ホンダは中国市場における電動化戦略について発表し、第1弾として2022年春に「e:NS1」と「e:NP1」というSUVを発売することを明らかにしました。日本におけるホンダの電動化はどのように進めるのでしょうか。
■中国で発表された電動SUVが「ヴェゼル」にそっくり!?
ホンダは2021年10月13日、「中国電動化戦略発表会」を開き、ホンダのEVブランド「e:N」を発表。今後5年間で10車種の新型電動車を中国へ導入するといいます。
そして2030年以降、中国に新たに投入する四輪車はすべてハイブリッド車またはEVなどの電動車とすることも正式表明しました。
第一弾は、2022年春に発売する「e:NS1」と「e:NP1」の2モデルです。
それぞれ東風(とんぷう)汽車との合弁企業の東風ホンダ、また広州汽車との合弁である広汽ホンダから発売されます。
この2モデルを画像で確認する限り、外観は日本の新型「ヴェゼル」とかなり近い印象があり、事実上の「ヴェゼルEV」といえるのかもしれません。
トヨタの場合も、中国向けEVとして「C-HR EV」を2019年の上海モーターショーで発表してすでに量産されていますが、ホンダも既存の小型SUVでまずはEV市場での基盤づくりおよび中国政府が掲げるEV施策に対するマッチングを狙うということでしょう。
さらに、今回明らかになったのが、「e:N アーキテクチャー」と称する、EV専用車体と電動パワーユニットの存在です。
コンセプトとしては、「SUV」「クーペ」「GT」という3タイプがあります。
ホンダの三部敏弘社長は2021年4月におこなったオンラインでの社長就任会見で、「2040年にはグローバルでEV、FCV(燃料電池車)の販売比率を100%」とするという高い目標を掲げています。
そのうえで中国については、「2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%」を目指し、今後5年以内に10車種のホンダブランドのEVを市場導入し、SUVの量産EVを2022年に発売するとしていたので、今回の発表はそうした事前計画に沿った内容だったといえます。
今回発表された中国市場でのEV戦略は、日本市場にどういう影響を与える可能性があるのでしょうか。
2021年4月の社長会見では、日本では「2030年に20%、2035年に80%、2040年に100%」という計画で、中国に比べるとEVシフトの初動を遅く設定しています。
これは、中国政府と日本政府の電動車に関する施策の違いを反映したものです。
そのうえで、日本独自規格の軽自動車についてホンダは、2024年にEVモデルを市場導入するとしていますし、またハイブリッド化も進めます。
そうなると、日本向けの次期EVは、中国「e:NS1」「e:NP1」と共通項がある「ヴェゼルEV」の登場が現実的なのではないでしょうか。
■人気軽自動車「N-BOX」もEV化・ハイブリッド化する?
軽EVについては、「N-BOX」のフルモデルチェンジが2023年前後になる可能性がありますが、これまでの各国産自動車メーカーによるEV戦略から考えると、現行N-BOXや現行「N-VAN」をベースとした、市場変化に対する様子見としての軽EVをまず出して、そこから次世代に向けた流れを検討するという予測が成り立ちます。
さらに、日本政府は「2035年までに軽を含む新車100%を電動化(ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車含む)」としているので、2023年以上に登場するNシリーズのパワートレインは、まずはハイブリッドが標準となる可能性が高いと考えられます。
ホンダとしては、日本市場での四輪事業の柱がN-BOXを中心とする軽自動車であり、また軽自動車は庶民の足として広く普及していることで、急激なEVシフトによって日常生活での軽自動車の利便性が大きく変化することは避けたいと考えるでしょう。
そのため、普通車向けの「e:HEV」技術を軽向けに応用した技術で、まずは電動化の基盤作りを優先すると思われます。
一方で普通車については、もしかすると国産メーカーのなかでもっとも早くEVシフトを仕掛けてくるかもしれません。
今回発表された「e:N アーキテクチャー」をフル活用し、またホンダが唱えるエネルギーエコシステムであるeMaaS(イーマース)を具現化することで、普通車EV市場でのリーダーシップを取りにいく可能性があるのではないでしょうか。
そうしないと、2035年でのEV/FCVで新車80%達成というのはかなり難しいと思います。
2024年から2025年頃に、日本におけるホンダ普通車のEVシフトが一気に始まってもおかしくない状況だといえます。
この普通車のEVシフトを、軽のEVシフトが後から追いかけていくという流れが想像できます。
ただし、中国にしろ日本にしろ、また欧州でも北米でも、EVシフトについてはESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)投資という観点での政治的な政策主導という側面が現状ではあまりにも大きく、見方を変えると、政治主導によってEVシフトは今後なんらかの理由で大幅に修正されるリスクもあるのではないでしょうか。
そうした不確実な世の中の流れがあっても、ホンダをはじめとした自動車メーカー各社はEVシフトに向けたさまざまな課題を乗り越えていかなければならない状況にあります。