現地時間の2021年6月2日にアメリカトヨタは、2022年モデルを一気に6モデル発表しました。そのなかには日本で売っていないモデルも含まれています。そこで、アメリカトヨタで販売された面白いクルマを、5車種ピックアップして紹介します。
■日本では販売されなかった米国トヨタのユニークなクルマを振り返る
トヨタの米国法人は現地時間の2021年6月2日に、2022年モデルを発表しました。
今秋に日本でも発売予定の新型「86」や「スープラ」の特別仕様車、ピックアップトラックの「タコマ」に2種類の特別仕様車、さらに「カローラ」シリーズのSUV「カローラクロス」と新型電動SUVの「bZ4X」と、実に6モデルが一気に登場。
新型コロナ禍のなかでも好調なセールスを記録しているトヨタならではの、攻めの姿勢の現れではないでしょうか。
トヨタは1950年代の終わりからアメリカ進出を果たし、当初は日本からの輸出から始まりましたが、今では現地生産が主流で、数多くの北米専用車を販売しています。
そうした北米専用車のなかにはユニークなモデルも存在。そこで、アメリカトヨタで販売された面白いクルマを、5車種ピックアップして紹介します。
●トヨタ「マトリックス」
1980年代に大きな社会問題としてクローズアップされたのが、日米貿易摩擦です。その原因のひとつが自動車で、アメリカの労働者が抗議する意味で日本車を破壊するニュース映像を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
その後、この日米貿易摩擦解消の一貫として日本企業とアメリカ企業の合弁事業が数多く設立され、そのひとつとしてトヨタはGMと協業を開始し、両社はいくつかの車種を共同開発。
そうして誕生したモデルの1台が、2002年(2003年モデルとして)に発売されたショートワゴンタイプのコンパクトカー、トヨタ「マトリックス」です。
車格的にはカローラクラスで、比較的好調なセールスを記録したことから2008年には2代目が登場。ボディは引き続きショートワゴンですがデザインはスポーティかつスタイリッシュなフォルムに一新。
トップグレードには158馬力を発揮する2.4リッター直列4気筒エンジンを搭載し、トランスミッションは5速ATが組み合わされました。
このマトリックスで注目したいのは初代で、姉妹車としてGMが販売したポンティアック「ヴァイブ」があり、デザインはマトリックスと大きく異なるクロスオーバーSUVに仕立てられています。
そして、ヴァイブは日本にも右ハンドル化して輸出され、それが2002年に発売されたトヨタ「ヴォルツ」です。
素直にマトリックスを日本に入れても良かったはずですが、おそらく政治的なやり取りがあったようで、ヴァイブ=ヴォルツが日本で販売されることになりました。
しかし、ヴォルツの販売は低迷し、発売からわずか1年8か月で輸入が打ち切られてしまい、いまではレアなモデルです。
●トヨタ「エコー」
1999年にトヨタは次世代のコンパクトカーとして初代「ヴィッツ」を発売。優れたパッケージングと走り、経済性から日本のみならず欧州でも大ヒットしました。
また、ヴィッツに少し遅れてデビューしたのがトールワゴンの「ファンカーゴ」と、4ドアセダンの「プラッツ」で、両車ともヴィッツと主要なコンポ―ネンツを共有して開発されたモデルです。
このプラッツはアメリカでも「エコー」という名で販売され、日本仕様と同じ4ドアセダンだけでなく2ドアセダンも設定されました。
アメリカでは、主に働く女性が通勤などで使うクルマと定義される「セクレタリーカー」の需要が高く、ホンダ「バラードスポーツ CR-X」や、日産「NXクーペ」など、コンパクトな2ドア(3ドア)のニーズがあったため、エコーにも2ドアセダンがラインナップされたということです。
2ドアのエコーの外観はヴィッツの3ドアハッチバックに短いトランクを付けたような印象で、全体のバランス的にはかなり無理矢理感がありました。
その後、エコーは日本のプラッツと同様に、2005年に販売を終了。実質的な後継車は日本でも販売された「ベルタ」で、さらに後述する「ヤリス」へと受け継がれました。
●トヨタ「ヤリス」
前出のヴィッツは海外ではヤリスとして販売され、2020年には日本でもヤリスとなったのは記憶に新しいところでしょう。
このヤリスは仕向地によって同じ車名ながら異なるモデルとして販売されており、なかでもユニークだったのが北米仕様のヤリスで、マツダ「マツダ2」のOEM車となっていました。
もともと北米版ヤリスはヴィッツと同型で発売されましたが、2015年に日本で販売していなかったマツダ「デミオセダン」ベースの4ドアセダンにスイッチ。
