだけで割れたり、ダッシュボードなどは自然と割れることもあります。
スタリオンのようにマイナーなモデルでは社外品もほとんどなく、中古パーツで手に入れても程度が良いものはほとんどありません。
そのため、今は屋根付きのガレージですが全面に壁が無いので、ボディカバーで日光や雨風を防いでいます。ボディカバーは塗装に傷がつくデメリットがありますが、樹脂パーツの劣化は間違いなく遅らせられますから。
――最近はメーカーによる部品再販も活発におこなわれていますが、どう思いますか
正直うらやましいです。たとえばスカイラインGT-Rなんて、超メジャーな旧車ですからパーツが再販されて維持も楽になるでしょう。だけどスタリオンのパーツは、100%再販はありえませんね(笑)。
でも、再販されたスカイラインGT-Rのフロントバンパーが10万円から15万円の値段ですから、塗装も含めたら20万円近いですよね。私にはとてもじゃないけど買えません。塗装やパテで修理できるならそっちを選びます。
ただ、冷却系や吸気系、足まわりのブッシュなどの樹脂パーツがあるのは、本当にうらやましいです。
こうした流れはもっと拡大してほしいですね。
――未来の旧車ユーザーへのアドバイスはありますか
まず、ブレーキにはお金をかけた方が良いです。最新のモデルと同じ速度で走っていても、旧車のブレーキは弱いので同じ距離じゃ停まれませんから。
あとはタイヤのグリップ力が高すぎると、駆動系にダメージが及ぶ可能性があります。新車当時のタイヤと現代のタイヤでは性能が全然違いますから駆動系に負担がかかって、私のスタリオンもハイグリップタイヤを装着したら駆動系から異音が出るようになってしまいました。
結局ハイグリップタイヤは売って、マイルドなタイヤに買い替えたくらいです。サーキット走行などをするのではなければ、自分の使用用途に適した高性能すぎないタイヤをおすすめします。
あとは、自分でDIYできる知識はあった方がいいと思います。また、DIYの知識があっても信頼できるショップや修理工場があるのは絶対です。
私は加入していませんが、オーナーズクラブに入るのも旧車の維持には大きな味方だと思います。仲間が多ければパーツやトラブルシューティングの情報だったり、手持ちのパーツを融通してくれることもありますから。あと、それなりの人数が集まると部品の製作も可能です。
――最後に、旧車の魅力とは何でしょう
旧車は今のクルマが失ってしまったアナログな部分が最大の魅力だと思います。実はもっと古いキャブ車にも乗ってみたいと思っているのですが、もはや今の相場では買えません。
あとは旧車のデザインも好きです。とくにスタリオンのようなデザインは他にはありませんから。
苦労も多いですが、私にとって旧車はやっぱり魅力的です。旧車の維持にはまずは情熱で、あとは出先でエンジンがからなくても平常心でいられることですね(笑)。
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旧車の価格が高騰していますが、言い換えればビジネスとして成り立っているということです。メーカーによる部品の再販もビジネスですから。
旧車専門のショップや修理工場も潤えば、旧車を維持する環境はもっと良くなっていくのではないでしょうか。
あとは、国が旧車を自動車文化のひとつとして見て、税金が安くなればいうことは無いのですが。