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時価総額はなぜ重視される? トヨタ34兆円、テスラ100兆円超えも販売台数では逆転! 米新車市場初のトヨタ首位も比例しない訳

くるまのニュース 2022年1月7日 18時13分

2021年の株式市場は、コロナ禍にもかかわらずおおむね好況で終えました。日本企業の時価総額トップはトヨタの約34兆円ですが、世界に目を向けるとテスラが圧倒しています。

■前年比30%超となったトヨタの株価、しかしテスラは…

 2021年12月30日、東京証券取引所は年内最後の取引を終え、大納会をおこないました。
 
 日経平均株価の2021年の終値は2万8791円71銭となり、3年連続で前年末超えを記録しただけでなく、32年ぶりの高水準となりました。

 日本企業の時価総額トップはトヨタの約34兆円ですが、世界に目を向けるとテスラが圧倒しています。よく耳にする「時価総額」とはどのようなものなのでしょうか。

 依然として新型コロナウイルスの影響による混乱は続いていますが、ワクチン接種が進んだことなどによって経済活動にも回復の兆しが見えつつあることから、上場企業の株価は上昇傾向にあります。

 自動車業界の雄であるトヨタの株価は、2021年の始値が1586円であったのに対し、終値は2106円と30%を超える上昇率を見せています(トヨタは2021年9月に、1株を5株へ分割しているため、2021年の始値は正確には7930円でした)。

 トヨタの時価総額は34兆円を超え、2位のソニーを2倍近く引き離して日本企業トップの座に君臨しています。

 ちなみに、2021年末時点でのそのほかの自動車メーカー別時価総額を見ると、ホンダが約5兆8500億、日産が約2兆3000億、スズキが約2兆2000億、スバルが約1兆6000億、マツダが約5591億 、三菱が約4800億となっています。

 東証一部に上場している全企業の時価総額を合計すると約700兆円となりますが、そのうち自動車メーカーや関連部品メーカーなどの時価総額はおよそ10分の1におよぶなど、自動車産業がいかに日本の経済を支えているかがこうした指標からもうかがえます。

 株価に総株式発行数を掛けた「時価総額」という指標は、市場におけるその企業の価値を示すものとして、もっとも一般的な指標のひとつです。

 グループ全体で年間1000万台という、世界屈指の新車販売台数を誇るトヨタが、日本の時価総額ランキングのトップ、いい換えれば、もっとも価値のある日本企業となっているのは当然といえば当然の結果であるかもしれません。

 一方、世界の自動車メーカーに目を向けると、時価総額トップに位置するのはトヨタではないどころか、トヨタと毎年販売台数争いを繰り広げるフォルクスワーゲンやGMでもありません。

 そのトップになったのは2021年の終値で125兆円という自動車メーカーとして圧倒的な時価総額を誇るテスラです。

 1年間で30%以上の成長を遂げたトヨタの株価ですが、テスラはそれをさらに上回る50%を超える成長率を見せており、2年前の2020年の始値からは10倍以上に高騰しています。

 時価総額だけで見れば、テスラはトヨタの3倍以上の価値がある自動車メーカーとなります。

 それだけでなく、日本の自動車メーカーの時価総額をすべて合計しても、テスラの半分にもおよびません。

 いうまでもなく、テスラは電気自動車(EV)によって急成長を遂げてきた企業です。

 2021年は「脱ガソリン車」や「EV推進」を掲げる企業が多く見られた年でもありましたが、その背景には株式市場におけるテスラの大躍進とは無関係ではないでしょう。

■時価総額には、「将来への期待」が反映される?

 しかし、いくらテスラが順調に販売台数を伸ばしていたとしても、トヨタの3倍以上の価値があるということに、納得できないという人は少なくないかもしれません。

 もちろん、新車販売台数という指標で見れば、トヨタはテスラを圧倒的に上回っています。ただし、それはあくまで新車販売台数という指標での話です。

 自動車メーカーは、慣習的に新車販売台数を重視する傾向があり、その背景にはとんどの自動車メーカーが、00年来の大量生産システムにもとづいているからにほかなりません。

