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豊田社長に訊く「BEV好きですか?」 トヨタ「ZEV350万台販売」レクサス「BEV100%化」宣言! 全方位電動戦略のホンネ

くるまのニュース 2021年12月14日 19時10分

2021年12月14日にトヨタならびレクサスは「2030年までにグローバルでZEV(BEV+FCEV)を350万台(そのうちレクサス100万台)販売」を明らかにしました。どのような経緯があるのでしょうか。

■トヨタ「2030年までにZEV350万台に!」レクサスは「2035年にグローバルでBEV100%化」

 トヨタならびレクサスは、2021年12月14日に「バッテリーEV戦略に関する説明会」を実施し、「2030年までにグローバルでZEV(BEV+FCEV)を350万台(そのうちレクサス100万台)販売」を明らかにしました。
 
 これまで、トヨタはZEVを200万台にする目標を公表していましたが、どのような経緯で台数を増やすことになったのでしょうか。

 今回、前述の2030年までにZEV350万台目標に加えて、「レクサスは2035年にグローバルでBEV100%を目指す」、「2030年にグローバルでBEV30-40車種を投入」ということも明らかにしました。

 これらの発表を聞き、「トヨタはEVに熱心ではない」、「世界の流れに逆らっている」、「内燃機関に固執のガラパゴス」などと声高らかに叫んでいた人達は、どのような反論をするのでしょうか。

 トヨタの「バッテリーEV戦略に関する説明会」で明らかになった事実は、それくらい衝撃的でした。

 これらはEVシフトを声高らかに謳うも「願望」の域を脱していない欧州勢の宣言とはちょっと意味が違います。

 その理由は単純明快で、長きに渡り「電動化の課題」をひとつひとつ地道に克服してきたからです。

 それは1998年に世界初の量産ハイブリッドカー「プリウス」を発売する以前から進められていました。

 恐らく「ハイブリッドとBEVは違う」と反論する人もいるでしょうが、勘違いも甚だしいです。

 そういう人もために基本中の基本をおさらいしますが、すべての電動化パワートレインには共通する重要な要素技術は「モーター/バッテリー/インバーター」の3つです。

 これにエンジンを組み合わせると「HEV」、HEVに充電機能を追加すると「PHEV」、フューエルセルと水素燃料タンクを組み合わせると「FCEV」、そして、そのまま使えば「BEV」になります。つまり、ハイブリッドの進化=トヨタ電動化の進化になります。

 トヨタは20年以上に渡るHEV開発で、モーターは「出力200%アップ、サイズ50%ダウン」、バッテリーは「ウエイト30%-50%ダウン、サイズ60%ダウン」、インバーターは「エネルギーロス80%ダウン、サイズ50%ダウン」と、小型/軽量/高効率化を実現。

 加えて、累計1810万台のHEV生産/販売の実績で裏付けられた耐久性/信頼性/商品性/コスト競争力など、大量・高品質で生産する技術もすでに構築しているのです。

 こんなことから、トヨタは以前から「HEV技術で培った技術はBEVにも活用できる」と語っていましたが、これまでBEVでより重要な要素技術となるバッテリーの課題を完全に乗り越える秘策がなかったのも事実です。

 しかし、それも2021年9月7日に開催された「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」では、高性能/高効率化(車両・バッテリー一体開発)、安全性(異常発熱を抑える)、長寿命(10年後で90%)、高品質(異物を発生させない/入れない)などの最新技術が採用された次世代バッテリーを量産BEV「bZ4X」に採用したと発表。

 さらに20年代後半までにbZ4Xと比較して「台当たりの電池コスト50%低減」を目指すとも発表しています。

 また、BEV量産で最大の課題となる「バッテリー供給体制」についても、グローバルの地域ごとに「必要なタイミング」で「必要な量」を「安定的」に供給できるフレキシブルな体制構築を計画。

