アメリカマツダから「CX-3」と「マツダ6」の2022年モデルを販売しないというプレスリリースが出されました。突如としてアナウンスされた販売終了ですが、主力車種をラインナップから外す背景には、どんな事情があるのでしょうか。
■なぜCX-3とマツダ6の2022年モデルは販売されないのか
2021年5月21日(現地時間)、アメリカマツダから「CX-3」と「マツダ6」の次期モデル(2022年モデル)を販売しないというプレスリリースが出されました。
主力車種をラインナップから外す背景には、どんな事情があるのでしょうか。
アメリカマツダより「CX-3とマツダ6について」というタイトルのプレスリリースが発表されました。
そのプレスリリースには、現行モデル(2021年モデル)をもって「CX-3」および「マツダ6」の販売を終了するという内容が、簡潔に述べられていました。
いうまでもなく、両車はマツダの屋台骨を支える基幹車種のひとつです。
また、アメリカマツダの販売自体も好調で、2020年度は新型コロナウイルスの影響を直撃したにもかかわらず、アメリカでは前年比7%増となる29万5000台を販売。
さらに、カナダやメキシコを含んだ北米全体でも前年比2%増となる40万3000台の新車販売を記録しています。
北米市場全体で需要が落ち込んでいるなか、前年比増を記録したのは快挙といえるでしょう。
北米市場での好調をけん引しているのは、「CX-30」や「CX-5」、「CX-9」といったSUV勢です。
発売からある程度の年月が経過しているCX-3やマツダ6は、たしかに目新しさが薄れているタイミングではありますが、ラインナップから落とさざるを得ないほど不調というわけでもないようです。
アメリカマツダから発表されたリリースには、CX-3とマツダ6が販売終了する理由について詳しく述べられてはいません。
しかし、「消費者の関心が進化するなかで、CX-3とマツダ6の販売を継続しないことを決定しました」という表現で説明されている限りです。同時にカナダでもマツダ6の販売終了がアナウンスされています。
では、消費者の関心はどのように「進化」したのでしょうか。単にSUVが近年のトレンドという意味であれば、「進化」という表現にはやや違和感を覚えます。また、SUVであるCX-3が販売終了となる説明にはなりません。
筆者(瓜生)の見解では、近年世界的に過熱している「脱炭素社会の実現」に関連していると考えます。
「カーボン・ニュートラル」や「電動化」などと同じ文脈で用いられるこの表現は、端的にいえば、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの排出量を可能な限り削減することで、地球温暖化を防ごうという動きを指します。
その理念自体は支持されるべきものですが、個々数年で政治や経済を巻き込み、急速な過熱展開を見せています。
実態を無視した性急な議論に、懸念を覚える声も少なくないのが現状です。
アメリカや中国、欧州、そして日本といった先進国たちが、政府主導で2030年から2050年頃を目処にした脱炭素化政策を打ち出しており、自動車メーカー各社は対応を迫られています。
アメリカをはじめとした各国で採用されているのが「CAFE(企業間平均燃費)」という考え方です。
CAFE規制では、そのメーカーが新車販売したクルマの総数と、各モデルの有害物質排出量(≒燃費)から算出された数値が基準値以下であるかどうかで判断します。
一律の燃費規制では、画一的なクルマづくりしかできなくなってしまいますが「CAFE」の考え方を用いると、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)といった、有害物質排出量の少ないクルマや、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)のように有害物質を排出しないクルマを一定量販売していれば、例えばスポーツカーのような、必ずしも燃費を優先していないクルマも販売できることになります。
■いまの北米マツダはガソリン車のみ? 今秋にはEV投入も…
しかし、北米マツダでは2021年5月時点ではガソリン車以外をラインナップしていません。
2019年にCX-5のディーゼル車を追加設定しましたが、2021年1月に販売終了を明らかにしています。
また、2021年秋にEVとなる「MX-30」の発売を予定していますが、EVという特性上、また、販売地域が限られていることもあり、爆発的な販売台数を記録すること難しいといえます。
もし「CAFE」の値が一定値を下回ってしまうと、巨額の罰金が課されることになり、マツダにとっては収益に大きく影響を与えることとなります。
今回のCX-3やマツダ6の販売終了は、そうした燃費規制の影響を受けたものと考えるのが妥当です。なお、アメリカに先立って、欧州では2021年1月にマツダ6のディーゼル車が販売終了となっています。
今回、アメリカでの両車を販売終了させることでひとまずの対応をするものと考えられますが、「CAFE」による規制は世界各国で導入が進んでおり、各国で異なる対応が求められることになるでしょう。
なお、マツダの関係者によれば「各地の環境規制に対応するためラインナップの見直しがおこなわれている」と話しています。
そのため、全世界的にCX-3とマツダ6が販売終了となることはないようです。
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クルマの歴史は規制対応の歴史ということもできます。年々厳格化される規制に対し、一時的な対応で時間稼ぎをしつつ、その間に根本的な対応策を講じるというのが、多くの自動車メーカーが歩んできた道です。
マツダによる今回のラインナップの整理は、あくまで燃費規制に対する一時的な対応と考えられます。
果たして、マツダはその先のきたるべき時代にどんな将来を描いているのか、注目したいと思います。