 つまり、極めて単純にいえば、大量に生産し販売することで現金を得るという仕組みで成り立っているため「何台売ったか」が重要な指標となります。

 一方、テスラはその将来性を担保に金融市場から現金を得るという、ITベンチャーなどに見られる手法で急成長を遂げました。

 そうした企業にとって重要なのは、「これまでに何台売ったか」という過去の実績よりも、「これから何台売れるか」という将来への期待にほかなりません。

 もちろん、トヨタをはじめとする既存の自動車メーカーが将来性を重視していないわけではありませんし、テスラが現在の販売台数を無視しているわけでもありません。

 ただ、「新車販売台数」が過去の実績を表しているのに対し、時価総額は将来への期待を表しているといえます。

 そもそも評価軸が異なるため、この両者で比較すること自体があまり意味のないことなのです。

 また、時価総額を実体経済とは掛け離れた机上の空論、単なるマネーゲームの結果と批判する人がいます。

 しかし、そうした人々がいう「実体経済」とはいったいなんなのでしょうか。

 時価総額が企業を判断する材料のすべてではありませんが、もっとも基本的かつ重要な指標であることは事実です。

 そもそも、企業価値(=時価総額)を上昇させることはすべての上場企業の経営者にとっての義務であり、それを放棄することは許されません。

 自動車メーカーのほとんどは上場企業であるため、時価総額を上昇させることが目的となります。

 そのため、たとえ実感がともなっていなかったとしても、ひとつの指標として無視することはできません。

 EVを推進することも、ガソリンエンジン車をつくり続けることも自由ですが、その目的は企業価値を上昇させることにあります。

 そしてその経営判断が正しかったかどうかを判断するもっともわかりやすい指標こそが時価総額といえるのです。

■時価総額には、「将来への期待」が反映される?

 いま現在は、ガソリンエンジン車のほうが総合的にメリットが大きいのは事実ですが、自動車産業の未来を考えると、電動化の波は避けられないのは明白です。

 もちろん、「ガソリン車か、EVか」という単純な二項対立ではなく、実際にはハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)、そして水素エンジン車など、さまざまな選択肢から最適な姿を模索していくことになるでしょう。

 ただ、世界の投資家たちは、EVに積極的であればあるほど評価する傾向にあるようです。

 その急進的ともいえるアピールには疑問の声も少なくありませんが、2021年12月にはトヨタもEVへのさらなる追加投資を発表し、レクサスブランドは2035年までに全車種をEV化することを明らかにしました。

 欧米の自動車メーカーに比べて、EVへの投資を大々的にアピールすることはあまりなかったトヨタですが、大量のEVを一気に発表するなどセンセーショナルなプレゼンテーションをおこなった背景には、投資家対策という目的もあったと考えられます。

 筆者(PeacockBlue K.K. 瓜生洋明)は、テスラ(EV)は優れている、あるいは、トヨタ(ガソリンエンジン車)は時代遅れということをいいたいわけではありません。

 筆者が強調したいのは、自動車メーカーを評価する指標のひとつに「時価総額」があり、それは、新車販売台数やクルマそのものの良し悪しなどとは別だということです。

 トヨタが世界トップクラスの新車販売台数を誇ることも事実ですし、テスラがトヨタの3倍を超える時価総額を誇ることも事実です。それらを戦わせて、どちらが優れているかを論じるのはナンセンスです。

 しかし、誤解を恐れずにいえば、これまで自動車産業に関わってきた人の多くは、新車販売台数の多さや、クルマの良し悪しこそが自動車メーカーにとってもっとも重要な評価軸のひとつであると捉えられてきたように思います。

 もちろん、それらは今も昔も、そしてこれからも重要な指標であることは確かです。ただ、自動車メーカーも企業のひとつである以上、企業価値を表す時価総額も無視することはできません。

 そして、日本の自動車メーカーの時価総額をすべて足しても、テスラには届かないという事実があるのです。

 100年に一度といわれる大きな変革期にある自動車産業ですが、そうした変化に対応するため、評価軸そのものもアップデートしていかなければなりません。

 そうした意味でも、テスラの躍進は、既存の自動車産業に一石を投じているといえます。

※ ※ ※

 将来の期待値によって上昇を続けるテスラの株価ですが、遅かれ早かれ実績がともなわなければ投資家にも見放されてしまうことでしょう。

 その点、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーには、100年におよぶ実績があります。

 将来への期待は、過去の実績が伴ってこそより現実味を帯びるものです。2022年は、日本の自動車産業にとって、ますます明るい将来を見られる年になることを願っています。

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