 具体的には200GWh以上の電池の準備を想定。そのためには「安心に使ってもらえる電池」のコンセプトに理解いただけるパートナーと協調・連携をおこない、3年後の電池必要量を計画に織り込む体制作成や生産立ち上げのリードタイム短縮など、「変化」に対して「適応力」のある体制を整えていくそうです。

 このようにトヨタはBEV普及のために開発・供給というもっとも大事な部分の体制を着実に整えてきましたが、それでも正しい評価はされてきませんでした。

 その理由は単純明快で「ウンチクだけで、肝心なモノが出てこない」でした。

 今回、EV意外ダメ派ともいえる人達を完全に駆逐する数多くのモデルのお披露目と驚きの販売計画が発表されました。

 ・2030年までにグローバルでZEV(BEV+FCEV)を350万台(そのうちレクサス100万台)販売
 ・レクサスは2035年にグローバルでBEV100%を目指す
 ・2030年にグローバルでBEV30-40車種を投入

 ちなみに2021年5月の決算発表ではZEV200万台を目標にしていましたが、今回の発表で何と150万台も上乗せしています。

 バリエーションはBEV専用ブランド「bZシリーズ」から5車種、「レクサス」から4車種、そしてライフスタイルモデル7車種をお披露目。

 これらのモデルは早いモデルで2022年、遅いモデルでも数年以内に登場予定だといいます。

 セダン、クーペ、ハッチバック、SUV、ピックアップトラック、商用車、マイクロカー、スポーツカーと多種多様なバリエーションを用意。

 そのなかでもレクサスは今必要とされるBEVニーズに応えるラインアップに加えて「LFA」のDNAを継承した新たなブランドの象徴となる「次世代EVスポーツカー(0→100km/h加速2秒前半、航続距離700km、全固体電池搭載も視野)」も用意。

 レクサスは2019年に電動化ビジョン「レクサスエレクトリファイド」を発表済みです。

 その内容を要約すると「電動化技術用いてもう一度クルマの原点に立ち戻り、高級車の有り方を根本から変える」ですが、残念ながらこれまで具体性が乏しかったのも事実です。

 しかし、今回の発表で進むべき道がより明確なったと思っています。

■豊田章男社長に聞いてみた! 「BEVが好きですか? それとも嫌いですか?」

ミニランクルみたいなBEVも登場する?

 このような発表をしても、「トヨタ、焦って出してきたな」、「やっと我々(EV信者)のいうことを聞いたか」という人もいると思いますが、残念ながらニューモデル開発はそんなに短期間では無理です。

 4、5年前から計画が進んでいたのはいうまでもないでしょう。さらにこんなことをいう人も出るかもしれません。

「トヨタ、電動化方針を変更するのか?」

 これまで豊田社長も何度もしつこくいっていますが、トヨタの「選択肢は狭めない」という方針は今後も一切変わることはありません。

 つまり、ここまで攻めの姿勢を貫いてもBEVは「いくつかあるパワートレインのひとつに過ぎない」ということです。

 なぜ、トヨタはこんな非効率な手段を選ぶのか。

 それも単純明快で現時点で「正解がない」からで、当然「選択と集中」をしたほうが経営的には楽ですが、トヨタはグローバルでビジネスをおこなっているため、各国・各地域のいかなる状況、いかなるニーズに対応しながらカーボンニュートラルを実現させる必要があるからです。

 つまり、クルマを使う誰1人たりとも置いてきぼりにしてはならないという方針は、トヨタフィロソフィの「幸せの量産」へと繋がっています。

 このように今回の発表は「石橋を叩きすぎて壊してしまう」といわれるほど慎重なトヨタが、初めてBEVに対して “攻め”の姿勢を具体的かつ明確にアピールしました。

 筆者(山本シンヤ)はすべて納得といいたいところですが、ひとつだけ気になることがあります。

 それは豊田社長のBEVに対する「想い」や「気持ち」です。

 確かに「BEVもちゃんとやっていますよ!!」、「BEVは反対ではない」といった現実的な話は何度も聞きましたが、それ以外のこと……つまり、もっと踏み込んだ話(本音!?)を聞くことはこれまでなかったと思っています。