その後、国内のマツダ2と同様の5ドアハッチバックの「ヤリス ハッチバック」もラインナップされました。
外観はマツダ2のシルエットと共通ですが、フロントフェイスにトヨタのデザインテーマである「キーンルック」を採用した、大きな開口部のフロントグリルが特徴的です。
エンジンは全グレード共通で最高出力106馬力の1.5リッター直列4気筒ガソリンを搭載。トランスミッションはセダンには6速MTが設定されましたが、ハッチバックは全グレードとも6速ATのみとなっており、ハッチバックはセクレタリーカーとしての需要を考慮していたと思われます。
しかし、販売が低迷したことから2020年に生産を終了し、後継車はありませんでした。
■サイオンブランド独自のFFスポーツカーとランクル超えの巨大SUVとは
●サイオン「tC」
トヨタは北米市場においてトヨタブランドと高級車のレクサスブランドに加え、2003年に若者をターゲットとしたブランドのサイオンを設立しました。
サイオンのラインナップは日本の「bB」をベースとした「xB」や、「86」ベースの「FR-S」、マイクロカーの「iQ」など、まさに若者受けする車種を中心に展開。
さらに、完全にサイオンブランド専用モデルとして開発されたのが、3ドアハッチバッククーペの「tC」です。
初代tCは2004年に発売。ボディサイズは全長4420mm×全幅1755mm×全高1415mmとコンパクトながら、2.4リッター直列4気筒エンジンを搭載するFF車です。
外観はショートデッキのリアまわりが特徴的で、FR-S(86)よりもカジュアル向けのコンセプトでした。
2010年には2代目tCが登場。基本的なフォルムやサイズ感は初代からのキープコンセプトで、フロントフェイスはシャープなデザインに変貌。
搭載されたエンジンは180馬力を発揮する2.5リッター直列4気筒のみで、トランスミッションは6速ATと6速MTが設定されました。
2014年にはフロントフェイスにキーンルックを取り入れ、「マークX」にも似た精悍なイメージに一新するビッグマイナーチェンジがおこなわれ、同時にサスペンションやトランスミッションもスポーティな味付けにチューニングされるなどFFスポーツカーとして走りの質を向上。
しかし、2016年にサイオンブランドの廃止とともに、86に統合されるかたちで生産を終了しました。
●トヨタ「セコイア」
北米におけるトヨタ車で好調なセールスを記録しているのが「RAV4」と「カムリ」、さらにピックアップトラックがあります。
なかでもフルサイズピックアップトラックの「タンドラ」は高い人気を誇っていて、このタンドラのラダーフレームをベースに、ステーションワゴンタイプのボディを架装して開発されたSUVが「セコイア」です。
セコイアは北米のみで販売されるフルサイズSUVで、初代が2000年に登場し、現行モデルは2007年に発売された2代目で、すでに発売から13年を経過したロングセラーといえます。
ボディサイズは全長5210mm×全幅2029mm×全高1956mmとトヨタ製SUVのなかでも最大で、現行モデルの「ランドクルーザー200」よりもひと回り大きく、室内は3列シートの7人もしくは8人乗りです。
エンジンはレクサス「LX570」にも搭載される5.7リッターV型8気筒で、最高出力は381馬力(米規格)を誇り、組み合わされるトランスミッションは6速ATのみ。
駆動方式はFRの2WDとフルタイム4WDを設定し、4WDはセンターデフにロック機構を搭載しており本格的な悪路走破性を発揮する一方、足まわりには4輪ダブルウイッシュボーンを採用することで、優れた乗り心地を実現しています。
セコイアは日本にも少量が並行輸入されており、新車、中古車ともに購入は可能ですが、さすがにこの巨体ですから、日本の道路状況ではかなり手強いのではないでしょうか。
※ ※ ※
トヨタは1957年にアメリカ法人を設立して、1958年に「トヨペットクラウン」から本格的な輸出が始まりました。さらに1960年には「コロナ」をベースにした北米仕様の「ティアラ」を発売。
しかし、クラウン、ティアラともに動力性能は低く、品質にも問題を抱え、すぐに輸出が停止されてしまいました。この窮地を救ったのが、クロスカントリー4WD車の「40系 ランドクルーザー」です。
優れた悪路走破性と耐久性、信頼性から40系 ランドクルーザーはアメリカで好調なセールスを記録し、トヨタは販路を拡大。
その後、改めて本格的な北米進出を果たすことになり、40系 ランドクルーザーは現在の北米におけるトヨタの成功の礎になったということです。