2021年9月2日に、日産ヨーロッパのデザイン担当バイスプレジデントであるマシューウィーバー氏は、初代「シルビア」を元にしたEVのデザインイメージを作成し、公開しました。すぐにシルビアがEVで復活するというわけではありませんが、ひとつの可能性を示したといえるでしょう。そこで、これまで次期シルビアと噂されたコンセプトカーを、3車種ピックアップして紹介します。
■次期シルビアと噂されたコンセプトカーを振り返る
日本でやっとマイカー時代が始まった頃の1965年に、日産から高級スペシャリティカーとして初代「シルビア」(CSP311型)が発売されました。
初代シルビアはオープン2シータースポーツカーのダットサン「フェアレディ」をベースに、2ドアクーペの美しいボディをまとい、内外装の造形を優先したことから生産工程の多くがハンドメイドとされ、当時の価格は高級車の「セドリック」を超える120万円に設定されました。
そのため、1965年3月から1968年6月までの約3年間で生産台数はわずか554台と、今ではまさに幻の名車です。
そして2021年9月2日に、日産ヨーロッパのデザイン担当バイスプレジデントであるマシューウィーバー氏は、この初代シルビアを元にしたEVのイメージを作成し、公開しました。
あくまでもデザインコンセプトというスタンスで、このまま市販化を示唆するものではありませんが、次期シルビアがEVで登場する可能性はゼロではないでしょう。
シルビアは2002年に7代目の「S15型」をもって生産を終え、その後はこれまで何度か復活を期待させるコンセプトカーが登場していますが、現在まで実現はしていません。
そこで、次期シルビアと噂されたコンセプトカーを、3車種ピックアップして紹介します。
●日産「フォーリア」
2005年の東京モーターショーに出展された「フォーリア」は、まさに初代シルビアをモチーフにしたデザインのコンセプトカーです。
全体のフォルムは2ドアクーペで駆動方式もFRと発表され、室内は2+2の4シーターとなっており、キャビンの形状やフロントノーズとリアデッキの長さのバランスは初代シルビアを彷彿とさせます。
特徴的なのがドアまわりで、観音開きの4ドアを採用。マツダ「RX-8」などと同じ構造です。さらに、サイドウインドウのモールがアルミ製でクラシカルな雰囲気を演出しているのも、初代シルビアのイメージを踏襲しているようです。
また、内装ではシートやステアリングだけでなく、インパネまわりなどレザーがふんだんに使われ、スポーティさとエレガンスを融合。さらに、シフトノブなど指が触れる部分には日本の伝統技法からヒントを得た表面処理を随所におこなっているなど、こだわりの空間を実現していました。
この2005年の東京モーターショーでは、2001年の「GT-Rコンセプト」に続いて2回目の出展となる「GT-Rプロト」が登場し、2007年に「GT-R」が市販化された経緯もあって、フォーリアの市販化も大いに期待されましたが、実現には至りませんでした。
●日産「エスフロー」
2011年の東京モーターショーに出展された「エスフロー(ESFLOW)」は、かなりアグレッシブなデザインのピュアEVスポーツカーです。
外観は2ドアのファストバッククーペで、「フェアレディZ」のシルエットを前後方向に凝縮したようなイメージで、とくに前後のオーバーハングが極端に短いのが印象的です。
また、有機的なデザインのフロントまわりは、エッジの効いたフロントフェンダーを軸にデザインされており、そのフェンダーラインに沿うような形状のデイタイムランニングライトがアクセントになっています。
パワートレインは初代「リーフ」で培った技術を駆使して開発され、車体中央付近に配置された高機能モーターが、左右の後輪をそれぞれ独立して駆動、制御する後輪駆動車です、
また、リチウムイオン電池をボディ内の最適な位置に分散配置し、理想的な前後重量配分を実現するなど、後輪駆動のスポーツカーとしてのポテンシャルを高めていました。
室内は2シーターで、コクピットはデジタルながら3眼のメーターが設置されており、レザー素材を各部に使うなど、最新のデザインコンセプトにクラシカルなスポーツカーの雰囲気が同居しています。
エスフローは近い将来のEVスポーツカーを体現していましたが、やはり実現には至りませんでした。
●日産「IDx」
2013年の東京モーターショーで展示出展され、新型シルビアの最右翼と期待されたFRスポーツカーが「IDx」です。
前出のフォーリア、エスフローに続いてIDxが登場したことで、いよいよシルビア復活が現実味を帯びたと注目されました。
ボディはノッチバックの2ドアクーペで、デザインは「510(ゴーイチマル)」の愛称で呼ばれ、シルビアと同じくFRクーペをラインナップしていた、3代目「ブルーバード」をモチーフとしたような印象です。
パワーユニットは直列4気筒エンジンをフロントに搭載してリアを駆動するFRと発表され、まさに次期シルビアに近いコンセプトカーと目されました。
バリエーションはクラシカルなイメージのスタンダードなIDxと、レーシーな「IDx NISMO」の2タイプが出典され、IDx NISMOはリベット留めオーバーフェンダーをモチーフにしたワイドフェンダーや、クラシカルな形状のフロントスポイラーを装着。
外装のカラーリングは往年のレーシングカーを彷彿とさせますが、数多くのカーボン製パーツを採用するなど、旧車と最新テクノロジーが融合した「レストモッド」のようなコンセプトで仕立てられていました。
内装も液晶モニターとアナログメーターが共存するネオクラシックなデザインで、IDx NISMOでは外装と同じくカーボン製パーツをふんだんに使うなど、レーシーさを演出。
IDxは公開当時の反響が大きく、次期シルビアとして市販化が大いに期待されましたが、実現することはありませんでした。
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日産には、もうすぐ日本でも正式に発表される新型「フェアレディZ」が存在します。ということは、FRスポーツカーのプラットフォームを新たに開発する必要はなく、現実的に内燃機関を搭載した次期シルビアの開発は十分に可能でしょう。
しかし、もはや小型スポーツカーのマーケットは、現行モデルのラインナップを見ても世界的に小規模なのは明らかです。
実際に次期シルビアのような小型スポーツカーが増えることに期待している人は多いと思いますが、継続して販売台数を伸ばし、生き残ることが困難なことはこれまでの歴史が証明しています。
メーカーも同じ轍を踏むわけにはいかず、シルビアの復活はそう簡単ではないでしょう。