 その一方「ガソリン臭いクルマが好き」という発言や水素エンジン/ハイブリッド(WEC)に関しては、“夢”や“ロマン”がある熱いコメントを数多く聞いています。

 そんなこともあり、個人的には「BEVに対するパッションが足りないよね」と思うところも。そこで筆者は発表会の質疑応答の席で、思い切って聞いてみることにしました。

「今回、さまざまな発表に驚いていますが、ひとつ気になるのは少々“ビジネスライク”な感がしてしまうことです。ズバリ、豊田社長はBEVが好きですか? それとも嫌いですか?」

 すると、豊田社長は苦笑いをしながらこのように答えてくれました。

「あえていうなら『今までのトヨタのBEVには興味が無かったが、これからトヨタが創るBEVには興味がある』です。

 ちなみに私が最初に乗ったEVは『RAV4 EV』でした。その次に乗ったのが、『86』をEVに仕立てたテストカーでした。

 ただ、そのときのコメントは『電気自動車だね』でした。つまり、BEVにすると皆同じクルマになってしまう。

 トヨタ/レクサス/GRという各ブランドで『○○らしさ』を追求している者としては『BEVだとコモディディ化してしまう』と。

 そのため、今までビジネス的には応援するけど、モリゾウとしては……という本音を見抜かれた感じです。

 私は今、マスタードライバーをやっています。マスタードライバーになるキッカケ、トレーニング、技能習熟はFRでやってきました。

 しかし、最近は自ら出場するラリーやS耐などのモータースポーツの場では4WDに乗っています。

 そこでマスタードライバーの感性が変わってきたことは、『電気モーターの効率はエンジンよりも遥かに高い』ということです。

 それを活かすと四駆のプラットフォームをひとつ作れば、制御如何でFFにもFRにもできます。

 そんな制御を持ってすれば、モリゾウでもどんなサーキット、どんなラリーコースでも安全に速く走れる事ができるぞ……と。

 さらに全日本ラリー選手権ではノリさん(勝田範彦選手)、S耐ではルーキーレーシングのドライバーが活躍していますが、プロのドライバーの運転技能を織り込んで、より安全、よりFun to Driveなクルマができると言う期待値、そして私のようなジェントルマンドライバーが同じように走れるクルマが、このプラットフォームによって作れる可能性が出てきた……これが大きな変革です。

 ただ、制御で味付けしただけでは伸びたうどんに天ぷらを載せるような感じにしかなりません。

 この数十年、TNGAをはじめ、ベース骨格、足回り、ボディ剛性など、『もっといいクルマをつくろうよ』という掛け声のもとで、地道なカイゼンをおこなってきました。

 そして、下山コースを作り上げ、クルマにより厳しい条件での開発も進んでいます。

 つまり、単なるビジネスマターではなく、ドライバー・モリゾウとして、『こんなクルマがあったらいいな』というクルマづくりに期待しています。

 我々はBEVだけでなくFCEV、HEV、そして何より内燃機関も本気でやっています。

 そこはモリゾウとしても豊田章男としても変化はありません。そして、お客さまに選んでもらい笑顔になってほしい。

 そのために作り手が心を込めた物を提供していく。そのような思いで、全方位でやっていきます」

※ ※ ※

 これを聞いて筆者はトヨタがBEVではなくクルマをつくろうとしていると感じました。

 さらに2021年11月のスーパー耐久最終戦(岡山)で豊田社長にインタビューをした際に、「たぶん、僕は一番のトヨタのクレーマーだと思う(笑)」といっていたことを思い出しました。

 それはマスタードライバーとして「最後のフィルター」であることを意味していますが、それを今回の話に置き換えると、豊田社長も納得のBEVに仕上がっているということです。

 つまり、トヨタにとって本当の意味での「選択肢」が生まれたといっていいでしょう。

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