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「2040年までにZEV100%は非現実的!」 日本勢はCOP26の合意ゼロ! 車の環境問題はどこへ向かう?

くるまのニュース 2021年12月11日 19時10分

欧州などがけん引している「2040年までにZEV100%」宣言ですが、COP26で合意に署名した日本勢はゼロでした。昨今のクルマの環境問題はどうなっていくのでしょうか。

■自動車メーカーはメルセデス・ベンツやフォード、GMなど11社が署名

 2021年10月末から11月半ばまでの約2週間、26回目の開催となる「COP26」が英国グラスゴーで開催されました。

 すでに報道などでは「2040年までにゼロエミッション車(ZEV)を100%にする」という宣言に各国が合意したなかで、「日本や日系企業が合意しなかった」と報じられています。

 今回のCOP26では、どのような内容が話し合われ、なぜ日本は合意に署名しなかったのでしょうか。

 COPとは「国連気候変動枠組条約締約国会議」を意味します。第1回は1995年にドイツのベルリンで開催されました。

「地球温暖化によるさまざまな悪影響を阻止するために世界の国々が一丸となって対策を進めよう!」という国連主体の国際会議です。

 なお、COPとは単に「条約締約国会議」(Conference of the Parties)を意味する略称であり、正式名称はCOP-FCCC(気候変動枠組=Framework Convention on Climate Change)となります。

 現在、COPの主軸となる目標は「産業革命前(1860年代以前)からの気温上昇幅を、2度を十分下回る水準で維持し、1.5度の目標に向かって世界が努力する」というものです。

 IPCC第5次評価報告書によると、現在までの上昇幅は「1.1度」ですが、この先21世紀末までに、世界平均気温がさらに0.3度から4.8度上昇するとされています。

 COP26では地球温暖化を阻止すべくさまざまなテーマについて議論されましたが、「自動車」に関しては以下の「宣言」が出されました。

「主要市場で2035年まで、世界全体で2040年までに販売される新車(乗用車とバン)をすべて二酸化炭素(CO2)の排出がないゼロエミッション・ヴィークル(ZEV)にする」

 主要市場とは欧州や日本、米国、中国など自動車が数多く販売される国や地域を指します。

 2035年まであと13年であり現実的ではない印象ですが、この宣言に対してどんな国や自動車メーカーが合意したのでしょうか。

 これまでのCOPは国単位で合意するスタイルでしたが、COP26では「国」「自動車メーカー」「都道府県市町村」「フリート企業」「自動車産業への投資家」などの単位に分かれてそれぞれが署名するスタイルが採用されました。ただし、いずれも法的拘束力はありません。

 なお、フリート企業とは、企業の事業活動のなかで用いる車両(Fleet vehicle(s))を大量に所有する企業を意味します。

 そうしたなかで、それぞれのカテゴリー別に署名した国や企業は以下の通りです。

 1.政府(計28か国)

 オーストリア/ベルギー/カナダ/チリ/デンマーク/エルサルバドル/フィンランド/アイスランド/アイルランド/イスラエル/ルクセンブルク/オランダ/ニュージーランド/ノルウェー/ポーランド/スウェーデン/バチカン市国/イギリスなど

 2.新興市場および発展途上国の政府や組織(11の国や組織)

 ドミニカ共和国/ガーナ/インド/ケニア/メキシコ経済事務局/モロッコ/トルコ/ウクライナほか

 3.都市、州、地方自治体(45自治体)※主な都市を記載

 アトランタ/オーストラリア首都特別地域/ブリティッシュコロンビア/カリフォルニア/ダラス/フィレンツェ/ロサンゼルス/ニューヨーク市/ローマ/サンフランシスコ/ソウル市/ワシントン(州)ほか

 4.自動車メーカー(11社)

 アベラ電気自動車(インド)/BYDオート(中国)/e-トリオオートモービルズプライベートリミテッド(インド)/フォード(アメリカ)/ガヤムモーターワークス(インド)/GM(アメリカ)/ジャガーランドローバー(イギリス)/メルセデス・ベンツ(ドイツ)/MOBI(?)/クォンタムモーターズ(ボリビア)/ボルボカーズ(スウェーデン)

