かつて欧州仕様といえばパワフルで、並行輸入でも手に入れたいものだったが、現在ではそうともいえないようだ。マイナーチェンジを受けた新型「ミニ」は、日本仕様の方がパワフルで、しかもディーゼルエンジンを選べるようになっているという。その理由を探る。
■欧州よりもグレードが豊富な日本仕様のミニ
その昔、輸入車の世界で欧州仕様といえばグレードが豊富で、排出ガス規制がゆるくてパワフルで、とにかくもてはやされたものだったが、時代は変わった。現代の「ミニ」は、実は欧州より日本の方が選択肢は多く、しかもパワフルだったりするのだ。
2021年5月25日、3ドア、5ドア、コンバーチブルという3種類の新しいミニの日本仕様がお披露目された。ところが日本におけるモデルラインナップは、4か月ほど前のワールド・ワイドでの発表の時より増えている。さらにカタログを見ると、一部モデルは欧州仕様より最高出力が上回っている。いったい何が起こったのだろう。
まず、2021年1月の時点でのワールドワイドでの発表時のラインナップは以下の様なものだった。
●ドイツ国内市場向けラインナップ
■ミニ3ドア&5ドア
1.5リッター3気筒ガソリン75ps「ワン・ファースト」
1.5リッター3気筒ガソリン102ps「ワン」
1.5リッター3気筒ガソリン136ps「クーパー」
2リッター4気筒ガソリン178ps「クーパーS」
■ミニ3ドアのみ
1モーター184ps「クーパーSE」
2リッター4気筒ガソリン231ps「ジョン・クーパー・ワークス」
■ミニ・コンバーチブル
1.5リッター3気筒ガソリン102ps「ワン」
1.5リッター3気筒ガソリン136ps「クーパー」
2リッター4気筒ガソリン178ps「クーパーS」
2リッター4気筒ガソリン231ps「ジョン・クーパー・ワークス」
基本的に上記はドイツ国内市場向けのラインナップである。ワン・ファーストは導入初期のみのモデルで、すでに現在は選択ができないようなので省き、さらに3ドアと5ドアを分けると、全部で12種類ということになる。
では、2021年5月の日本でのお披露目の際の、ラインナップはどうだったのか。
●日本国内市場向けラインナップ
■ミニ3ドア&5ドア
1.5リッター3気筒ガソリン102ps「ワン」
1.5リッター3気筒ガソリン136ps「クーパー」
1.5リッター3気筒ディーゼル116ps「クーパーD」
2リッター4気筒ガソリン192ps「クーパーS」
■ミニ3ドアのみ
2リッター4気筒ガソリン231ps「ジョン・クーパー・ワークス」
■ミニ5ドアのみ
2リッター4気筒ディーゼル170ps「クーパーSD」
■ミニ・コンバーチブル
1.5リッター3気筒ガソリン136ps「クーパー」
2リッター4気筒ガソリン192ps「クーパーS」
2リッター4気筒ガソリン231ps「ジョン・クーパー・ワークス」
3ドアと5ドアを分けると全部で13種類。1種類だけとはいえ、日本の方が選択肢が多いことになる。
その最大の理由は、生産国であるイギリスやドイツをはじめとする欧州各国において、ディーゼルエンジンが選べないからだ。実は2021年1月の発表時も、ほとんどディーゼルについては触れられていなかった。フォルクスワーゲンのディーゼル ゲート事件以降、イメージが急落したことと、新しい排出ガス規制への対応はコストがかさむため、欧州での販売は中止としたようだ。
■パワーにこだわるなら日本仕様がオススメ
●隠れた人気者のディーゼル
しかしここ日本では、国内の排出ガス規制に適応している116ps仕様のクーパーD(3ドア&5ドア)と、170ps仕様のクーパーSD(5ドア)を選ぶことができる。
輸入元によれば、これまでの日本におけるミニのディーゼルの販売比率は、3ドアで30%、5ドアで40%を占めているという。いわば、隠れた人気者なのである。
移動距離や、モデル・ライフなど条件にもよるけれど、一概にディーゼル=悪者とはいえない。ようは適材適所。むしろ日本は賢いミニ乗りが多い、といえるのではないだろうか。
●日本仕様の方がパワフル
もうひとつ注目すべきは、3ドア、5ドア、コンバーチブルのすべてで選択できるガソリンエンジンのクーパーSについて。実は最高出力が192psと、欧州仕様の178psより14psも上回っているのだ。第4世代MkIIの時点では日欧ともに192psだったのだが、欧州仕様はパワーが引き下げられてしまったのである。
輸入元によればこの違いも、ディーゼルエンジン同様、日欧の排出ガス規制の差によるものだとか。かつては欧州仕様といえばパワフルな本場モノ、というイメージだったが、現在では逆転現象が起きている。
●現行モデルのEVモデルは導入されない
何かとメリットの多い日本仕様だが、その一方で3ドアに設定のあるEVのクーパーSEが購入できないことを非常に残念に思っている人は多いのではないだろうか。輸入元に尋ねると、今の世代のクーパーSEの導入予定はない、とはっきりとした答えが返ってきた。最大の理由は給電方法で、クーパーSEは急速充電と普通充電をひとつの給電口で行う欧州のコンボ方式を採っているからである。
BMW「i3」を導入した際は、ボディ側面の給電口を日本のチャデモ方式の急速充電口とし、フロントフード内部に200Vの普通充電口を追加するなど大幅な変更を加えて対応したのだが、そこまでの仕様変更はクーパーSEではできないとのこと。つまりミニのEVが欲しいなら、残念ながら2023年に生産を開始するという次世代のミニEVを待つしかない。
ミニは2030年初頭に完全な電気自動車ブランドに生まれ変わるという。2025年の新型内燃エンジン搭載モデルの導入を最後に、それ以降はピュアEVしか販売はしないとも明言している。ただし、その内燃エンジン搭載モデルがどのミニになるのかは、明らかになっていない。新たに小型のクロスオーバーが登場する、というアナウンスもあったし、あと4年くらい時間があることを考えると、もう1世代くらい、内燃エンジンを楽しむことのできるミニの3ドアや5ドア、コンバーチブルが生まれるかもしれない。
しかしその一方で、欧州自動車ブランドが電動化に突き進む様を見ていると、今回のマイナーチェンジしたミニ3ドアや5ドア、コンバーチブルが、最後の内燃エンジン搭載モデルになってもさほどおかしくはなさそうだ。
いずれにしても、内燃エンジンのミニを新車で手に入れられる期間は、もはやけっして長くはない。ミニが気になっている人は、そのことを心にとどめておいた方が良さそうである。