トヨタがアメリカや韓国などで販売している全長5m超えの「シエナ」。今回、中華人民共和国工業情報化部(通称:工信部)のサイトに届け出がされていることが判明しました。これにより、今後中国市場にシエナが投入されることが予想出来ます。では、シエナとはどのようなモデルなのでしょうか。
■トヨタ大型ミニバン「シエナ」 中国で生産・販売開始へ
アメリカやカナダ、韓国、台湾で展開するトヨタの海外専売ミニバン「シエナ」が中国でも生産・販売されることが判明しました。
シエナは今まで一貫してアメリカの工場で生産されてきたため、アメリカ以外での生産は初となります。
今回、情報が判明したのは中華人民共和国工業情報化部(通称:工信部)のサイトからです。
ちなみに工信部は、日本でいうところの経済産業省や総務省の業務を扱うおこなう機関となります。
中国では自動車メーカーが新型車を正式発表する前に、その情報を工信部に届け出る必要があり、工信部が掲載する情報を元にこれからどのようなクルマが発表されるのかが事前にわかるシステムとなっています。
届け出がなされた新車のリストは、毎月14日ごろを目処に工信部のウェブサイトにて公開されます。
中国モデルのシエナは「賽那(sai na)」という名前で、トヨタと広州汽車の合弁会社「広汽トヨタ」が生産・販売をおこないます。
以前からシエナ自体は中国に並行輸入という形で少量が輸入されており、アメリカ本国のおよそ2倍の価格で販売されていました。
シエナが2020年に4代目へとフルモデルチェンジしたこのタイミングでトヨタが正式に中国国内で生産・販売をおこなうことにより、中国でシエナを求める需要に幅広く応えていく狙いがあると考えられます。
今回、届け出がなされたのは「GTM6520SHEVM」というモデルだけですが、中国では装備やグレードの違いで別々のモデル番号が付与されます。
同時に届け出されている写真を見ると、「LE」「XLE」「PLATINUM」「LIMITED」「LIMITED PLUS」などのエンブレムが確認できるため、最初の段階ではひとつのモデルで届け出をおこなっていると考えられます。
なお、名前に「HEV」と含まれていることや、北米で販売される4代目がハイブリッド車のみのため、中国でのシエナもハイブリッド車です。
ボディサイズは全長5180mm×全幅1995mm×全高1765mm-1786mm、ホイールベース3060mmとなっていることから、基本的には既存の市場で販売されている4代目と同じとなります。
タイヤサイズは235/65R17と235/60R18のふたつが用意されており、グレードの違いでホイールのサイズが変わるようです。
また、アメリカでは8人乗りと7人乗りの両方が販売されていますが、中国で届け出がなされているモデルは7人乗りとなっています。
中国メディアでも7人乗りしか投入されないという情報があったため、7人乗りモデルのみが販売される形になるかもしれません。
エンジンは広汽トヨタ発動機が中国国内で製造する「A25D」を搭載すると記載されています。
A25Dは、広汽トヨタ発動機が製造するハイブリッド向けのA25エンジンのモデル名であるため、中国国外のシエナが搭載する「A25A-FXS」とほぼ同等のエンジンといって良いでしょう。
ちなみに、広汽トヨタが製造するガソリン向けのA25エンジンは「A25C」、一汽トヨタが製造するハイブリッド向けのA25エンジンは「A25F」というモデル名が与えられており、中国国内での命名規則は中国国外のそれと異なる形となっています。
備考欄を見てみると、バッテリー関連はパナソニックとトヨタの合弁会社「プライムアースEVエナジー(PEVE)」とその関連会社「科力美オートモーティブバッテリー有限会社」や、「新中源トヨタエナジーシステム有限会社」が生産していると記載されています。
詳細は不明ですが、その関連2社は中国の江蘇省に所在する会社であるため、バッテリー周辺の一部コンポーネンツは中国国内で生産がおこなわれていることでしょう。
■アルファード、ヴェルファイア、シエナの3車種が同時販売される中国市場とは
世界的に見るとシエナが販売されていない日本や東南アジアなどの市場では「アルファード」や「ヴェルファイア」、一方でその2モデルが販売されていない北米や韓国ではシエナが販売されています。
今後、シエナが中国で投入されれば、アルファード、ヴェルファイア、シエナの3車種が同時に販売されている唯一の市場となります(台湾はアルファードとシエナのみ)。
一見すると共食い状態になるのではないかと思われますが、そうはならないと筆者(中国車研究家 加藤ヒロト)は考えます。
もちろん中国国内でもアルファードやヴェルファイアはとても人気があり、実際にユーザーに納車されるのにも時間を要しています。
中古車であっても高い人気を誇り、5万km走った3年落ちの中古車でさえも新車価格(1300万円から1500万円)の+300万円前後で販売されているほどです。
これらはあくまで「ラグジュアリーな高級ミニバン」という立ち位置で認識されており、要人送迎車として使われているのを良く見ます。
そこに、よりソフトなミニバンであるシエナを投入することで、ファミリー向けのミニバン市場にもアピールしていく狙いなのでしょう。
ライバルは、ボディサイズの近い上汽フォルクスワーゲン「ヴィロラン」や広汽ホンダ「オデッセイ」、東風ホンダ「エリシオン」などが該当すると考えられます。
ですが、ヴィロランはガソリン車のみ、そしてオデッセイやエリシオンはハイブリッド車を用意しているものの、ボディサイズは全長、全幅、全高のどれをとってもシエナより小さいものとなっています。
シエナはそれらの点においてはライバルよりも勝っていることに加え、以前からも並行輸入がおこなわれるほどの人気があります。
これらのライバルとの行方は、現地での販売価格が中国での今後を左右すると予想されます。
そして、肝心なシエナの正式発表は、2021年11月の広州モーターショーにて発表されるとみられており、販売開始は2021年末から2022年上半期と予想されます。
なお、広汽トヨタのシエナに対して一汽トヨタからもシエナの姉妹車が出るという情報もあります。