日本でもっとも人気のあるレースシリーズが「スーパーGT」です。その注目度の高さから、国内外の自動車メーカーが参戦しています。スーパーGTはそれだけでなく、4社ものタイヤメーカーがタイヤを供給するという、世界でも希少なレースシリーズでもあるのです。なぜ各タイヤメーカーはレース活動、とりわけスーパーGTにチカラを入れているのでしょうか。
■タイヤメーカー4社が参戦するのは世界のレースでも珍しい
日本でもっとも人気が高いレースシリーズである「スーパーGT」。
国内外のさまざまな自動車メーカーが参戦していますが、それとともに合計で4つのタイヤメーカーがレース用タイヤを供給していることをご存じでしょうか?
じつは、スーパーGTのように複数のメーカーがタイヤを供給しているレースシリーズは世界的に見ても希少なのです。
世界のほとんどのシリーズは、規則でタイヤメーカーを1社に絞っています。これを一般にワンメイク制と呼びます。
たとえばF1グランプリは「ピレリ」、フォーミュラEは「ミシュラン」、アメリカのインディカー・シリーズは「ファイアストン」、日本のスーパーフォーミュラ・シリーズは「ヨコハマ」が、それぞれ独占的にタイヤを供給するとルールで決められています。
例外は、ルマン24時間などが名を連ねる世界耐久選手権(WEC)で、LMP2と呼ばれるクラスのみ「グッドイヤー」のワンメイク制ですが、それ以外のハイパーカー・クラスやLMGTEクラスは複数のメーカーがタイヤを供給することを認めています。
ただし、実態を見ると、ハイパーカー・クラスもLMGTEクラスも全チームがミシュランを使用しており、実質的なワンメイク状態となっています。
ところがスーパーGTでは、ブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップの4メーカーが、いずれも同じGT500クラスで凌ぎを削っているのです。しかも、ミシュランを除く3メーカーは、GT300クラスにもタイヤを供給し、激戦を繰り広げています。
2021年シーズンの第5戦までを振り返ると、GT500クラスではブリヂストンが4勝と圧倒的な強さを誇っていますが、第3戦鈴鹿(新型コロナウィルス感染症の影響で順延となり、第4戦もてぎの後で開催された)ではミシュランを装着する2台が1−2フィニッシュを果たしました。
さらに予選に目を向けると、ブリヂストンがポールポジションを獲得したのは3回で、残りはヨコハマとダンロップが1回ずつ勝ち取っています。つまり、ブリヂストンが優勢であるのは事実ですが、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップも健闘しているのです。
GT300クラスはさらに混戦模様で、予選では全5戦でダンロップがポールポジションを獲得。いっぽうの決勝レースではヨコハマとダンロップが2勝しているものの、ブリヂストンも1勝でこれを追っています。
■モータースポーツの技術やノウハウを市販車用タイヤにフィードバック
各タイヤメーカーはどんな思いでスーパーGTに参戦しているのでしょうか? ここではヨコハマとミシュランにその考え方をたずねてみました。
ヨコハマは、環境性能や安全性などを自動車用タイヤに求められる当然の性能として位置づけるいっぽうで、付加価値として「クルマを操る楽しさを追求」しているといいます。
モータースポーツに参戦するのは、そうした姿勢の表れであると同時に、モータースポーツを支えることにある種の使命感を抱いていることが理由のようです。また、同じ考え方から、自動車メーカーのワークスチームやプロフェッショナルドライバーが参戦するトップカテゴリーだけでなく、アマチュアのチームやドライバーが出場する“グラスルーツ・カテゴリー”にもタイヤを供給している点にヨコハマの特徴があります。
いっぽうのミシュランは、モータースポーツ活動を通じてブランドの認知度を高めるほか、モータースポーツ活動で得た技術やノウハウを市販車用タイヤにフィードバックするとともに、自分たちのテクノロジーがライバルに対してどのような位置関係にあるのかを確認する目的でモータースポーツに参戦しているといいます。
じつは、ヨコハマもミシュランと同じように、レーシングタイヤで培った技術を市販車用タイヤにフィードバックしているそうです。
2メーカーにその具体例について質問したところ、「少し濡れた路面でもよくグリップするコンパウンド(タイヤの接地部分に使われるゴム素材のこと)の開発で、スーパーGTの技術が役立った」とほぼ同じような回答を得ました。これはとても興味深い点だといえます。
さらにミシュランは、技術の流れがレーシングタイヤから市販車用タイヤへの一方向だけでなく、市販車用タイヤの技術がレーシングタイヤに転用されることもあると教えてくれました。
たとえば、ミシュランがスーパーGT用に開発した最新のウエットタイヤは、市販車用のスポーツタイヤ「パイロットスポーツ・カップ2」をベースに設計したトレッドパターン(タイヤ接地面の模様)を採用しているといいます。
この点は、先ほど説明した「スーパーGT用のコンパウンド技術が市販車用タイヤにも活用されている」こととも深く関連しているようです。
ときに300km/h近いスピードで疾走することもあるスーパーGTのマシンと、私たちが普段乗っているクルマのタイヤが意外なほど近い関係にあることは、驚きであると同時にとても興味深いことといえるでしょう。