 5.フリートの所有者とオペレーターまたは共有モビリティプラットフォーム(27社)

 アストラゼネカ/グラクソ・スミスクライン/IKEA/シーメンス/テスコ/ウーバーテクノロジー/ユニリーバ/チューリッヒほか

※ ※ ※

 このほか、自動車産業に出資をしている投資会社や投資家なども宣言に署名しています。

 こうしてみると、日本は国としてはもちろん、都道府県市町村や自動車メーカーなどの企業もどこも署名をしていません。「ゼロ回答」としてきっちり足並みがそろっています。

 電気自動車を含む新エネルギー車の普及が国策となっている中国も、国としての署名はしておらず、唯一、企業のBYDだけが署名をしています。

■日本は過去20年間で-23%のCO2削減に成功していた!

 中国やアメリカ、ドイツ、日本など自動車の生産や販売台数が多く、また自動車が国の基幹産業となっている国の署名がないことも興味深い結果となりました。

 また、強力にガソリン車からEVへのシフトを進めるフォルクスワーゲンも不参加。ドイツメーカーではメルセデス・ベンツだけが署名をしました。

 この結果を『EV(電気自動車)推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』の著者(共著)で、産業遺産情報センターの所長でもある加藤康子(こうこ)氏は、次のように述べます。

「どの日本メーカーもできると思っていないから、署名できなかったのだと思います。

 署名した海外メーカーはそれぞれ思惑が違うので、一般論で議論できません。

 署名することで課せられる責任も国により異なり、またルールをどのように捉えるのかというニュアンスでも対応は変わると思います。

 欧米のメーカーのなかには、ルールは変えられると思って署名した企業もあるでしょうし、できると思って署名したところもあるでしょう。

 GMやフォードはどうでしょう。前者のような気がしないでもありません。

 ピックアップトラックを全部EVにできるんでしょうか。カリフォルニア以外でEVはシェアを取れるのでしょうか。

 コンシューマーレポートでも評価は低く、アメリカの友人やメディア関係者は何も懐疑的です」

 なお、2021年4月に「2040年にグローバルでEVとFCEVの販売を100%に」という目標を発表したホンダも署名はしませんでした。その理由について尋ねたところ、「署名しなかった理由は公開しておりません」(ホンダ広報部)との回答でした。

 そうしたなかで、日本自動車工業会会長の豊田章男氏は、2021年9月の定例記者会見で「敵は炭素であり、内燃機関ではない」とEV化を強力に推し進める欧州主導の情勢に対して反論しました。

 EV以外にも日本の強みを生かした優れた技術があり、選択肢があることを説明し、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて全力でチャレンジすることを訴えています。

 そして実際に日本は、「日本の強みを生かした方法で」けた違いの大きな結果をすでに出しています。

実は日本はスゴいんです! 過去20年間で-23%のCO2削減に成功していた!(画像:自工会)

 なお、2001年からの20年間にわたる保有自動車全体のCO2排出量の推移では、強力なEV化を進めるドイツやオランダは3%増やしています。

 対して、EV比率は低くても低燃費のガソリン車やハイブリッド車を数多く生産販売している日本は20年間で23%も減少させています。

 また、COP26では大型トラックとバス(ZE-MHDV=ゼロエミッション-ミドル&ヘビーデューティヴィークル)に関する初めての世界的な合意もおこなわれました。

 内容は「主要国は2040年までに完全なゼロエミッションの新しいトラックとバスの販売を可能とし、新車販売の30%をZEVにし、2050年までに炭素排出量ゼロの達成を促進」するというものです。

 これに対して、オーストリア、カナダ、チリ、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スコットランド、スイス、トルコ、英国、ウルグアイとウェールズは、2030年までに新車販売の30%をZEVにするという暫定目標を設定しました。

 さらに、BYD(中国)、スカニア(スウェーデン)、DHL(ドイツ)、ハイネケン(ドイツ)などの主要な自動車メーカーやフリート企業もこれらに署名して支援を約束しています。

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