2020年5月に、10年ぶりにエンジンオイルの新規格が発表されました。新規格「SP/GF-6」はどのようなエンジンオイルなのでしょうか。コンパクトカーや軽自動車に使用しても効果はあるのでしょうか。
■新規格のエンジンオイル「SP/GF-6」登場
現在クルマはEVへとシフトしつつありますが、まだまだエンジンも現役です。ハイブリッド車もガソリンエンジンを搭載していますし、パワーや燃費といった技術の進化が求められるエンジンには、エンジンオイルの進化も欠かせません。
そんななか2020年5月、エンジンオイルの新規格「SP/GF-6」が発表されました。新規格が登場するのは実に10年ぶりのこととなります。
エンジンオイルの規格は規定する団体によって細かい差がありますが、おおよその目安というのが大きく分けて4つあります。
●API規格
「American Petroleum institute(アメリカ石油協会)」が規定するグレード。ガソリンエンジン用は頭文字が「S」からはじまり、ディーゼルエンジン用は「C」からはじまります。
「S」や「C」に続くアルファベットが細かいグレード規定で、進むほどに性能が高いことを示しています。
●ILSAC規格
「International Lubricant Standardization and Approval Committee(国際潤滑油標準化認証委員会)と呼ばれる日米の自動車メーカーが主体となった団体が制定している規格で、ガソリンエンジンの小型高出力化と省エネを両立させるためにできました。
これまで「GF-1」から順に「GF-5」までアップグレードされてきた歴史があります。
●ACEA規格
ドイツのBMWやVWグループをはじめとする欧州自動車メーカー15社が共同で設立した団体「Association des Constructeurs Europeens d’Automobiles(欧州自動車工業会)」が規定するグレードです。
アウトバーンのような高速・長距離走行でも性能を確保するように、省燃費性能より耐久性を重視する傾向があります。
ガソリンエンジン用は「Aカテゴリー」、軽負荷ディーゼル(普通車や小型トラック)用の「Bカテゴリー」、クリーンディーゼル用が「Cカテゴリー」、高負荷ディーゼル(中型・大型トラック)用を「Eカテゴリー」に分類。
それぞれのグレード対象エンジンを明記して、規格自体が更新されるスタイルを採用しています。
●JASO規格
日本の「自動車技術会(JSAE)」の「自動車企画組織(Japanese Automobile Standards Organization)」が制定する自動車や関連部品に関する規格です。
主にバイクの4サイクルエンジンや国産のクリーンディーゼルエンジンに使用されるオイルの規格として新たに使われています。
2005年に「DL-1」からはじまり、2021年には「DL-2」が制定されました。ちなみに高負荷ディーゼル(中型・大型トラック)用に「DH-2」という規格もあります。
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10年ぶりにSP/GF-6という新規格が規定されたのは、API規格では「SP」、ILSAC規格では「GF-6」という進化したグレードが誕生したということです。
新規格は総合的に性能が向上しているといわれていますが、APIは「SP」グレード、ILSAC規格では従来型のエンジン向けに「GF-6A」、省燃費型エンジン向けには「GF-6B」と分けられています。
そしてこのグレードは、さまざまなエンジン試験の結果で制定されており、試験内容がより厳しくなり、全体的な総合性能が向上しているのだそうです。
では、これまでの規格と比較して何がどう変わったのでしょうか。ベテラン整備士のH氏に聞いてみました。
「新油時と劣化運転後の燃費テストの基準が引き上げられ、SP/GF-6はこれまでよりも高い省燃費性と持続性を持っているとされています。
また油温が上がりにくい走行をシミュレートして、エンジン内部のスラッジやワニスなどの汚れの生成を防止する清浄性能のテストも評価項目が増やされ、強化されました。
さらに高速走行もシミュレートし、劣化による粘度上昇などを測定するテストも強化。高い酸化安定性を確保しないとSP/GF-6には認定されません」
新たに追加された項目もあり、直噴ターボエンジンが低速かつ高負荷状態のとき、点火プラグによって燃焼させる前に燃料が着火する「低速早期着火(LSPI)」という症状を防止する性能評価や、オイルに混入したススなどがタイングチェーンの摩耗を引き起こす症状を防止する性能試験も導入されました。
新技術が投入されたエンジンには、それに見合うだけの性能を持ったオイルが必要ということなのでしょう。
「省燃費性」と「清浄性」、「酸化安定性」に加え「タイミングチェーンの摩耗抑制」までをクリアし総合的にレベルアップさせたグレードがSP/GF-6といえそうです。
■コンパクトカーで試して違いを実感! 軽自動車はどう?
では、新たなSP/GF-6は、前規格と比較してどれだけ違いを体感できるのでしょうか。前出のH整備士は次のようにいいます。
「弊社の代車としても使用している2015年式のトヨタ『ヴィッツ』に入れてみたのですが、滑らかな回転フィーリングやパワーの出方がスムーズになるなど、明らかに違っています。
またそれ以上に清浄性や劣化を抑える安定性が向上しているおかげでしょうか、メカニカルノイズも軽減しました。
ハイブリッド車向けには『GF-6B』がメインになってくると思われますが、同じようにスムーズさと省燃費性、劣化抑制による性能維持が期待できます」
コンパクトカーでそこまで違いが体感できるのであれば、ほとんどの普通車ならオイルによってかなりフィーリングの違いを体感できそうです。
では、軽自動車にもSP/GF-6グレードを入れれば効果は期待できるのでしょうか。
「まだ試していないので断言はできませんが、軽自動車に関してはそこまで高性能なオイルは必要ないかもしれません。
というのも、軽自動車のエンジンはそもそも排気量が660ccと定められており、最高出力も規制されているため、そこまでの違いを体感しにくいと思います。
ただホンダ『S660』や『N-ONE RS』、スズキ『アルトワークス』といった軽スポーツであれば、高回転域でのスムーズさやエンジンやタイミングチェーンに負荷がかかるスポーツ走行などで違いが体感できるかもしれません」(H整備士)
ここで難しいのは、新しく高性能なオイルは必ずしも全部のエンジンに最適とはいえないことです。
旧車などはエンジンの設計年数も古いため、高性能すぎるエンジンオイルを使用するとオイル漏れなどを起こす可能性もあり、やはりクルマの製造年数に準じた「グレード」と「粘度」を選択する必要があるのだそうです。
「最近人気になっているネオクラシック(旧車)にも新規格のエンジンオイルは不向きかもしれないです。高性能すぎてエンジンとのマッチングも良くない可能性もあります。
当時のエンジンは当時のオイルの性能を考慮した作りになっており、現在の高性能オイルを想定していません。
パーツの精度なども当時と現在ではかなり違いますので、壊れないとしても期待するような効果が得られない可能性はあります」(H整備士)
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今回のSP/GF-6に関しては、ハイパワーなスポーツカーだけでなく、10年落ち程度までの少し古めのクルマにはかなり効果は期待できそうです。
直噴エンジンがもてはやされたのが15年前くらいで、当時の性能は現在のレベルほどではないことを考慮すると、スラッジやススなども溜まりやすい傾向にあります。
その点、SP/GF-6では清浄性も高く、オイル自体の劣化による性能低下も抑えられているとのことで、SP/GF-6グレードのエンジンオイルを使用すると違いが体感できるかもしれません。